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Interlude:鷹瀬の女として決めたこと


「ではお嬢、何かありましたらご申しつけください」


奈悠ちゃんと莉愛さんをお部屋に案内して私は自分の部屋に戻ってきた。


「分かりました」


私が頷くのを確認すると黒田さんはお祖父ちゃんの部屋の方へと歩いていった。


私もそれを見送ると部屋の扉を閉めベッドへと倒れ込む。


「ふぅぅ……」


この2日間色々なことがありすぎた。


私はあの日偶然早く起きちゃって、する事もなくて家を出た。


でも待ってたのはいつもの日常ひびじゃなくて動死体ゾンビたちだった。


動死体あれを見たとき、腰が抜けてもう駄目だと思った。




─でも、銀くんが助けてくれた。




こんな私を見捨てずに、どこまでも見捨てずにここに連れてきてくれた銀くん。


動死体あんなのを見ても狂わないで、自分の家が壊れたって聞いても弱音を吐かないで、いつも私たちのことを助けてくれる。


あんなにボロボロになっても自分の事じゃなくていつも私たちの安全を考えてくれる。


銀くんは強い、でも私は─


「……私は」


ずるい、果てしなくずるい。


いつも銀くんや黒田さん、奈悠ちゃんや莉愛さんに任せて隠れ回ってるだけだから。


この世界じゃ動死体あれと戦わない人たちは死んだも同然、─そんなのは分かってる、分かってるけど……。


私にはまだ─



        


「……ん」





ぐらぐらぐら。


「……なさん」


ぐぅらぐぅらぐぅらぐぅら。


身体が揺れている、それにこれは─


「琉奈さんっ!!」


「……奈悠ちゃん?」


目の前にいたのは奈悠ちゃんだった。


「琉奈さんすみません。せっかく寝てたのに起こしちゃって……」


ばつが悪そうに言う奈悠ちゃん。


そっか、私いつの間にか寝ちゃってたんだ。


一応昨日は銀くんのおかげでちゃんと眠れていたはずなのにそれでも寝ちゃってたのか。


「……琉奈さん、怒ってますか?」


私が起きたてで思考があまり追いついてなくて何も答えなかったので、目の前では奈悠ちゃんが申し訳無さそうに私の顔をのぞき込んでいた。


「違うよ奈悠ちゃん!! わ、私起きたばっかりで頭が追いついてなかっただけだから怒ってないよ!!」


「そ、それならいいんですけど……」


「それで奈悠ちゃんどうしたの? 何か困った事でもあった?」


いいえそういう事じゃないんです、と奈悠ちゃんは私の言葉に首を振る。


「ちょっとお台所に……」


「へ?」


私は奈悠ちゃんの言葉にただ驚くしかなかった。


分かったことはどうやら奈悠ちゃんは私の家の台所にいきたいらしいということだった。


「そ、そっか。なら一緒に行こっか?」


「あ、ありがとうございます」


       

         ◇



「奈悠ちゃん、あれ何に使うんだろう……?」


奈悠ちゃんと分かれた後、私はすっかり暗くなった縁側で夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げてそう呟く。


というかそう言う呟きを漏らさざるをえなかった。


あの後二人で台所へと向かったところまではまだ大丈夫。


問題というか疑問はそこからだった。


「─お嬢、いかがされました?」


不意に掛けられた声に振り向く。


祖の声の主は廊下の奥から歩いてきた、─黒田さんだった。


「あ、黒田さん」


「どうしたのですか、こんな所で?」


そう言って黒田さんは私の隣へと寄ってくる。


「えーと、ね? 中華鍋って料理以外でどう使うんだろうって考えてたの」


─そう、台所に行った奈悠ちゃんが持って行ったのは片手用の中華鍋だった。


夜闇に沈んだ庭に春の冷風が吹き抜けていく。


私の間抜けな質問に答える気はないのか、はたまたその質問の解答について考えてくれているのか、黒田さんは押し黙っていた。


「……ごめんなさい黒田さん。変なこと聞いちゃって」


いいえ、お嬢謝らないでくださいと焦ったように首を横に振る黒田さん。


「私は確かにお嬢の問いに対する答えを一つ持っているかもしれません」


「─え?」


「昔の話ですが市内で変質者が発生した際に襲われた女子中学生がその変質者を中華鍋で殴り飛ばす─」


もう私の中には黒田さんの声は入ってきていない。


ただ、たった一人の言葉こえ





『ああ、毎朝人のことを中華鍋で殴るバイオレンスな幼なじみだがな』





まさか奈悠ちゃん、銀くんに─


そう考えだしたら何故か止まらない。


黒田さんは何か言ってたみたいだったけど私はそれを気にもとめずただ目的の部屋へと急いだ。


私のせいで銀くんは疲れてる。


いくら幼なじみの奈悠ちゃんだったとしても中華鍋起床それだけはやめてほしい。


せめて銀くんの疲れが取れるまではぐっすりと休ませておいてあげたかった。




「─銀くん?」

 



