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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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3話 強者の計画_1


 クラスカーストは馬鹿にならない。

 例えばある人がカラスの色を白と言ったとする。

 その人が下のカーストにいれば、その言葉は誰の耳にも入らない。けど上のカーストにいる人が言ったのならそのカラスは白になるし、それ以下の人たちはそう思って行動しなければならない。

 だからこそ初日での印象付けは超大事で、朝から病院へ連れていかれたとしても絶対に休むことは出来なかった。

 特にこの狂った世界で私がやろうとしていることは、上位カーストにいることがまず大前提。そして絶対にバラされることがないよう、カーストが下の人……発言力がない人を狙う必要があった。

 だからまず私は、クラス内での自分の地位を固めることにした。

 初日の遅刻を挽回するように分け隔てなく話しかけ、クラス委員に立候補して意見をまとめる役割を買って出る。もともとクラス委員は男の子との時間が減る、という一点で人気がないらしく、立候補も私くらいしかいなかったのは、意外だったけど。

 私のグループは中学の時と同じように菜月とエマの三人だ。私自身のスペックの高さもあるけど、菜月も分け隔てなく接することが出来るし、エマは半分紅園さんグループにも入っているようなもの(というかそっちがメイン)だったから、私達が上位カーストに入ることはそんなに難しくなかった。

 クラス内をまとめたり、先生に報告したりするのが私くらいしかいなかった(幸太郎君のグループにはいたけど、アピールするのに夢中だった)こともラッキーだった……というか私以外あんまり働かない人がほとんどで、みんな幸太郎君に夢中で大丈夫かって感じでもあったけど。

 そんなわけで最初の一月が過ぎるころには、だいぶクラスでも動きやすくなっていた。


 ゴールデンウィークが過ぎた辺りで、大体クラス内の関係性も分かるようになってくる。どのグループが仲いいとか、誰の意見が通りやすそうとか。私のクラスは比較的大人しめの人が多いみたいで、いろいろとやりやすそうなイメージだった。

 なぜだかトップカーストの紅園さんからは警戒されているような気がしたけど……幸太郎君には興味ないから無視。

 それからクラス委員の立場を使っていろいろなクラスメイトに話しかけながら、今度は個人のことを観察する。

 この狂った世界にきて良かったことはいくつかあるけど、一番は女の子がみんな可愛いことだ。男女比が狂った世界では、いかに男の子を振り向かせるかのために遺伝子自体が進化したのかもしれない。

 クラスにいる地味目な子だって、元の世界だったら『まぁ間違いなく彼氏いるだろうな』くらいの可愛さの子がごろごろいる。その光景は私にとって高級ホテルビュッフェのようにも見えた。

 そんなクラスの中、まず最初に誰をお皿にのせるかじっくり吟味していく。

 この世界で女性同士の結婚は珍しいことではない。というか、女性が圧倒的に多いからまぁ自然とそうなるよねって感じ。

 だけどあからさまに『女の子が大好き!』と表現するのは、男子を狙っている人から敬遠されてしまうし、どちらかというとマイナス要素になるみたいだった。

 だからこそ、一人目は慎重に決める必要がある。

 本格的に女の子を落とすのは、前の世界でレズを隠していた私にとっても初めてのことだし、もし失敗したとしてもそれほど影響がないようにしないといけない。

 できれば、大人しくて、友達が少なくて、ちょっとお願いするだけで墓まで秘密を持っていくような、そんな子がいいな……もちろん可愛いは必須。

 欲望が外に出ないよう、学校生活を無難に過ごしながらいろいろな人を観察して。

 最初に接触してみるのはクラスでも下の方のカーストにいる、眼鏡で大人しくていつも本を読んでいるクラスメイト、近江詩帆ちゃんに決めた。


 放課後になると、詩帆ちゃんはほぼ毎日のように学校併設の図書館へ向かう。

 図書館は広くて席数も多い。詩帆ちゃんに見つからないように、図書室の影からその行動を窺う。詩帆ちゃんはいつも迷いなく同じ棚から本を抜いて、指定席である図書室の一番隅の席へ持っていく。


「読んでるのは……ラノベ?」


 詩帆ちゃんが本を抜いた棚は、ラノベのコーナーだった。

 詩帆ちゃんが読んでいるであろう一巻をぱらぱら流し読みすると、それはテンプレ的なガールミーツボーイもの。さらにその棚から何冊か引き出して読んでみると、当たり前だけど全部女性向けで、ものによっては結構突っ込んだ表現もあった。まぁ前の世界で私が読んでいたレズものと比べれば全然マイルドな内容ではあったけど……。

 詩帆ちゃんはいつも借りずに図書室だけで読んでいる。ぱらぱらと流し読みしていることもあるから、一度読んだことがある本なのかもしれない。


「とりあえずきっかけはこれでいっか」


 スマホの中のメモ帳に、詩帆ちゃんのデータをまとめていく。そうするとだいたいの方針も見えてくる。

 何事も最初が肝心。詩帆ちゃんの最初のリアクションでその後のことも決まる。スマホの中のテキストはまるでゲームのルート構築みたいになっていて、なんだか楽しくなっている私がいた。




 図書室で初めて話しかけて分かったことは、詩帆ちゃんは典型的な陰キャということだった。

 私が話しかけてもほとんど返事をしないし、話しても短い単語しか返ってこない。おどおどしていて視線があっちこっちと安定しない。

 それでも見た目は本当に可愛かった。ツヤのある髪はちゃんとエンジェルリングがあるし、銀縁の眼鏡とぱっちりとした二重は、いかにも文学少女って感じ。可愛ければその陰キャな仕草さえも庇護欲を掻き立てられる。

