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『夜祓衆 ― 見ると増える呪いの記録 ―』  作者: こうた
第一部 江戸編 第一章 供物の村

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第二十二話 反転

 ――次は、お前だ。


 その言葉が落ちた瞬間、世界の音が消えた。


 風も。


 崩れる岩の音も。


 カヤの呼吸すらも。


 全部が遠くなる。


 残ったのは、“視線”だけだった。


 空の底の目。


 影の存在。


 そして、カヤの中にいる何か。


 三つが新十郎を見ている。


 新十郎は一歩も動けなかった。


 身体が重いのではない。


 “動くという概念”が失われている。


 影がゆっくりと近づく。


 ――順番。


 また同じ言葉。


 カヤの身体が、わずかに傾く。


 だがその時だった。


 新十郎の胸の奥で、何かが“鳴った”。


 カン、と。


 小さな音。


 それは記憶だった。


 伊兵衛。


 源蔵。


 トワ。


 名前。


 その瞬間。


 新十郎の中で、一本の線が繋がる。


 そして理解する。


 「順番じゃない」


 声が出た。


 影が止まる。


 新十郎はゆっくり顔を上げた。


「これは……繰り返しだ」


 空の底の目が揺れた。


 カヤの中の存在が反応する。


 新十郎は続ける。


「消してるんじゃない」


 刀を握り直す。


「“回してる”だけだろ」


 影が初めて揺らいだ。


 空間が歪む。


 カヤの表情が苦しそうに歪む。


 中の存在が、拒んでいる。


 新十郎は一歩踏み出した。


「お前らは“忘れられた”んじゃない」


 声が強くなる。


「忘れさせ続けてるだけだ」


 その瞬間。


 空の裂け目が震えた。


 底の目が、わずかに細くなる。


 ――違う。


 声が響く。


 だが新十郎は止まらない。


「違わねぇ」


 刀を構える。


「名前を返せ」


 その言葉で、空が揺れた。


 影が一歩下がる。


 カヤの中の存在が叫ぶ。


 ――戻るな。


 ――ここにいろ。


 カヤの目から涙が流れる。


 しかしその涙は、カヤだけのものではなかった。


 何か“重なっている”。


 新十郎は一瞬だけ迷う。


 だが。


 次の瞬間。


 刀を地面に突き立てた。


 そして叫ぶ。


「全部、出てこい」


 その瞬間。


 空が割れた。


 裂け目が崩れるのではない。


 “裏返る”。


 世界そのものが反転する。


 上が下に。


 下が上に。


 影が裂ける。


 カヤの身体が浮き上がる。


 そして――


 中から、無数の“声”が溢れ出した。


 名前。


 名前。


 名前。


 止まっていた300年分の記録が、一気に解放される。


 影が叫ぶ。


 ――やめろォォォ!!


 空の底の目が、初めて“恐怖”を見せた。


 新十郎はその中心に立っていた。


 そして呟く。


「終わりにする」


 その瞬間。


 世界が白く弾けた。

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