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Trickster:幸せの巡り方



『とまあ俺の独り言は以上だ。じゃあな桜坂、気をつけて帰れよ』




そう言うと俺は保健室を後にする。


あ~、しかしあれだな。


何かやべえ青春って感じ。


まだこんなにも青春が送れる奴らがいたなんて驚きだ。


『─あなたにしては上出来じゃないかしら?』


『うぉおおおい!?』


唐突な声に驚き、俺はその声の方を見やった。


相変わらず変わらない低身長と美しく煌めく黒髪。そして得意のしょっか─


『……永理くん? 何故かあなたから私に対しての侮辱の心が見て取れるのだけどどういう事かしら?』


……いや、何も言わないことにしよう。


『気にすんな。それより零悠、毎度ながら盗み聞きなんて趣味がわりいな』


『毎度ながら、と言うのであればあまり気にしないで欲しいのだけれど?』


溜息を吐き、呆れた目でこちらを見てくる零悠。


『いやいや、呆れてるのは俺の方だからね!?』




         ◇





『おっかえりー!! えーくん、れーちゃん!!』


俺と零悠が職員室に戻るとひときわ大きい女性の声。


給湯室から聞こえた声に、俺と零悠がその方向を見やると出てきたのは、蒼髪の女性教師。


『……白那、ここは職員室だぞ』


『えーくん、あたしだってそれくらい知ってるよ~!!』


だったら静かにしてくれ!!


こっちは毎回ほかの先生方からの視線が痛いんですよ白那さんや!?


『白那さん、私もコーヒー貰えるかしら?』


『はーい、れーちゃんちょっと待っててねー!!』


ぱたぱたと再び給湯室に向かう白那を見送り、俺は自分の席に着く。


─平和な日常とはこんなものなんだろう。


汗水垂らして生徒の問題を解決して、友人と語らう。


確かに忙しいっちゃあ忙しいが、何か毎日が充実してるって感じだな。


─人ですらない俺たちがこうして人並みの生活が出来ているのは本当に幸せなことなのだと今更ながら実感する。


『どうしたのかしら永理くん?』


『…いや、何でもねえよ。ただな幸せすぎんじゃねえかなって思っただけだ』


永遠と呼ばれるこの世から除外された理。


それは幸せという世界を選択した俺たちに備わっていた、─いや今現在も宿っている人智を超えた力。


その力のせいで幾度となく俺は記憶を偽り、零悠は生きることを放棄し、白那は同じ世界を繰り返してきた。


結果、それでも俺たちは生きて抜いてきた。


どんなに辛いことがあろうと、逃げ出そうと、死んでしまおうとも俺たちはそうやって生きてきたのだ。


そんな世界で掴み取れた幸せ。


周囲からは普通に見える俺たちの世界いまは本当に本物なのか。


ふとした瞬間にこの幸せは実は偽りで、幸せが、─零悠や白那、今の俺は簡単にすり抜けてどこまでも落ちていくのではないかと恐怖さえする事もある。


『えーくん、あたしたちは今とっても幸せなんだよ? それでいーじゃん!!』


白那の言葉が俺の中を広がってゆく。


『…そうだな』



そうだ、─これでいい。


これでいいのだ。


俺たちが例え人でないに幸せを掴み取る権利はある。


その機会が俺たちに巡ってきたと思えばいいのだ。


─俺たちが廻らずとも、世界は廻る。幸せは常に流転し、いつかは巡り会える。


そう一人で納得した俺の目の前にはいつもと変わらぬ日常、─零悠と白那の笑顔があった。


         























だが彼らの幸せは長くは続かない。


非日常が彼らを襲うのはそう遠くはないからだ。


そしてその非日常の中で、彼らは決断する。


世界を改変すること、そして



─彼らと異質な永遠と対峙することを。






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