1話
「干し葡萄いる?」
「あぁ」
「肩揉んであげよっか?」
「頼む」
「他に欲しいもの有る?」
「………」
「却下」
「…まだ何も言って無いんだが」
「私を一人にして、何日間行きられると思う?」
「……さぁな」
「いつまでもメソメソしないで」
「………」
「明日のご飯は?怪我したらどうするの?私じゃ骨折の治療なんか出来ないよ?車の運転も出来ないし、修理なんてもっと無理」
「あなたが居ないと、私生きて行けない」
「………現金なやつだ」
「誰がそうさせたと思う?」
言いながら、胸の前の頭を撫でる。
指を差し込んだ頭頂部は、返り血と泥でバリバリになっていた。元はサラサラだった茶髪はドス黒く染まり、むせ返る様な死の薫りを放つ。
「まぁ、何があっても死なせないけどね」
首に手を回して抱きしめる。私より大柄なはずの体は、弱々しく、足の間にすっぽり収まっていた。
「ちょっと寝たら?」
「……眠くない」
「眠れる時に寝るのも義務だよ」
「………」
「お休み」
足の間で安らかに眠る体を引き寄せる。
何だか、こうしないと彼が消えてしまいそうな気がした。
空を見上げる。
まだ、寒さが残る空は満点の星空で、花が芽吹き出していた。昔の人は北斗星を見て方角を知ったそうだ。
私には無理だろう。あの夜空に吸い込まれそうになる。いつまで見ていても、星々は動いて見えない。
「ーーーァィ……」
………もう、やめてよね。
きゅんとしちゃうじゃない。
鉄と火薬で身を覆い、言葉と想いで心を隠したとしても。
彼はやはり、弱いのです。
私が、守ってあげなければ。
明日のご飯はお肉にしよう。
この光瞬く世界の中で