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カツカツと円卓を叩くスカーレットの爪音が響く。
「レレームド。この国の地位ばかり高い馬鹿どもの報告をしろ」
「はい。ではまず王子のリョウ・ツヅキから」
ぱらり。
スカーレットの指示に従い、レレームドは用意していた書類を捲る。
「端的に申し上げますと、父王が臥せっているのを良い事に、暴君のように振る舞う俺様王子です」
「典型的な馬鹿王子だな…」
「その通りでございます。では、いくつか王子の暴挙をご報告いたします。一つ目、顔が気に入らないからと言って後宮に迎え入れていた同盟国の姫を国外追放。現在その同盟国からは異議申し立てが来ております。二つ目、趣が気に入らないからと言って建国以来大事に手入れされていた初代国王の離宮を取り壊し。現在、建国の父である初代国王を蔑ろにしたとして市民の間では王子に対する信頼が低下中。三つ目、マクロ被害にあった生存者たちを支援するという議会で持ちあがった案を軍備増強が先だ、と一言で切り捨てました。現在王宮内でこの話が広まっており、王宮勤めの者たちは王子に疑心を抱いております」
レレームドの王子の馬鹿話はそれからさらに五分ほど続いた。そして、話が終わるころには、スカーレットの眉間に小山が出来てしまっていた。
フォーレルが「スマイルスマイル」と小声でアピールしているが、果たして聞こえているのか。
「もう王子の話は十分だ。レレームド次に行こう」
「はい。それでは次は神官セイ・コーマエの報告を―――…」
レレームドの話はとても長かった。
どれくらい長かったかというと、初めはマクロの大きさを聞いてワクワクしていたフォーレルが居眠りを初めて、ごうごうと鼾をかいてしまうくらいに長かった。ちなみにフォーレルはその後、レレームドに叩き起こされていた。まぁ、当然のことである。レレームドは頑張っているのだから。
「よしわかった。よくわかった」
眉間を指先で揉みながら、難しい表情をつくったスカーレットが言う。
どうやら彼女はもう、うんざりしているようだった。
それもそのはず。
王子、神官長に続き、王女、将軍、王妃、王……とレレームドの口は休むという概念を知らないかのように動き続け、結果二十を越える人間の報告を行ったのである。
そしてスカーレットらの脳裏に刻み込まれたのは、いかにこの国の上層部の人間が愚かであるのかということだった。
家族を友人を愛する人を町を家を奪われ傷つきながらも生き残った民に、何の援助も行わず、愚策を弄するばかりの馬鹿ども。
民を治めるという意味で同じ役職に就く人間として、この国の人間の凡愚っぷりがスカーレットには理解できなかった。
「暇つぶしにするには些か面倒になってきたな」
溜め息をかくしもせず、そう呟いたスカーレットはレレームドに労いの言葉をかけ、思案するように目を閉じた。
「しかし、だ。マクロは興味深い。とりあえずレレームド、お前にマクロの調査を命ずる。詳細な報告書を提出しろ」
「は。謹んで承ります。して、期限はいかほどでしょうか」
「そうだな。別に急ぐ必要もない。私を満足させられる、と思った時点で調査を切り上げろ。何人必要だ?」
「では、五人ほどお貸し願えますか?」
「うん。励めよ」
トトン。
スカーレットの爪が円卓を軽く叩いた。
すると、どうしたことか。部屋の端の方から、いや、正しくは部屋の端の影の中から、人型の靄が五体生まれ、歩きだしたのである。
「レレームドに従え」
命令はそれだけで十分であった。
靄はレレームドの背後に周り、母国で彼に付き従う部下のように振る舞い始めた。
「有難くお借りいたします。それではさっそく御前を失礼いたします。何かございましたらお呼び下さい。それと、先ほどの書類はこちらに」
そつなく、テキパキと礼をとり、椅子から滑るように下りたレレームドは、書類をフォーレルに無理矢理持たせ退室していった。
「……」
ユラリユラリと体を揺らしながら、靄たちも出て行った。物にぶつからないか、心配になる程度には、独特な歩き方であった。
のたのた更新ですみません…。