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 世界を越えた。つまり異なる世界にやって来た。

 そういう異常事態に怯え慌てるわけでもなく、淡淡と話す彼女は、どこまでも冷静であった。

 

 そして、豪奢な深紅の髪を揺らし、マント一枚ですたすたと歩き出した彼女の視界には、あまりにも冷たく厳しい言葉に固まる三人など、もういない。


 「礼儀のない神官長。一応部下にあたる神官長のフォローすらしない王女と王子。マント一枚はともかく、招いた人間を立たせたまま話しだすという適当さ。人の裸体をしげしげと見つめる王子。服をもってきて頂戴と言うだけの王女。そしてどいつもこいつも名乗りもしない」


 歌うように、ひとり言をいう女性。


 厳しいことを言っているようにも聞こえるが、正論といえば正論。


 自分達が自分達の都合で、見ず知らずの人間を勝手に呼び寄せたにも関わらず、呼び寄せた人間が裸の女性だったというだけで、まともな対応も出来なくなるという柔軟性の無さは言うまでもなく。

 そもそも大事な話をする気があるのなら、自国を救ってほしいと願い、呼び寄せた人間を対応するのだという意識を持ち、それなりの用意をするべきだろう。少なくとも椅子ぐらいは。

 大切な相手に、お願い事をするというその意識が、用意が、彼らには見られない。

 そして、マナーの欠片も感じさせない人間が要職につき、それらが接待にあたっているという事実。


 彼女はそれを指摘している。


 本当に国単位の話をする気があるのか、と。

 そう思うがゆえに、彼女は言う。


 「ダメダメだ」


 ひと際大きな薔薇の彫刻が施された壁の前で立ち止まった彼女は、不意に片手を頭の高さまで上げて―――、一拍後下ろした。 


 ドサッ!


 「ふむ。問題ないようだな」


 手の動きに沿うように、大きなクッションソファーがどこからともなく落ちてきた。

 それは大人五人が体を収められそうなほど大きい。そしてなにより、とてもふかふかしていそうだ。飛び込みたくなるほどに。


 どこからともなく現れたそれに、我に返ったシ国の神官長、王女、王子。


 「どこからそのようなものが!?」


 「いつの間に!」


 「どうやった! 魔術か!?」


 「魔術師を召喚していたのか! それなら勝てる!」


 「確実ね! 魔術師ならあの化け物を倒せるに違いないわ!」


 「それに無詠唱だ……相当力のある魔術師に違いない!」


 ……ついさっき言われた、きっつ~い正論も頭から飛んで行ったのか、非常に楽しそうである。

 元気なのは良いことだし、騒ぐのも大いに結構だ。しかしそれは時と場合を考えるべきである。

 特に、学習能力のない人間を嫌う彼女の前では。


 「……虫の羽音が煩いな」


 「虫ですって!?」


 自ら出現させたクッションソファーに身を投げ出した女性は、美しい薔薇の彫刻を背後に従え、うっそりと微笑む。


 「さて、私の名はスカーレット・ローゼリッチェ・ミルバンガンディヌス・サーリアという。虫ではないと言うのなら、名乗りに対し正しい言葉を返してみよ。私は虫と喋るほど暇な人間ではないのだ」


 身を包むのはたった一枚の布。

 宝飾品はおろか、ちゃんとした衣服すら纏っていない。


 それでも、そんな彼女はこの場にいる誰よりも威風堂々としていた。

 


名前考えるの疲れた…。

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