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『夜祓衆 ― 見ると増える呪いの記録 ―』  作者: こうた
第一部 江戸編 第一章 供物の村

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第九話 呼ぶ声

 洞窟の奥で、大量の目が開いた。


 闇の中。


 無数。


 人間の目だった。


 赤子。


 老人。


 女。


 男。


 形も大きさも違う目が、暗闇いっぱいに浮かんでいる。


 瞬き。


 ぎょろり。


 ぎょろり。


 全てが、新十郎を見ていた。


 新十郎は凍りついた。


 呼吸が止まる。


 洞窟の中は暗いはずなのに、目だけが異様にはっきり見える。


 ありえない。


 数が多すぎる。


 百。


 いや、もっと。


 洞窟の壁そのものに目が埋まっているみたいだった。


「……ッ」


 刀を握る手が汗で滑る。


 トワが新十郎の袖を強く掴んだ。


「見ちゃ駄目!」


 だが遅かった。


 目の一つが、ゆっくり瞬いた。


 瞬間。


 新十郎の頭の中へ、声が流れ込んだ。


 ――さむい。


 子供の声。


 次の瞬間。


 別の声。


 ――いたい。


 女。


 ――おなかすいた。


 老人。


 ――みつけて。


 ――みて。


 ――こっち。


 声。


 声。


 声。


 何十人もの囁きが、一気に脳へ流れ込む。


「ぐッ……!」


 新十郎は頭を押さえた。


 視界が歪む。


 耳鳴り。


 吐き気。


 違う。


 これは“聞こえている”んじゃない。


 頭の中へ直接流し込まれている。


 トワが叫ぶ。


「耳塞いで!」


 新十郎は咄嗟に耳を押さえた。


 だが意味が無い。


 声は止まらない。


 ――見つけた。


 突然、全部の声が重なった。


 洞窟の奥で、目たちが一斉に開く。


 ぎょろり。


 新十郎の背筋が凍った。


 闇が動いた。


 いや。


 “這っている”。


 洞窟の奥から、何か巨大なものがこちらへ近づいてくる。


 目。


 無数の目。


 黒い肉の塊。


 人の腕。


 髪。


 歯。


 それらが絡み合い、一つの巨大な形になっていた。


 新十郎は息を呑む。


 理解した瞬間、頭痛が走る。


 形が定まらない。


 見るたび変わる。


 人間に見える。


 獣に見える。


 赤子に見える。


 そして。


 どれでもない。


 トワが震えていた。


「来た……」


「何なんだ、あれは」


 トワは答えなかった。


 代わりに、洞窟の奥を見つめたまま呟く。


「捨てられた人たち」


 新十郎は眉をひそめた。


「……何?」


「穴に落とされた人」


 声が震える。


「ずっと、ここにいる」


 その瞬間。


 巨大な塊の中から、人間の腕が伸びた。


 白い。


 細い腕。


 それが新十郎へ向かってくる。


 ゆっくり。


 まるで助けを求めるように。


「たすけて」


 女の声だった。


 涙声。


 新十郎の身体が強張る。


 腕の先には、女の顔があった。


 髪だらけの肉塊の中から、半分だけ顔が覗いている。


 目から血を流しながら。


「おねがい」


 さらに別の顔。


 老人。


「さむい」


 子供。


「かえりたい」


 声が重なる。


 新十郎の呼吸が乱れた。


 人だ。


 これは。


 怪物じゃない。


 人間が集まっている。


 何百人もの。


 その時。


 肉塊の奥で、何か巨大なものが動いた。


 ゴリ、と。


 骨が擦れる音。


 そして。


 巨大な“顔”が現れた。


 新十郎の全身から血の気が引く。


 それは。


 空にあった顔と、同じだった。


 無数の目。


 裂けた口。


 形が定まらない輪郭。


 洞窟いっぱいの大きさ。


 それが、ゆっくり笑う。


 瞬間。


 洞窟の外から悲鳴が聞こえた。


 新十郎は振り返る。


 入口。


 逆さ人間たちが集まっていた。


 何十体も。


 壁。


 天井。


 地面。


 あらゆる場所へ張り付き、こちらを見ている。


 白い目。


 裂けた口。


「見た」


「見た」


「見た」


 合唱。


 ガリガリガリ。


 爪で岩を掻く音。


 新十郎は刀を構えた。


 だが。


 数が多すぎる。


 その時。


 トワが新十郎の裾を引いた。


「奥へ」


「何?」


「行かないと」


「正気か!?」


 洞窟の奥には、あの巨大な肉塊がいる。


 だが後ろには逆さ人間。


 逃げ場が無い。


 トワは泣きそうな顔で言った。


「上より、下の方がまだマシ」


 その瞬間。


 逆さ人間たちが、一斉に飛び込んできた。


 ガン。


 ガン。


 四肢を折り曲げながら、蜘蛛みたいな速度で。


 新十郎は刀を振るった。


 ザン。


 一体の首が飛ぶ。


 だが。


 落ちた首が笑う。


「見た」


 床を這う。


 新十郎の喉が鳴る。


 異常だ。


 死なない。


 逆さ人間たちは、死の形をしていない。


 その時。


 洞窟の奥から、巨大な声が響いた。


 ――返せ。


 空気が震える。


 逆さ人間たちが止まった。


 全員、一斉に洞窟の奥を見る。


 巨大な顔が笑っていた。


 そして。


 無数の目が、トワを見た。


 ――返せ。


 トワの身体が震える。


 新十郎は気付いた。


 こいつらの目的。


 供物。


 最初から。


 トワを、“戻そう”としている。

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