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「これは失礼。無視だなんて、そのような事は決して」
不機嫌そうに鼻を鳴らした素っ裸の美女に、一つ瞬きをして静々と近寄る男性。その服装は、ずるずるとしていて、袖も裾も実用性などなさそうなほど長い。
一応、と言わんばかりに軽く頭を下げたが、きっと内心も一応頭下げとくか、程度のものだろう。表情がそんな感じである。
「そ、そうですわ。決してそのような事は。あ、誰か服を持って来て頂戴、はやく!」
「とりあえずはこれを……」
実用性皆無な服装の男性に続くように、部屋の端に立っていた少女と男性が声を発する。
金髪巻き毛少女と、甲冑ガシャガシャ男性である。
甲冑男性が自分の体から剥ぎ取ったマントを女性に差し出す。
とりあえず、これで身を隠せということだろう。
「受け取ろう」
素っ裸の女性は、男性が近づいても恥ずかしがる様子など一切見せず、それどころか堂々と腕を差し出し、マントを受け取った。
甲冑男性が軽く目をみはる。
身を小さくするなり、後ろを向くなり、なんなりするだろうと思っていたからだ。
あまりにも人目に肌を晒すことになれている女性の様子に、驚きを隠せない。
受け取った黒のマントを肩からはおった女性は、マントと背の間に挟まった髪の毛を片手で、するりと持ちあげ、抜き出した。
首裏に手をまわし、髪の毛を外に抜き出す。
何気ない、それだけの行為なのに、ちらりと見えた白いうなじがなんとも言えず、間近でそれを見ることになった甲冑男性は、のどを鳴らさずにはいられなかった。
誘われているようにすら感じた。
だが、そんな甲冑男性を気にする様子もなく、女性は口を開く。
「それで、ここはどこだ?」
「あぁ、そうでしたね。あまりにも衝撃が強すぎて本来真っ先に言うべきことを忘れていました」
ずるずる服の男性が特に反省する様子もなく淡々と答える。
「ここはシ国といいます。キン大陸の端に位置する王国です。……貴女の知らない国だと思います」
「確かに聞いたことのない国だ」
「はい。といいますのも、我々が信仰する神の偉大な御力により貴女は、世界を越えました。ここは貴女の暮らす世界ではなく、全く異なる知らない世界、国です。ですが―――どうかこの国を救って下さい」
真摯な目で女性を見つめる男性。
今までとは大違いのその姿勢は、確かに救ってほしいという切実な気持ちを現しているように見えた。
だが、
女性はそうは思わなかったようである。
「なってないな」
「は?」
「全然ダメだ。世界を越えました、知らない国です、でもこの国を救って下さい。ってなんだそれは。そんな言葉で納得して、はい救います、って言う奴がいるか?いたとしたらそれは大層な馬鹿か、自惚れ屋だけだ」
けんもほろろに、とはまさにこの事。
冷たい目で男性を睥睨する様は、その美貌と相まって恐ろしく迫力がある。
「な、貴女は神に選ばれたのですよ! それを何と!」
「それは私の信仰する神ではない。よって私はそれを有難い事だとは思えない。ところで、貴様はこの国でどういった役職についている?」
「……ッ神官長ですよ」
「貴様らは?」
「王女よ」
「王子だ」
「ふむ……この国の要職についていると言えるな。しかもまだ若く、これから先それ以上の地位につく可能性も大いにあるだろう。それが、こんなに出来損ないではこの国に先などないだろうよ。大人しく抗えぬ事象に呑みこまれて、滅びるが良い。それが運命なのだろう」