第一話「転生の真実」
目が覚めると俺は赤ん坊になっていた。
これは転生が上手くいったってことなのか?
呼吸をするのも随分と久しぶりのような気がする。
呼吸をしなくちゃいけないことがなんだかひどくじれったい。
あの小役人が言ってたことを鵜呑みにするとここは前世の俺が生きていた世界より上位の世界ってことらしいけど今のところよくわからない。
なにせこの不便な体から見えるものといったらベビーベッドの柵の隙間から見える室内と天井くらい。
室内に置かれた家具は落ち着いた雰囲気で統一されており、元いた世界でアンティークと呼ばれていた家具のように長い歴史を感じさせるものが多い。
この世界の歴史なんて知らないけど。
まぁ、生まれながらに勝ち組とかなんとか言ってたからある程度裕福な家に生まれたのかもしれない。
―新しい体には慣れたかな~?―
頭の中で不快な声が響いた。
―不快って……僕の美声をそんな風に感じてたのかい? まぁ、いいや。それで? 新しい体に違和感はないね?―
不快なのは美声じゃなくてあんただよって言ってやりたい。
体には違和感はない。
―しっかり聞こえてるからね? ていうか僕が君の心を読んでるのをわかってるよね? 普通に質問に答えてるし―
二度目の人生がどんなに嫌だったか、あの不快な小役人に俺の心中を思い切り吐き出したいけど、いまだに喋ることすらできないこの身が情けなく、辛い。
―君の文句が暴風のようにこちらに流れ込んで来たよ。けど僕も仕事なんで許してね。さて、嫌われてるみたいだしちょこっとだけ説明して天国に帰るよ。まぁ、この情報は僕からの餞別だと思ってくれ―
餞別も何も当然の義務じゃないか、と思ったが黙って話を聞いてやることにした。
―偉そうに……ここは君の居た世界より上位の世界だよ。上位っていっても君が元いた世界より文明なんかは進んでいないかな? まぁ、モノにもよるんだけど、だいたい君の前いた世界でいう中世ヨーロッパ程度の文明だと思ってくれるといい。じゃあいったいどこが上位なのって言われると、なんとこの世界では不思議なとんでもパワー、魔法が使えるんだ。あとは寿命が君の居た世界より飛躍的に長い。どう?どう?なかなか素晴らしい世界でしょ?―
魔法が使えるっていうのには少し興味が湧いたけど、寿命が元の世界より長いというのはそれを補って余りある苦痛だった。
―あっそう、夢がないなぁ。まぁ、いいけどさ。あとは君のことだね。優位転生だったから君はこの世界では全ての分野で無敵! 敵わないのは僕や僕の上役たちくらいかな? 能力全開で僕に復讐しようとか無駄だから(笑)。あと、君の身分だけど、大国の公爵家の長男ね。なんで王子じゃないのかってことなんだけど、王様って結構苦労が多いらしいからね。具体的には天国の王様が、王になるくらいなら貧民の方が自由度高いって文句言うから、王子は止めました。まぁ、公爵家にちょうど生まれる予定だった子供もいたから都合よかったしね~。ここまででなんか質問は?有っても答えるかどうかは気分次第だけどね―
お前を消す方法……いや、なんでもない。
聞きたいことはいろいろあるんだけど、どうせ答えてくれないだろうから一つだけ。
さっき、ちょうど生まれてくる子供がいたって言ってたけど、その子供って俺のことじゃないよな?
俺が転生するのに都合よかったって言ってたけど……その子供、どうした?
―なかなか鋭いねぇ。僕がなんて答えたら君は満足かな? 肉体については君にちゃんと受け継がれているよ?でもそうだね~その生まれてくるはずだった子供の意志や人格、魂という点では……今君がその赤ん坊の中で思考しているのが答えかな~? この答えで君が満足してくれたかどうかはともかく僕は帰るよ。それじゃあ、せいぜいこちらが楽しめるような人生を送ってよね。あ、そうそう、自殺なんてした時にはどうなるか、賢い君ならわかるよね?―
おいっ!! ちょっと待て!!
何度頭の中で呼びかけても、あの不快な声が返事を返すことはなかった。
言っていた通り天国に帰ったらしい。
生まれるはずだった子供の魂……心を俺が消してしまった。
この変えようのない事実は俺に重くのしかかり、目の前が真っ暗になった。
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