 なんにせよ計画は続行。そして次に目指すのは共通の話題。

 お互いなにも知らない状態じゃあ何をやっても警戒されてしまう。だから詩帆ちゃんと好きを共有して、私への警戒心を下げてもらう必要があった。

 そういう意味でも、詩帆ちゃんは『ラノベ』という明確な趣味があって分かりやすい。

 あんまり興味のないラノベを読む羽目になったけど、様々なレズ小説を読んできた私にとって本を一冊読むくらい苦ではない。5巻目くらいからはなんとなく面白くなってきたし、巻が進むにつれ詩帆ちゃんがぽつぽつと好きな場所を話してくれるのは、なんだか好感度が上がっている実感があって嬉しくなる。

 詩帆ちゃんが頑張って少しずつ話そうとする様子とか、ラノベの好きな場面で少し話に力が入って、図書委員に睨まれてしょんぼりしている様子はめちゃくちゃ愛らしくて、思わずスキンシップも多くなってしまった。

 そんなこんなで詩帆ちゃんの隣に毎日お邪魔して10日ほど、私は図書室にあるシリーズを9巻まで読み終える。


「あれ? 10巻目がない?」

「じゅっ、10巻目は、最近出たばかりで、まだ入ってない」


 詩帆ちゃんが説明してくれるけど、ないことはもちろん分かっていた。

 そもそも図書館で最新の本を入れるためにはリクエストしなければいけないし、それなりに時間もかかる。


「えーそうなんだぁ……次最終巻でしょ? 先が気になるー! 絶対今日読めると思ってたのに!」


 少しオーバー気味に残念がる。まぁ最終巻だけ読めないのは若干の気持ち悪さがあるから半分くらいは本当だけど。

 詩帆ちゃんの視線はそんな私と本棚を往復していた。……私の予想通りだといいけど、かかるかな?

 何秒か迷うような仕草をして、手をもじもじさせながら、詩帆ちゃんは視線を伏せたまま思いのほか大きな声で言う。


「わ、私貸そうか!?」


 その声の大きさは詩帆ちゃんの頑張りが透けて見えて、私は思わずその健気さに胸がぎゅっとなる。可愛い、可愛すぎる……。


「え、いいの! ありがとー! 助かる!」

 思わず詩帆ちゃんに抱き着く。さすがに手は回してくれないけど、このくらいなら許してくれるようだった(固まってるだけな気もするけど)。まぁ女の子同士が抱き着くのなんて普通だよ、普通。仲がいい証拠。


「じゃ、行こっかー」


 と私が帰る準備をし始めると、詩帆ちゃんは少し慌てたようだったけど、なにも言わずに私に付いてきた。きっと明日持ってくるつもりだったのかな? けどそうはいかないんだ。

 やけに挙動不審な詩帆ちゃんの手を引きながら家に案内してもらう。詩帆ちゃんはずっと何かを気にしているようで、手を繋いでいることも気づいていないようだった。

 詩帆ちゃんの家は集合住宅の3階にあった。詩帆ちゃんがドアノブを引くと鍵がかかっていたのを見て、おそらくお母さんはまだ帰ってきてなさそう、と心の中でよしっ! と手に力が入る。

 本当は本だけ借りて帰るつもりだったけど、詩帆ちゃんの好感度も結構高そうに見えるし、もう一歩踏み出してもよさそう。


「ねぇねぇ、詩帆ちゃんの部屋見てもいい?」


 この一言にはさすがの詩帆ちゃんもちょっと困っている様子だった。知り合って間もないクラスメイトを部屋に上げることは、相当の勇気が必要だと思う。詩帆ちゃんは特に陰キャ寄りだから、部屋の趣味とかも私と合わないと思っているだろうし。

 でもこれが完全なオタク部屋とか、すっごく汚いとかだったらすぐ断っているはず。つまり入れそうな部屋ではありそうだった。

 だから、もう一つ追い打ちをしてみる。


「あのさ、本紹介してもらって一週間以上経つでしょ? 私、詩帆ちゃんのこと友達だと思ってるから、だから詩帆ちゃんの事ももうちょっと知りたいなって思って」

「友っ……」


 友達という言葉は、詩帆ちゃんみたいな人にはとても強く効く。下のカーストにいる詩帆ちゃんにとって、『友達』という存在は最初で最後の砦だから。

 詩帆ちゃんの瞳の中に、私が揺れている。狭い玄関、詩帆ちゃんは気づいていないけど、それはしようと思えばキスさえできそうな距離だった。


「琴宮さん……」

「前から思ってたけど、奏でいいよ?」


 いつも苗字読みの人にとって、名前呼びは特別。私は誰でも名前で呼んじゃうけど、詩帆ちゃんみたいな人にとってはますます嬉しいはず。


「私も友達だと思ってる、よ。か、かか、奏、さん」


 だから詩帆ちゃんの絞り出したその一言で、もうこれはOKってことでは? と舞い上がってしまった。

 けどけど、落ち着いて。油断は禁物、急がば回れ。そこではハグするだけにする。

 詩帆ちゃんの内側に入り込むことには成功したし、後はもうタイミングだけ、ゆっくり進めても大丈夫だろう。


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