第十四話「第二王女」
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夕方になり、俺は父上と母上に手を引かれ、王宮へとやって来た。
朝に母上の襲撃を受けてから、母上はよほど心配したのか、俺のそばから片時も離れようとしない。
前世の母親は俺に対して放任主義、いや、無関心主義だったので、今世の母の行動はなんだかずいぶんとくすぐったいものがある。
馬車が王宮前のロータリーへと進んでいく。
王宮は王都の中心に位置していて、それをぐるりと囲むように貴族屋敷、商人屋敷、商業区……と立ち並んでいる。
公都にある公爵邸も、宮殿と呼んでもいいほどの豪華な建物だが、王宮を前にすれば些か劣ってしまうだろう。
前世であれば、全世界から観光客が訪れたであろう美しい造りの庭や噴水。
そんな中にあっても、優美な装飾がほどこされた本館は一際目を引く。
ところどころに貴族風の恰好をした人や衛兵たちがいるが、王宮に人影はまばらである。
新たな襲撃者に備えるため、警備の兵以外に、現在王宮にはごく限られた者たちしかいない。
多くの貴族は王都郊外にある離宮の舞踏会に出席しているはずである。
馬車を降り、王家の使用人に案内され、広間へと向かう。
重厚な扉を抜けると、そこは思ったよりも小さな広間だった。
俺の使役獣の儀の時に使った公爵邸の広間の方が、随分と広く感じられる。
ただ誤解がないように言うと、みすぼらしいわけではない。
天井には美しい絵画が描かれているし、部屋を照らすシャンデリアは美しい装飾がなされ、特殊な魔道具が明かりを灯している。
広間の中には幾人もの兵士がおり、四方を厳重に固めている。
中心部分には俺の時と同じように、神官の恰好をした数人の男たちが儀式の準備を進めていた。
その神官たちから少し離れたところに、10人ほどの人が立っている。
セレーナもその集まりの中に混ざっている。
ということはあれが王族の方々というわけか。
俺やセレーナより若干大きめの子供もいるのは、きっと第一王女だろう。
俺たち家族もその集団に加わった。
父上の紹介で、王族の方々と挨拶をすませる。
セレーナの父と母、つまりこの国の王と王妃は、穏やかで優しそうな人たちだった。
ちなみに、国王陛下が母上の実の兄になるらしい。
国王夫妻は、昨日のことで俺が怪我をしなかったかと心配してくれ、娘を助けてくれてありがとうと丁寧にお礼まで言ってくれた。
ただ、今後ともセレーナと仲良くしてやってくれと言った時の二人の顔が、何かを企んでいるような顔だったのが少し気になった。
それにしても、俺の周りの王族や貴族っていうのは気取ったところがなく、俺の考えていた貴族像とは大きく異なる。
特権階級は傲慢で冷酷、そんなイメージが少なからずあったのだが、父上や母上、それに国王夫妻といい、俺の周りはいい意味で予想外である。
「アレス!! ついに待ちに待ったこの時が来たぞ!! 」
そう興奮気味に声をかけてきたのは、本日の主役、セレーナである。
「なぁ、アレス。わらわの使役獣はなんだと思う? アレスのように龍もかわいいが、母上のカラドリウス(病を癒す神鳥)もかわいらしい」
セレーナは俺が返事をする暇も与えずにしゃべり続ける。
「ほら、セレーナ。儀式はもうすぐなのだからすこし落ち着きなさい。そんなに騒いでいると、使役獣も怯えて出てきてはくれないよ? それにね、どんな子が現れたとしても、がっかりなんてせずに、新しい友達との出会いを喜ばないといけない。セレーナも、出てきた使役獣がセレーナを見てがっかりした顔をしたら嫌だろう? 」
国王がセレーナを優しく諭すと、セレーナはコクコクと頷いた。
「はい、父上。どんな子が現れても、大切にします!! 」
使役獣が出て来なくなるかもしれないと言われたセレーナは、途端に大人しくなるが、その興奮をあまり抑えきれていない。
今日の日が来ることを本当に楽しみにしていたようだ。
今日という日を暗殺者などに邪魔されないで本当によかった。
しみじみそんなことを考えていると、準備が整ったらしく、セレーナが神官たちに従って儀式のための魔方陣の中心へと向かう。
セレーナが両手を組み、祈るようなポーズを取ると、魔法陣の輝きがどんどん増していく。
前回は自分が当事者だったために、あの時どうなっていたのか詳しくわからなかったが、今回はそれを外側から眺められるので興味深い。
魔法陣の光はやがて直視できないほどの強さへと変わり、一瞬何も見えなくなった。
だんだんと眩い光が収まると、セレーナの前には使役獣が立っていた。
セレーナの使役獣の儀も無事成功したらしい。
肝心のセレーナの使役獣だが、純白の仔馬のようにみえるが、その額には小さな突起がある。
「ユニコーン!! 」
セレーナは喜色満面、仔馬の首に抱き着いた。
仔馬も嬉しげにセレーナに顔を押し付ける。
そうか、ただの仔馬じゃなくて、あれがユニコーンなのか。
額にある角はこれから伸びていくのかな?
これでセレーナも幻想種持ち……なんというか、俺の周りは幻想種もちだらけだな。
もしかして本当はそんなに珍しくないのか?
それとも、王族には幻想種が選ばれやすいとか?
「アレス、見よ。どうじゃ? わらわの使役獣は? かわいいの~。ほら、お前も撫でてよいぞ」
セレーナにそう言われ、恐る恐る首筋を撫でてみると、思ったよりもフカフカとした毛があることに驚いた。
「ほ~ら、この方がわらわの未来の旦那様じゃぞ~。お前もよく覚えておくのじゃ」
え? 何? 今の誰に向けて言ったの?
セレーナったら、このユニコーンと結婚するの?
まさかねぇ、なら、今のはどういう意味?
「セ、セレーナ? 旦那様とはいったいどういうこと? 」
「む? アレスはまだ我ら二人の婚約を知らぬのか? 」
ま、全く聞いていないんだが?
真相を確かめるべく、急いで両親や国王夫妻を探すが、気付いたら俺たちの後ろにいた。
4人ともニコニコと笑っているが、目がマジです。
え? 何? 俺、5歳の子供が婚約者なの?
軽く犯罪のような気がするんですけど?
大丈夫? いや、アウト? やっぱりこれアウト?
どこか遠くにある天国で爆笑の渦が巻き起こっているような気がした。
次回更新は一週間後の予定です。