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「わ、たくしの名はアユゥーミ・ツヅキ。この国の王女よ」
スカーレットに気圧されたように、苦しげに返答する王女。
些か声が震えているようだが、馬鹿にされているという苛立ちだけでスカーレットに立ち向かえる彼女は、中々のツワモノであるといえるだろう。
こういう時に、女という生き物が土壇場で胆力を発揮すると言われている事に納得する。
証拠に、圧倒されている神官長や王子―――つまり男―――は、アユゥーミの後に続くことが出来ないでいる。
「よかろう。アユゥーミ殿とは話し合いが出来そうだ。いくつか質問に答えてくれるか?」
「よろしくてよ……」
緊張した面持ちで、スカーレットに向き合うアユゥーミ。
スカーレットは静かに足を組んだ。
骨ばっかりでただ細いだけのガリガリの足ではない。
きれいに肉のついた、噛みつきたくなるほど柔らかそうな足だ。
つま先から綺麗に整えられたその足の奥が見たいと願わずにはいられないほどに、肉欲的な足である。
だというのに、彼女はそれを晒すことを惜しまない。気にしない。
「では、聞こう。この国の最高権力者はどこにいる?」
「王は、いま病で臥せっておられます」
「ふむ……私を召喚したのは、誰の意志だ?」
「王を除く、国の要職につく者たちの総意ですわ」
「では、これは国を挙げての召喚だと受け取って良いのか?」
「はい」
「ならば私の待遇は良いものだな?」
「え?えぇ、そうですけど……?」
「よし。では私はこの建物を貰う。侍女はいらん。衛兵もいらん」
「はい?何を仰ってますの?」
一応外見は王女然としたアユゥーミの顔が間抜けなものになる。
サクサクと進むスカーレットの話に頭が追いついていないのだろう。仕方のないことである。彼女は彼女のペースでしか物事を運ばない。
「しばらくここに滞在してやろうと言っているのだ。今の私は貴様らを救う気などさらさらないが、この滞在中に私の心を変えることが出来れば、貴様らを救ってやってもよいぞ?」
ふふん。
そんな声が聞こえてきそうな顔で笑うスカーレット。
一番偉いのは私だ。
そう言わんばかりの彼女の態度に、感情を爆発させるもの一名。
王が臥せっているいま、全ての政治を暫定的に仕切っている王子である。
「貴様ァッ! 我々を侮辱するのも大概にしろ! さっきから聞いていれば偉そうに、一体何様のつもりだ!!」
咆哮すると同時に、腰に下げていた剣を抜き放ち、スカーレットに斬りかかる!
王子の持つ剣は大きな宝石が沢山ついていたが、ただのお飾りなどではなく、刃の鋭い実用性のありそうな、列記とした武器だった。
誰もがスカーレットの死を、あるいは重傷を思い浮かべた。
神官長は唇に嫌な笑みを浮かべていたし、王女も仕方ないな、といった表情をしていた。
なぜなら王子は、素晴らしい剣の使い手だともっぱらの評判だったからだ。
王子が斬りそこなう可能性など万に一つもない。馬鹿な女が死んだ。そう、特に感慨も抱かずに思った。
―――スカーレット以外は。
スカーレットは決して危ない橋を渡らない人間だ。計算高いと言ってもいい。
自身の優位が揺るがないものだとわかっていなければ、あのような高圧的な態度はとらない。
だから、この結果も当然のものであるといえる。
シ国の人間たちの想像を完全に裏切る結果だったが、彼女に言わせれば当然の帰結であった。
私の方が強い。そう、自らの優位を確信していた彼女に言わせれば。
上から目線な女主人公を書きたくてはじめた、このお話ですが、正直上から目線って難しいです…。
自分がスカーレットを好きになれな(ry
いや、好きです。頑張ろう。