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誰も、言葉が出なかった。
広々とした部屋は、薔薇の彫刻で彩られており、壁も天井もそれはそれは見事だった。
薔薇は、蔓も棘も花弁も大層な出来で、それはこの部屋のみならず、この宮全てに施された彫刻であった。
薔薇の宮と呼ばれるその理由にも頷けるほど、緻密で美しい。数十年前、芸術の申し子と謳われた偉大な彫刻家が、晩年に作り上げた大作である。
目を奪われることに、何の疑問も抱かない。そういう芸術作品。
しかし、床だけは趣が違った。
ほぼ一面に魔方陣が描かれているのである。
美しい薔薇にはそぐわない、書き散らされた文字文字文字……。
魔方陣を描いたものは、芸術家が今この場にいないことを泣いて喜ぶべきである。あるいは、彫刻家の墓までいって土下座して謝罪するべきだ。
少なくとも、この宮の彫刻にはそれだけの価値があった。
さて、そんな場違いな、空気を読まない魔方陣の中心には人がいた。
素っ裸の女性である。
ついさっきまで入浴中だったのだろう。全身は濡れているが肌はほんのりと色づいており、曝け出された全身と相まってとてつもなく艶っぽく目が離せない。
豊満な胸元は、支えるものなど何もないというのにツンと上を向いているし、腰のきゅっとしたくびれは形の良い尻をさらに魅力的に見せている。
白い肌には、しみも黒子もないし、当然ムダ毛と呼ばれるような毛も存在しない。
絵画で描かれる、ヴィーナスのような女性であった。
いますぐ跪いてしまいそうなほど、神々しい。
その足元にある不釣り合いな魔方陣が憎くなるほどに。
「さて……、いつまで私は裸をさらせば良いのか聞かせてくれるか?」
堂々と、体を隠す気もなく話す女性は声すら美しい。
彫刻の薔薇と汚い魔方陣と素っ裸の美女。
謎の空間が出来上がっていた。
女性以外、誰も口を開くことが出来なかった。
「無視か」
女性は眉を跳ねあげた。
仕方のないことである。
だいたい一ページの長さは、これくらいの予定です。