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「あの女断じて許さん!!」
カツカツカツカツ
早歩きで城内を移動する神官長、セイ・コーマエ。
その顔はかなり険しい。
神の力による救世主召喚より早一週間。
好き勝手に振る舞う我儘なスカーレットに彼の怒りは常に爆発状態だ。
満月の夜になるとやってくる怪物を倒してほしい。それが願いなのだが、それを伝える暇もなく、彼女の前に姿を現わせば馬鹿にされるばかりの日々。
王子も王女も同様に、馬鹿扱いされ、セイとアユゥーミと王子――リョウ・ツヅキ―――が顔を合わせれば出てくるのはスカーレットをネタにした愚痴と罵詈雑言。
「忌々しいっ! 大人しく我らに力を貸せば良いものを、皇帝だがなんだか知らんが高飛車な物言いをしおって……っ! 可愛げのない女よ!」
昨日はどこで知ったのか、仕事での失敗を『なんでそのような馬鹿げたミスを犯したのか、わかっているのか?』などと突つかれるし、その前の日はこれまたどこで知ったのやら『貴様は本当に神官長か?神官たちからの信用がないようだが?長としての威厳もないのだな』などと笑われるし、その前もその前も、馬鹿にされ続けるありさま!
そして、ついには夢にまで出てきて馬鹿にされる始末。
セイは、理不尽でもなんでもいいからとにかく一発、スカーレットを殴りたくて仕方なかった。
薔薇の宮が視界に入ると、その歩調はさらに早くなる。
気がせいているのだろう。
ずるずるとした神官服は、翻り、捲れ、冷静沈着と言われたセイの印象を百八十度変えることになりそうだ。
しかし、今彼の頭を占めるのは怒りのみ。
セイの耳にキャ~という女の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
我が国の女官を誑かし、侍らせているのか……っ! と意外と想像力豊かなセイは思った。
「いい加減にして頂きたいっ!」
ノックも、名乗りもなしに、ドアをバーンを押しあけるセイ。
「へ?」
彼は我が目を疑った。
「私は白昼夢でも見ているのか……!」
「ハハハ。どうするどうする。神官長に見つかってしまったぞ?」
「ハハハ。我が愛しの女帝……隠すつもりのない貴女も同罪では?」
「ハハハ。面白いことを言うじゃないか我が第一騎士フォーレル・ギルヴェントよ」
スカーレットに良く似た赤毛の男が、跪きスカーレットの手の甲に唇を押し当てている。
しかも男はもう片方の手でスカーレットの足を撫でまわしている。
こんな朝から、破廉恥な男をセイは知らない。
ん?とお互いに、厭らしく笑いあう二人に、うっとりとした目を向けている女性二名。
黒髪の幼い娘と、銀髪の男らしい女だ。
どちらも見覚えのない顔である。
「女帝! ただいま戻りました」
「っぐ!」
誰だこいつらは……と、ふらりと眩暈を起こしていたセイの背に、勢いよく開いたドアが食い込む。
痛みに悶えながら後ろを振り返ると金髪の少し地味目な男が。こちらも見覚えのない顔だ。
「~~~~っ貴様らは誰だーーー!!!」
誰だー、だれだー、だれだーー……。
叫び声がエコーした。
女帝がクスリと笑った。