episode1 ―1―
胸が重い。
鉛の固まりを飲み込んだような、まさにそんな表現が似合う。
僕は、重くて動きたくない。
しかし、それを体全体が爆発しそうな衝動が、許さない。
この衝動は、じっとしていてはとてもじゃないけど我慢できない。
僕は、そのやりきれない思いを晴らすようにして、部屋をかなり長い時間歩き回っている。
勿論、これではすっきりしない。
僕は、巣から落ちた雛鳥のように、意味もなく、気持ちを逸らすためだけに、ただ歩き続ける。
僕は、一枚の紙切れを手に取った。
さっきから何度も、この紙切れを手にしては思い巡らせていたことがあった。
ほとんど廃人と化した僕の、唯一の思い事―
この紙切れを僕に渡したのは、大学生の従兄弟だった。
一年ほど前に僕の家に来たとき―今現在これが最後の訪問になっているが―ふと思い出したように一枚の紙切れにペンを走らせると、僕に手渡して言った。
―なんか噂で聞いたんだけど、どんな悩みもすべて解決するという相談所があるんだ。
ここに住所書いてやったから、もしなんかあったら行ってみな。密かに評判あるらしいぜ。 あ、行くときは一人でな。なんか一人じゃないと、入れないらしいから。
それからずっとほったらかしたままだったが、最近この紙切れを探さざるをえなくなった。 僕は紙切れを手にして、従兄弟の言葉を何度も何度も頭の中で繰り返した―
僕は決心した。
紙切れを引っ掴むと、そのまま外へ出かけた。
紙切れに書いてある住所は、古い家が一軒建っていた。
といってもこじんまりした和風の家ではなく、結構大きな洋風の家だった。
かなり荒れ果てていて、一見人が居そうにも見えない。
しかし、最後の糸にすがるように、そーっとドアを開けた。
―カラだ。
目の前には誰もいない。
それどころか、ちっとも相談所か何かをやっている雰囲気は全くなく、ただの埃を被った家だった。
―さっきから消えていた鉛の固まりと爆発衝動が、一気に戻ってきた。
もう何もかもが消えた。これからはこの衝動を抑えていくしかないのか。
へたへたと座り込んだとき、
『ようこそいらっしゃいました』