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第十二話「爆発」

 暗殺者と思われる男たちに囲まれているのだが、セレーナ姫はクレープがよほどおいしいのか、食べることに夢中で今の状況にまったく気が付いていない。

 できることなら、このままクレープを食べ続けさせてあげたいが、状況はそれを許しそうにない。

 暗殺者たちがジリジリと包囲を狭めてくる。


「おい、お前たち、目的はなんだ? このクレープか? 大の男が寄って集って、子供からお菓子を取り上げるのは感心しないなぁ」


「…………」


「……話し合う気もないようだな」


 暗殺者たちは、黙ったままナイフなどの得物を手にした。 

 ここにきてセレーナ姫も現状に気が付いたのか、不安げに俺の服の袖を掴んできた。


「大丈夫ですよ、王女殿下。私が必ずや御身をお守りいたします。しばしの間、私の後ろへ。大丈夫、すぐに済みますから、少し目を瞑っていてください」


 コクコクと頷いたセレーナ姫は、俺の袖から手を離し、ギュッと目を瞑った。

 そのことを確認した俺は、念のためセレーナ姫に周囲の音が聞こえないように魔法をつかった。


「さて、これでいい。せっかくの王都観光を無駄にしたくはない、時間がないから手早くいくぞ」


 魔法特訓の成果、ご覧あれ!! 


 とその前に、少し魔法の話をしておこう。

 前にも言ったが、この世界で魔法を使うことは、至極簡単である。

 ある程度自我を持った人間なら、誰にでも扱えると言ってもいい。

 体術の未熟な俺からしたら、今のところ唯一の攻撃手段になるわけだが、この世界では魔法を使った戦闘というものがあまり発達していない。


 俺の持論に過ぎないが、その原因は想像力の限界と、速度だ。


 その原因の一つ、想像力の限界は、異世界からの転生者である俺には、あまり関係なかった。

 前世で得た映画の演出やなにかの記憶があれば、この世界の人間には到底使えない魔法が使えるからだ。

 想像力の乏しい人間、つまり、俺から見たこの世界の人間たちは、魔法が使えても大した威力がない。


 特訓をしていてわかったんだが、もう一つの原因である速度、こちらの方が厄介だった。

 どんな高威力な魔法が使えても、願うこと、想像することには、どうしても時間がかかる。

 願うこと自体に集中も必要で、その時間は日常生活中ならともかく、戦闘中には致命的な欠陥となる。


 実は、この欠陥を完全にカバーする方法をまだ見つけることができていない。

 対策として、瞬間的に使える魔法をいくつか用意しているが、手数が少なすぎるし、威力がイマイチだ。


 よって、暗殺者たちには手早く片付けるなどと言ったが、最初の一撃ですべてを決める必要があった。

 先ほどからべらべらと喋っているのは、少しでも時間を稼ぎ、初撃の威力を高めるためだ。


 ちなみに俺は、攻撃系統なら爆発を主とした魔法が得意である。

 前世でアクション映画が好きでよかった。

 ……決して前世で実体験しているからではない。

 

 暗殺者たちが、俺達から5歩とないところに近づいたのを見計らって、魔法を使う。

 魔法を使うのに、合図などない。

 完璧な奇襲攻撃こそ肝心であるから、わざわざ相手に攻撃を知らせるなんてもってのほかだ。


 瞬時に、俺達を巻き込まないという指向性を持った爆発が暗殺者たちを襲った。

 これほど近くからの爆発にもかかわらず、熱さも風も全く感じない。

 俺がそうなるように想像したからであるが、この世界の魔法はなんて便利なんだ。

 

 爆発が収まると、少し離れたところに暗殺者たちが全員倒れていた。

 服や髪が焦げ、むき出しになった皮膚もいたるところに火傷をしているが、命に別状はない……はず。

 まぁ、体の部位の欠損とかはないし、大丈夫。

 というか、死んでも自業自得だろ、この場合。


 警戒しつつ暗殺者たちに近寄る。

 近寄ると少し嫌な臭いがしたので風で臭いを散らした。

 用心しながら全員気を失っていることを確認しつつ、魔法で作った縄で縛っていく。

 ついでに、全身火傷で死にそうなのは魔法で必要最低限治療する。


 首謀者を聞き出すためだ。

 まぁ、さすがにその手のことは、父上たちに任せるが。

 俺の魔法をみたやつらを生かしておくのもどうかと思ったが、こいつらもとっさに何があったかまではわからないはず。

 それに、セレーナ姫に暗殺者とはいえ死体なんか見せたくない。


 縛った暗殺者たちを一か所にまとめ、目を瞑ったままのセレーナ姫のところにもどった。


「王女殿下、もう目を開けても大丈夫ですよ。ご安心ください、悪者たちはすべて倒しました」


 セレーナ姫は恐る恐る目を開くと、倒れている男たちをみて驚いた。


「この者たちは、生きているのか? 」


「はい、気絶していますが、全員生きております」


「そうか、この者たちは全員、アレスが倒したのじゃな? 」


「いえ、私一人ではありません。たまたま通りがかった者が助けてくれました」


 さすがにこの人数を、5歳児一人がすべて倒せるとは、仮にセレーナ姫が信じても、周りまでは信じてもらえないだろう。

 俺はとっさに嘘をついた。


「……そうか、それでその者はどこにいったのじゃ? 」


「それが、なんだかとても急いでいたようで、そこの男たちを縛ると、名前を聞く暇も与えず、行ってしまいました」


「そうか、礼を言いたかったが、それならば仕方ないのう」


「はい。また会うことがあれば、その時に礼をしておきます。さぁ、王女殿下、この場に長く留まることは危険です。とりあえず、護衛たちと合流しましょう」


「うむ、そうじゃな。それでなアレス、少し顔を近くに寄せよ」


「はい、これでよろしいですか? 」


「うむ」


 セレーナ姫の命令に首をかしげながらも、彼女に顔を近づける。

 すると、王女は俺の頬にすばやく口付けた。


「な!? 」


「フフ、これはわらわを悪漢たちから一人で守った勇士への礼じゃ。それと、これよりわらわのことはセレーナと呼ぶこと、よいな? 」


 ちょっと、一人でやったってセレーナ姫にばれてるじゃん。

 ていうか、5歳児に頬っぺたキスされたからってなに動揺してんだよ、俺。

 落ち着け、落ち着け、俺。



更新も十話をこえて、毎回くどくなってきたので、今回でここの欄をカットさせていただきます。ただ、ご意見ご感想等、作者は心待ちにしておりますのでこれからもよろしくお願いします。


次回は水、木曜日あたりに更新予定です。

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