表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

count4:世界が壊れたという認識ができているか?


「何でこんな時に限ってアタシを置いてくのよ馬鹿!!」


奈悠はそう叫び、俺の方へ突っ込んでくる。


「すまん、奈悠。悪かったから!!」


俺は奈悠に殴られることを恐れ、目を瞑った。


だが、そんな危惧していた事は全く起こらず予想外の出来事が起きていた。


あの、中華鍋でいつも俺のことを殴る奈悠が、



─その両手を俺の背中に回し抱きついてきたのだ。




「─えーと、奈悠さん?」


奈悠は俺に名を呼ばれたことに反応を示さず、ただ言葉を紡ぐ。


「いつも通りにアンタを起こしに行って……、でも、アンタが、─銀がいなくてッ!!」



─ああ、俺はとんだ馬鹿野郎だ。



奈悠コイツは女子だ。


こんな地獄のような世界の中で、たった一人でここまで逃げてきたのだ。


あの、─阿鼻叫喚が渦巻く壊れた世界を。



「ああ、……悪かったよ奈悠。こんな事になるなんて思ってもなかったんだよ」


「ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、……銀の馬鹿ッ!!!!」


そう叫ぶと奈悠は人目もはばからず、泣き出してしまった。


俺に抱きつきながら泣いてしまったので、もちろん俺は身動きが取れず、彼女が泣き止むまで彼女の頭を撫で続けていた。



         ◇




辺りは暗闇に包まれており、辛うじてリュックに入っていた懐中電灯だけが弱々しく俺たち3人を照らしている。


「幼なじみ……ですか」


「ああ、毎朝人のことを中華鍋で殴るバイオレンスな幼なじみだがな」


その後結局、泣き疲れた奈悠は俺の膝の上で眠ってしまっていた。


相当気を張っていたのだろう。


今は身動き一つせず、すぅすぅと小さな寝息をたてている。 


「驚かせて悪かったな鷹瀬」


「え─?」


「普段はもっと強気な奴なんだが、今回ばかしはさすがにコイツでもそういう分けにはいかなかったんだろうな」


「しょうがないですよ……、私もこんな世界で一人に、いえ─銀くんに助けてもらってなかったらどうなってたか分かりませんから」


「そうか……」


俺は居たたまれなさに襲われ、先程鷹瀬に持ってきてもらったラジオに手を伸ばし電源をつける。


『時刻は午後七時をお知らせします。ニュースの時間です。今朝○○県で起きた暴動は日本各地に広がりを見せ、多数の負傷者や死者が出ています。政府は、国民に必要以上の外出を控え─』


「すごいことになってるんですね……」


「ああ、そうみたいだな」


おそらく俺の推測は当たっている。


あいつらは動死体ゾンビであり、とある特殊な病原体の感染爆発パンデミックによって世界は狂ってしまったのだろう。


実感は全く湧かないが真実味だけが溢れるその推測に、俺は恐ろしさを抱くことも悲しみを漏らすこともせず、ただ推測こたえだけを繰り返していた。


「……どうしたんですか、銀くん?」


─話すべきなのだろうか、彼女たちにこの俺の狂宴の推測しんじつを。


この事を話してしまえば、更なる絶望に彼女たちは呑まれてしまうのではないだろうか。


俺は生憎、天才でも神様でもない。


真実ほんものは知らないし、この俺の推測はただの凡人が考えついた机上の空論にすぎないのだ。


そんな危うい推測を伝えてしまってもいいのだろうか。


─だが、このまま何も知らなすぎることも危険すぎるのも事実。


だからこそ俺は奈悠を無理矢理起こし、彼女たちに俺の推測しんじつを伝えることにした。


        ◇



「─感染爆発パンデミックですか?」


鷹瀬は俺の目の前で驚いた目をしている。


─のだが、奈悠は違っていた。


「ちょっと待ちなさいよ、銀」


「何だ、奈悠? わからない言葉でもあったのか?」


それもそうだ。


なんたって俺の推測は馬鹿げてる。


そう自分でも感じられる程だからな。


特に感染爆発パンデミックや、生物学的危害バイオハザードなどの単語は普通の女子なら聞くことのないものだったのだろう。


「あー、感染爆発パンデミックっつーのはな……」


どんっ!!!!


奈悠が床を思いっきし叩いた音だった。


「─違うわよッ!! 何で琉奈さんがアンタの制服を着てんのよ!?」


ビシッと鷹瀬を指差す奈悠。


確かにその先には学生服に身を包んだ美男子のような、─いや正確には男装女子の鷹瀬 琉奈がいた。


いや~、コイツは俺にも予想外もうてんだったぜ。


「あ、あの、奈悠ちゃんこれはね……」


「そりゃ、逃げる時にスカートだとひらひらしてて邪魔だろ? だから鷹瀬には着替えてもらったんだよ」


俺は鷹瀬の説明を遮り、奈悠に言った。


それに鷹瀬はこの学校の生徒じゃないので、体育着などの着替えもあるはずもなくこれしかなかったのである。


「じゃあ、アタシはどうすんのよ!?」


「いや、お前はここの生徒だし、体育着とか置いてあんだろ?」


そ、そうだけど……、と納得がいかないのかぶつぶつと何事かを呟いている奈悠。


「どうしたんだよ奈悠?」 


「─何でもないわよ!! この馬鹿!!」


ああ、意味不明りふじん


まあ奈悠の馬鹿は今に始まったもんでもないしな。


だけどな、一つ言っておく。


─乙女心っつーやつは分からん!!


