第十六話「教育係」
お待たせして申し訳ありません。加えて申し訳ないことに、少し短めです。
というのも、章管理はしていませんが今回でだいたい一章が終わりということになります。
処女作で苦労しながらも、なんとかここまで来たという感じです。今まで読んでくださった方々はありがとうございました。
もちろん今後も完結に向け頑張るので、これからもよろしければお付き合いくださいませ。
影との話し合いも無事終わり、これからは定期的にこの世界の情報が入ってくることとなった。
ただこの屋敷に忍び込める人間は、影たちの中にも少数しかいないようで、お互いの連絡手段をどうするかが、問題となったのだが、それは影がなんとかするというので、任せてみた。
金で成り立っている主従関係とはいえ、ある程度の信頼関係は必要になってくる。
こちらがいつまでも疑ったり軽んじたりしていては、良好な関係は築けない。
今後はもう少し影たちのことも大切にしていかないとな。
さて、影はいったいどういう形で俺と連絡を取るのかと思っていると、それは意外な形でやってきた。
俺が部屋で本を読んでいる時、普段なら仕事をしているはずの父上が部屋に入ってきた。
父上の後ろには、銀糸の髪を持つ見知らぬ若い女性が付き従っている。
「アレス、前に言っていたお前の教育係が決まったぞ。名をアウラ様という。これからはアウラ先生と呼ぶんだよ。この方はさる王家の生まれだが、少し事情があってね。この度はお前の教育係になっていただいた。彼女に従って、しっかりと勉強するんだよ? いいね? さぁ、先生にご挨拶しなさい」
「初めまして、アウラ先生。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね、アレス様」
俺が頭を下げると、アウラ先生も丁寧に一礼を返した。
その身のこなしはとても優雅で、育ちの良さがわかる立派なものだった。
「さて、私は執務に戻るが、これから二人で今後の勉強の計画でも話し合うといい。夕食はみんなで一緒に食べよう。アウラ様もどうかご一緒にどうぞ」
「……そうですね、ご一緒させていただきます」
先生は少し迷うようなそぶりを見せたが、最後には一緒に食事をとることになった。
満足顔の父上が退出すると、俺とアウラ先生の二人きりになる。
勉強の計画と言っても、いったい何から話せばいいのかと考えていると、先生が口を開いた。
「アレス様、私が影たちと貴方の連絡を取り合うことになっている者です。お勉強ももちろんお教えしますが、その合間に、影たちからなにか情報があればそのことも加えてお話しいたします」
そう言った先生が俺の手に握らせたのは、影たちに連絡係に持たせるように渡した割符だった。
確かめてみたが、本物である。
俺が驚いた顔で彼女を見つめるが、彼女は澄ました顔をしている。
影たちがこんなにも堂々と、連絡係を寄越したことにも驚いたが、彼女の持つ銀髪が驚きをより一層深いものにしていた。
「確かに連絡係を寄越すと言っていたが、まさか女性で、王族の方とは思いませんでした。もしかして、その髪や容姿は変装ですか? 」
「いいえ、この姿も、この髪も本物です。あの者たちとは以前から付き合いがあり、少し込み入った事情があるのです」
その事情とやらを聞いてみたかったのだが、彼女の言葉にはこれ以上話すことはないという拒絶の意思が感じられた。
「わかりました。これ以上は詮索しません。ですが、私は貴女にこれからどういう態度で接すればいいでしょうか? 先生と教え子のように? それとも影たちと同じようにでもいいのですか? 」
「我々と影の関係はあくまで秘密にすべきです。そうであるならば、教師とその教え子という関係が自然でしょう。ああ、そうそう、私のことを姉さんと姉弟のように呼んでも構いませんよ」
これまでと打って変わって悪戯っぽく笑うアウラの表情は、これまでの大人びたものとことなり、随分と幼く見えた。
大人びた見た目よりも幾分か若いのかもしれない。
こうして俺に、教育係兼影との連絡係ができた。
俺はこれから、このアウラという女性から多くのことを学ぶことになるのだった。
次回更新は今週末の予定ですが、ドタバタしているので3月の頭辺りになるやもしれませぬ。もしかしたら3月後半まで無理かも?その時は数話まとめて投稿します。
次回からは閑話的な感じで、アウラ先生によるアレスの異世界常識教育編みたいなのを数話あげる予定です。
ここで読者の方にもこの異世界の世界観を掴んでいただけたらと思います。