第十五話「贋金」
若干、予告より更新が遅れてしまいました。すみませんorz
お気に入り登録数が5000件を超えました。ありがとうございます!!
俺とセレーナの婚約は、気が付けば外堀を埋められてしまっていた。
使役獣の儀の後、王宮から公爵邸に帰る道すがら、会う人会う人が、俺とセレーナの婚約を祝福する。
婚約の発表自体は昨晩行われたらしいのだが、どうやら俺を驚かすために、使役獣の儀が終わるまで箝口令がしかれていたらしい。
そして、貴族たちの婚約の寿ぎに満更でもなさそうなセレーナ。
何より国王夫妻も我が両親もすごく乗り気。
もはや断われる雰囲気ではなかった。
というわけで、5歳児の婚約者ができました。
我が公爵家と王家のつながりが、より強固なものになるという点では、いい話なんだけど……。
この精神年齢差は、なんとなく犯罪臭がする。
まぁ、結婚自体は当分先のようなので、このことは俺の精神衛生上の問題で保留しよう。
当面は、俺たち二人の住む王都と公都では距離があるので、文通によって二人の仲を深めるという、とてもプラトニックな関係に落ち着きそうだ。
セレーナからの最初の手紙は、使役獣の儀が無事終わって、セレーナたちと王宮で別れたすぐあとに届けられた。
なんというか、ものすごく気が早い。
手紙の内容は、使役獣の儀の興奮がまだ冷めていないのが窺える、微笑ましいものだった。
俺は今、公都への帰りの馬車の中で、その手紙を読み返している。
手紙を貰うのなんて前世を含めて随分と久しぶりなので、なかなか嬉しい。
手紙の返事を考えていると、父上が俺に声をかけてきた。
「アレス、お前ももう5歳だ。セレーナ姫との結婚も決まったからには、お前も彼女を守れる男にならないとな。そこで、公都の屋敷に帰ったら、お前に教育係をつけようと考えている」
「そうね、今から勉強を頑張れば、貴方も父上のような立派な殿方になれるわよ」
ようやく俺の教育が始まるらしい。
独学での勉強にも限界があるので望むところだ。
「はい。一刻も早く父上のような立派な人物となるため励みたいと思います」
「うん、その意気だ。屋敷に帰ればすぐにお前の教育係を募集しよう」
「頑張るのよ、アレス」
「はい! 」
それから俺たち家族は、他愛もない話をしながら、公都までの馬車の旅を楽しんだ。
そして、公都の屋敷に帰った次の日、今日は例の怪しい男、影との約束した日である。
いったいどうやって、公爵邸に潜り込むつもりだろうかと自室で待っていると、部屋が小さくノックされた。
声をかけると静かにドアが開き、使用人服を着た男が入ってきた。
今までに見たことのない使用人だと思ったら、やはりというかなんというか、例の影だった。
来ないことも考えていたんだが、随分と堂々とやって来たものだ。
「お約束に従い、参上いたしました」
「ああ、来ないのではないかと思っていたがな」
「いえ、閣下との約束を違えるなどとんでもない」
「どうかな、怪しいものだ。だがとりあえず、先立っての王女暗殺の情報には助かった。礼を言う。なにか褒美も与えよう」
「お役にたてたようで何よりでございます。しかし、今回の第一功労者は閣下ご自身、我々はほとんどお役にたててはおりません。褒美はまた別の機会で結構でございます」
影は俺のことを立てて、謙遜するようなことを言うが、その声音に媚を売っているような様子はない。
というより、こいつのしゃべり方はあまり抑揚がなく、随分と不気味な印象を受ける。
「そう遠慮するな。そうだ、この前渡した資金は問題なく使えたか? 」
「はい、何事も問題はありません。ありがたく使わせていただいております」
影の返事を聞いて、俺は思わずにやけそうになった。
「そうか、そうか。それは重畳だ」
というのも実は、前に俺が影に渡した活動資金は、何を隠そう俺が魔法で創ったものである。
公爵家嫡男といってもまだ幼い俺が、影たちを雇えるほどの大金を持っているはずもなく、今回は実験も兼ねて、影に贋金を渡したのだ。
この実験で確かめたかったのはなんといっても、魔法で創った金がばれないのか、ということだ。
俺の魔法は、金銀財宝すらも容易に想像できてしまうほどの力があるため、それをもしものときの切り札にと考えている。
だが、そのいざという時に、実は使えません、なんてことになったら目も当てられない。
魔法で生成したものを見分ける方法とかもあるかもしれないからな。
そのことを確かめる必要があったんだ。
ただそれを俺が試すわけにはいかなかった。
公子である俺が贋金を作っていたなんてことがばれたら、両親に多大な迷惑をかけるし、公爵家の名に傷がつく。
そこで、正直に言うと今回のことは渡りに船だったのだ。
無事に贋金が使えたのならそれでよし。
贋金だとばれて、それを使った影たちが捕まったのなら、危険分子の掃除になるので、それはそれでよし。
影たちに力があれば、捕まらずに逃げるだろうし、影の実力を試す機会にもなるはずだった。
そこで捕まるのなら、その程度の奴ら必要ない。
もし仮に捕まって、影たちが公爵家のことをしゃべったとしても、そんなこと信じるような奴がいるはずもない。
最終的に、何事もなく贋金が使えるという一番良い結果になったが、どう転んでもこちらに損はないようになっていた。
俺はまだ影たちのことを信用したわけではなく、都合のいいトカゲの尻尾のように使おうとしていたんだ。
影は影で何か思惑がありそうだし、その思惑こそまだわからないが、まぁお互い様だろう。
酷いようだが、これも公爵家や両親のためである。
できる限り他者を陥れるようなことはしたくないが、俺にとって公爵家や両親は、全てにおいて優先される。
公爵家や両親のためならば俺自身が地獄に落ちたってかまわない。
そう考えているから、俺は修羅にだって、ロリコ……ゴホッゴホッ……にだってなれるはずだ。
「では、今後の活動資金の追加と褒美に宝石をやる。ただし、前言った通りあまり派手には使うなよ。それと、これらを使っていて、何か問題が起きたら、必ず俺に知らせるんだ。いいな? 」
今度は宝石や装飾品かぁ、どんなものを創ろうか?
ただ、宝石や貨幣の価値を崩壊させるようなことはしたくないので、そのへんのさじ加減には注意しないといけないな。
報酬やら褒美は準備のため次回に渡すことにして、これからの連絡方や他にもいろいろなことを決めるため、俺はその後も影とじっくり話し合った。
次回更新は木曜日ごろを予定してます。