「………はぁ、もういいわ。それでさ、話戻すけど感染爆発パンデミックだっけ? アンタの推測は?」


突然の切り換えに多少は驚いたものの、

俺は奈悠の言葉に頷いた。


「ああ、おそらく。さっきラジオで聴いた話じゃ暴動なんて言ってたがな、暴動じゃ片づけきれない矛盾がいくつかあるんだな」


そうなのだ。


現在俺たちが置かれている状況と先程のラジオの説明には何点かの矛盾が生じているのである。


「矛盾……ですか?」


不思議そうな顔でこちらを見る鷹瀬。


「そうだ。まず第一に政府や警察の対応がないこと。暴動の対応にあたるとか言ってたが、ずっとそれだけで成果とか結果とかも報道されないだろ?」


「で、でもただ襲われて身動きがとれないだけかも─」


鷹瀬が言うことももっともだ。


確かに警察や政府機関は動死体ゾンビどもに襲われてるだけかもしんないからな。


けどな、こうしてる間にもかかわらず二つ目の矛盾は生まれ続けている。


「矛盾その二、だ」


「えぇっ!?」


「まず耳を澄ましてみろ鷹瀬、奈悠」


「は、はい」

「え、えぇ」


俺にいわれたとおりに目をつぶり音を聞く鷹瀬と奈悠。


「何が聞こえた?」


「ぞ、─唸り声と低くてまるで機会の音みたいな……」


おお、近いぞ鷹瀬。


「これってもしかしてヘリコプターの……」


よし、それが正解むじゅんだぜ奈悠。



「ああ、それが矛盾その二。この音は多分自衛隊のヘリの音だろーな。これだけ動けるのに助けにこない、暴動を鎮圧できないのはおかしいだろ?」


一応自衛隊だって武力を持っている。


その必要最低限の武力には、銃だの、戦車だの、軍用機だのすげーもんが集まってんのにそれでも対処できないとかあり得ないだろ、普通は。


「そ、それはそうですけど……」


どうやら鷹瀬はまだ現状を信じられないらしい。


「それなら矛盾点その三。しかもこれが最も重要な証拠ファクターだ」


「まだあるんですか!?」


「ああ、三つ目はな、暴動・・としてこの出来事が報道されてることだよ。鷹瀬も見ただろ? あいつらは腹が穿たれようが、顔が抉られようが、血まみれになって俺たちに襲いかかってくる。素直にゾンビならゾンビ、謎の病原体なら謎の病原体だっていえばいいのに暴動の一言で済ましちまってる。きっと俺たち一般人に隠しておきたいことがあるんだろうぜ」


「─そ、そんな」


鷹瀬は信じられないという顔をしているが俺はそうは思っちゃいない。


今までゲームなどの創作物を見てきたからだろうか。


こんな状況になってしまった以上ここは動死体ゾンビの蔓延る創作物フィクションが現出してしまった世界なのだと信じるしかないというのが俺の心中だった。


「そこまで推測したならさ銀、……これからどうすんの?」  


奈悠が困ったように尋ねてくる。


この動死体ゾンビの蔓延した世界でこれからの事を選択するのは最も重要な行為であり、生死に関わる決断みちだった。


俺はその重要な決断みちを告げる。


「─とりあえず拠点を作ろうと思ってる」


「拠点?」


ああ、そうだ。


こんな危険な世界では拠点がものを言う。


安全な場所を確保することは、この破滅の中で生きるか死ぬかの明暗を分けると言っても過言ではないからだ。


「安全な拠点を作れば、いつでも休めるし動死体ゾンビどもから逃げることも可能だからな」 


「そんな事が可能なんですか!?」


安全という前向きな言葉を聞き、さっきまで現実に困惑していた鷹瀬が声を上げる。


「確かに絶対に可能だ、とは言い難い。

あいつらがいつどっから来るのかは予測不能だからな。でもな、考えてもみろよ鷹瀬。こんな動死体ゾンビに成り果てた奴らが大勢いる学校ここよりも、どっか別の場所に移った方が安全じゃないのか?」


「そ、そうですけど……いったいどこに?」


「まあ、それは明日のお楽しみさ」


そう言うと俺は懐中電灯の明かりを消した。


「─し、銀くん!?」

「─ちょ、銀、何してんのよ!?」


女性陣から俺に対して非難の声が集中する。


そりゃいきなり電気を消したのだ。


起こられるのも当然だ。 


「まあ、何にせよ移動は明日の明け方だ。今晩は俺が起きて見張っといてやるからとっとと休んどけよ」


最初はぶーすか文句たらたらな二人だったが、体感にして小一時間もすれば彼女たちは二人そろって規則正しい寝息をたてていた。





あーあ、ホント男って損な役回りだよなあ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