いつもは出さない全力で私は廊下を走り銀くんが眠っているであろう部屋の扉を開ける。


だがそこには奈悠ちゃんの姿は無く、ただ眠っている銀くんだけの姿。


どうやら私の取り越し苦労だったらしい。


というかそもそも奈悠ちゃんだって銀くんが休んでいるであろうことは分かってるわけだし起こすわけがなかったのだ。 


「……から」


「─え?」


銀くんの口から漏れた微かな声。


起こしてしまったのかと一瞬思ったけどそうではなくてただの寝言だったらしい。


もう、─驚かさないでくださいよ銀くんってば。


「俺が……から」


「まだ……続いてるのかな?」


銀くんの寝言がまた口から漏れる。


微かな、とってもちっちゃなこえだったけどそれは─





「……鷹瀬、俺が絶対護るから」





「─!?」


それは私に向けられた決意の言葉。


それは寝言であってここにいる私にではないのかもしれないけど確かに私に向けられた言葉だった。



─今まで何してたんだろう、私は。



馬鹿だ、─馬鹿は私だったのだ。


ただ何も出来ずに逃げ回ってる自分を嫌悪して乏して貶して、ただ自分がずるいと言うことにして、このどうしようもない世界から逃げようとしていただけだったのだ。





─私に足りなかったのはたった一つの覚悟おもい、そして何かを犠牲にしてなお何かを護る決断つよさ





「……私は」


銀くん、ごめんね。


銀くんは年下なのに銀くんに気づかされて、銀くんに励まされて、銀くんに護られて─


これからは私も皆を、そして何より銀くんを─


「あなたを、……護り返せるようになりたい」


私はその決断みちを胸に秘め、お祖父ちゃんの元へ向かうべく銀くんの部屋を後にした。



         ◇



「お祖父ちゃん、入っていい?」


「……ぉお、琉奈か。いいぞいいぞ俺も暇だったからなぁ」


失礼します、と私はお祖父ちゃんの御部屋へ入る。


そこには机の前で何をするということもなく手持ち無沙汰なお祖父ちゃんの姿。


「どうした琉奈、怖くて眠れんのか? だったら俺が─」


「お祖父ちゃん、いえ─鷹瀬 龍牙様、この度は真面目なお話でここに参りました」


ぴくっとお祖父ちゃんの眉が動く。


もうそこにいたのはいつものお祖父ちゃんではなく、組の頭領としての鷹瀬 龍牙だった。


「そうか、悪かったよ琉奈。─で、何だ話ってのは?」


「はい、─実は、私にあれを譲ってはくれませんか?」


「あれ……とは?」


一呼吸。


その一拍を置いて私はその覚悟ことばを言った。




「─今一度私にあの刀を下さいませんか?」



これが私の覚悟のカタチ。


もう逃げることは出来ないし、許されない。


「本気か……琉奈? ここは安全だ、それに例え動死体あいつらが来たとしても俺だって、柾だって、それにあのボウズだっている。お前がぶきを持つ必要は─」


「これは私の、─鷹瀬の女としての決断かくごです。私は銀くんや黒田さん、お祖父ちゃんに護られるだけじゃない、─皆を護り返せるようになりたいから!!」


一点の曇りもない、ただ皆を護りたいその気持ちだけを目の前にいる頭領に私はぶつける。


例え相手がお祖父ちゃんであれ、私の絶対に曲げられない絶対の覚悟。


「そうか、……鷹瀬の女、か」


お祖父ちゃんはそう言って私から視線をはずし窓の外を見つめる。


そしてふぅっと一息吐くと床の間に置いてあった杖へと手を伸ばした。


これが私が過去に一度手にした仕込み杖と呼ばれるぶきだった。


「手入れはずっとしてある。……正直これはお前に持たせてたくねぇ、だがなお前が鷹瀬の女としての覚悟を決めたならこれはお前のもんだ」


そう言ってその仕込み杖を私に渡してくる。


「……ありがとうお祖父ちゃん」


「気にすんな、そいつはジジイから可愛い孫へのプレゼントだ。受け取っておきな」



私はもう逃げない。


皆を護るため、そして銀くんを護り返すため。




─私はもう止まらない。




そして私はその決断みちへと足を踏み入れた。



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