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「それに、一番寂しがっているのは間違いなくアチラにいるパークスなのだから」
「あぁ、パークス。確かに。彼は国外で諜報活動中でしたし、そう簡単に呼び出すわけにもいかないですからね。事後処理とかありますし」
「女帝付きなのに、あちこちふらふらしてるアイツが悪い」
スカーレットの言葉に、レレームドとランファが素早く反応する。
今の話のネタは、パークス・ヒドミック。
スカーレットたちの世界の人間で、女帝付き第二騎士として女帝に仕える身のものだ。
もっとも、フォーレルと同様に騎士らしくない騎士で、ランファの言葉通り大陸中をふらふらと動きまわり、勝手に諜報活動をしてお土産として情報を持ちかえるという自由な男である。
しかし女帝スカーレットへの愛・忠誠は他の者と同様に溢れんばかりに抱いており、今ごろは放っておかれたわが身を嘆いていることだろう。
「ハハ、でもあっちにはジルミーレ爺さんも残ってるし、滅茶苦茶拗ねるってことは無いんじゃないの?」
「さぁて……どうだかな。ジルミーレには全権を一次的に預けるために手紙を認めたが、パークスには何も連絡していないしな」
ニィ、っと悪そうな顔で微笑むスカーレット。
その顔はキュンキュンと泣く子犬をみて、喜んでしまうダメ飼い主のようだ。
「パークス様可哀相~」
シンフォアが全くそう思っていなさそうな顔で言う。
しかし、それも仕方のないことである。
ドMなパークスへの、女帝の意地悪はご褒美のようなものですらあったからだ。
普段は軽薄極まりないパークスは、その実一旦女帝の閨に侍ると虐められて喜ぶ変態に成り下がる。
どうせ今も『寂しい、悔しい、でも今俺虐められてる……!』なんて一人でやっているだろう、と容易に想像できるほどには、彼の変態さは仲間内では有名だった。
パークスという男は、拷問のスペシャリストでもあるのに、ドMでもあるというとんだド変態野郎なのである。
「さて……、楽しいお喋りは終わりだ。実りある、これからの話をしようじゃないか。さぁ、レレームド始めよう」
マイペース女帝スカーレット。
彼女の一言によって場の空気は一瞬で変わる。
「はい。それではこれより、女帝陛下へのご報告を始めます」
ス……と頭を下げたレレームドに習うように、ランファも頭を下げ、フォーレルは片膝をつき、シンフォアは両膝をついた。
女帝の顔になったスカーレットと、部下の顔になった四人。
公私が完全に切り替わったのだ。
数瞬後、スカーレットが手を打つ軽い音が響き、四人は元の体勢に戻り、スカーレットが母国から呼び寄せた円卓に坐した。
「それではまず、この国の現状から―――」
どこから出したのか、レレームドの手には数枚の書類が握られている。
そして彼はそれを読みあげる。
「この国は今現在マクロという怪物の被害にあっています。満月の夜に現れる、通常の武器の効かない生物だそうです」
「デカイのか?」
フォーレルが口を挟む。
「女帝陛下に差し上げている報告です。女帝陛下以外の者は、質問をする際に挙手をして下さい」
序盤で話を遮られたレレームドは不愉快そうに細めた目で、フォーレルに視線をやった。
「前も言われてなかったか?」
「言われてましたぁ」
レレームドの機嫌を慮って、小さな声でランファとシンフォアが言葉をかわす。
そして、何度言われても学習しないフォーレルが悪い、とほぼ同時に嘆息した。