5話 夏休みに向けて_1
あんまり書き溜めないので、月水金更新予定ですー。
それは私が詩帆ちゃんの部屋に招かれることに成功して、毎日の図書館通いがやっとなくなった頃のこと。
今日の授業も全部終わって身体をぐぃーと伸ばしてから、部活に行く準備をしている菜月に声を掛ける。
「菜月ー、明日遊びに行かない?」
「明日? ……大丈夫だったと思う」
菜月はフットサル部に入っている。百合が丘高校は進学校で全体的に部活のレベルも高いけど、フットサル部はその中でも緩い部活らしく、体を動かすのが好きな菜月はそれくらいがちょうどいいと入部していた。他の部活は休日も活動してるけど、フットサル部は平日の活動しかないらしい。
「じゃあエマも誘おうか。エマー!」
菜月の呼びかけに、幸太郎君の輪からエマが一人寄ってくる。
「なになにー?」
「奏が明日の休みに遊びに行きたいって」
「服見たいんだよー夏休みにむけて」
そういうとエマは小さな手帳を取り出した。
「明日は……大丈夫だよ。幸太郎君も病院の日だし」
「病院? どっか悪いの?」
「えっと……お役目の日」
ちょっとだけ心配な気持ちが沸いて聞いたけど、エマはなぜか少し恥ずかしそうにしてそう言った。
「あぁ、なるほどね……エマはまだ誘われなさそう?」
「その辺幸太郎君ガード固くて……紅園さんも誘われてないみたい」
「へー、意外。紅園さんもまだなんだ」
そんな二人の会話を聞きながら、この世界の男子のことをあんまり知らない私は、お役目ってなんだ? と思ってスマホで調べる。
『男子だけしか出来ないお仕事、通称お役目とは』
種が十分な量作られる高校生になると、全ての男子は月に一度遺伝子提出を求められます。これは専用の病院で行うことになり、基本は一人で採取から提出までを男子一人で済ませることが多いです。ただ人によっては婚約予定の相手にお手伝いさせることもあり、それで病院へ同行することは大変な名誉と将来への確約を意味しています。高校生になったばかりの男子はまだ性欲が弱く、月一度の遺伝子提出も大変な重労働であり、一部の保護団体からは抗議の声もありますが、その遺伝子によって大勢の女性が子供を成しているのも事実です。
私達女性は、男性のより良い生活を守っていくために――
そんな記事を読んで、なんだか男の子も大変なんだなぁと思った。というかこの世界の男子って性欲ないの? 私の元の世界だと中学生でも下ネタ連発してたような気がするし、よく胸当たりに視線を感じたりもしたけど。
まぁ今のところ私には関係なさそうかな……エマがこのお役目とやらに誘われない限りは、だけど。
「それで、どこ行く? 奏」
「え? あ、ゴメン考えてなかった」
「わ、私最近オープンしたところ行ってみたいかも」
とエマが言った場所は、私には聞き覚えのないショッピングモールだった。というか何回か街には出ているけど、前の世界とは違って聞き覚えのないメーカーとか、知らないお店が多くて覚えきれていない。有名なお菓子とかはそのままあるんだけど、この世界はなんとかいうか同じものでも種類が多い。
「エマの希望ならそこでいいんじゃない? 夏休み海とか行っちゃう?」
「行こ行こ、私思いっきり泳ぎたい。夏休みはあんまり部活もないみたいだし」
「私は砂浜でもいいかな……でも海は行ってみたいかも」
菜月は運動神経がいいけど、エマはそもそも泳ぎが苦手。それは中学の時から変わっていないみたいで、前の世界から変わらないことを見つけては私は少し安心していた。
★ ★ ★
土曜日のお昼過ぎ、駅前は人で賑わっていた。
私も女の人ばかりの世界がようやく見慣れてきて、やっと違和感なく歩けるようになってきた。
前の世界と違って大体のコンテンツが女性ターゲットになっているから、そういう意味ではとっても暮らしやすい。化粧品だって種類は膨大だし、特に服や下着に関しては男性に目を付けられるよう、という宣伝文句で可愛い系からカッコいい系はもちろん、普段こんなの絶対着ないでしょ、といった派手な商品まで店頭に当たり前のように並べられている。そういうものを見て歩くのは楽しいし、出歩く女性たちも警戒心が薄いというか、夏が近づくにつれ薄着な人が多くなってきて、それを眺めるのも私にとっては楽しいことだった。
今日は駅前すぐの場所にある銅像の前で待ち合わせ。私が5分前に着くと、二人はもう到着していた。
菜月はボーイッシュなファッション。キャップと無地のTシャツにジーンズパンツとシンプルなコーデ。菜月は私よりも背が高いしモデル体型だから、十分似合っている。気取らない感じがとても良い。
対してエマはシンプルな白基調のワンピース。刺し色の青と足元のフリルが絶妙な清楚さを演出していて、つばの広い帽子はどこかのお嬢様のような印象を持たせる。前の世界のエマはこんなに男ウケの良さそうな恰好をしなかったから少し違和感はあるけど、今のエマは自信をもって着こなしているみたいで、とても似合っていた。
「待った?」
「ううん、大丈夫。今あそこのケーキ美味しそうだねって話してたところ」
菜月の指の先には、店先の大きなポスターに様々なケーキが並んでいた。そこも前の世界では聞いたことがないカフェのチェーン店だった。なんというか、客層がほとんど女性だから外観からポスターから可愛くてお洒落なイメージになっている。
「あ、あとで行こうよ。私、ショートケーキ食べたいな」
「うん、そうしよっか。とりあえず買い物して……あ、そういえば水着とかも見てもいいかな?」
「奏去年も買ってなかったっけ? もしかしてまたサイズきつくなったの?」
「あはは……」
昨日タンスの中から発掘した水着が、あまりにも男ウケを狙ったもので今の私の趣味じゃなかったとは言えない。
賑わう街の中、私達は3人並んで移動する。ちょっと変わった世界の中で、中学の時から変わらない時間。
少し成長したけど、私達の関係性だけは変わらずそこにあった。




