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「……ハイ」
フォーレルが気まずそうに静かに片手を上げた。
「はい、フォーレル」
「大きい?」
まるで子供が母親に教えを請うような、幼げな問い。
しかしフォーレルの顔は、いまにも舌舐めずりを始めそうな獣のそれだ。
彼の本分は戦うこと。
刃を交え、命ある限り敵に食らいつくことこそがフォーレルの至上の喜び。
戦いに重きをおくフォーレルにとって、敵を知る事はその喜びに近づく事なのである。
当然のように気が高ぶる。
「ええ、大きいです。話によりますと、この国の王城とほぼ同じくらいの大きさだそうです」
「へぇ……」
「では、続けます」
うずうずしてきた様子のフォーレルをさらりと無視して、レレームドは手元の書類に目を落とす。
「満月の夜に現れる理由、通常武器のきかない理由、共に不明ですが、それはこの国が何の調査も行っていないからで、調べれば何らかの理由が推し測れそうです」
「ふむ……続けろ」
「はい。今のところ死者は千人前後。海側の町から段々と王都に向かってきているようで、それまでにあった町のうち四つが焼け野原という壊滅状態、三つと連絡が取れず、二つがかろうじて町の再建が可能な状態です。その二つの町が、この王都と同じ規模でこのままでは王都も危ないという状況です」
「質問」
フォーレルと違い、きちんと挙手をするランファ。
「どうぞ」
「満月の周期は我々の世界と同じか?」
「そうですね。およそ三十日だそうです」
「ならば九カ月もこの国は、マクロから攻撃をうけているというわけか?」
「いえ、それは違います。一夜で一つの町を攻撃しているのではなく、二つ三つほどを一夜で攻撃しているのです。被害を受け始めたのは四カ月前で、初めに二つの町が攻撃をうけ、二回目に三つ、三回目に二つ、四回目に二つ、というわけです」
「そうか。ありがとう」
「いえ。他にありますか?」
「はーい、私も質問いいですかー?」
「……どうぞ」
シンフォアが挙手をし、レレームドの顔を伺う。
実は彼女、少々お馬鹿でよくレレームドに馬鹿な質問はするな、と怒られているのだ。
だからだろうか。今回は怒られないといいな……・そんな表情をしている。
対してレレームドは、満面の笑顔である。
さぁ、言ってみろ。そんな声が聞こえてきそうだ。
「えーと、九つも町が攻撃を受けているのに、死者が千人前後ってことは、生き残った人が結構いるって事です、よねー? その人たちはどこにいるんですか?」
「そうですね……千人前後の死者というのは、正確には六つの町での大体の統計です。三つの町とは連絡が取れない状態だ、と言いましたよね。そういうことですから、かなり多くの人が亡くなっていることになります。確認出来る範囲では、数少ない生存者たちは王都に身を寄せているそうです」
「その生存者たちへの国からの援助はどうなっている」
スカーレットが横から口を挟む。
しかし、当然レレームドは何も文句を言わない。
これは女帝である彼女への報告だからだ。
「特に何も行っていません。強いて言うなら王都での検問をスルー同然で通れたことぐらいでしょうか。衣食住何一つ援助・支援されていません」
「クズだな、この国は」
スカーレットが吐き捨てるように言った。
なめくじのような投稿スピードで申し訳ありません。
完全な夏バテです…。とろけそう。