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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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プロローグ_1

著書の「私が友達の妹と~」が守りの百合なら、

これは攻めのレズ。


書き溜めはある程度ありますが、更新はゆっくり目になると思います。


「んー……」


 朝、目が覚めて身体を起こすと、珍しく目覚まし時計が鳴る10分前だった。


「今日から高校生かー……」


 ベッドの上、独り言が漏れる。

 壁には昨日丁寧にアイロンをかけたブレザーがつるされている。スカートは控えめに赤いチェックが入っていて、ブレザーの襟にも特徴的な二本の赤いライン。落ち着いたデザインではあるけど、この周辺では一番可愛いと評判の制服だった。

 なんだかそれを見ていると、高校生になったんだという実感がむくむくと湧いてくる。


「よっと」


 目覚まし時計のスイッチを切ってベッドから抜け出す。春休み中はお母さんに起こされるまで寝ていたから、今日くらいは先に起きてビックリさせてやろう。

 高校生はどんなことが待っていて、どんな楽しいことがあるんだろう。期待いっぱいの気持ちで私は階段を降りて、朝の支度をしに洗面台へと向かった。


「奏、今日は早いね」

「ふふーん、でしょ!」


 居間に入るとお母さんは朝ごはんを作っている最中だった。もう少しかかりそうだったから、私はダイニングテーブルに座ってテレビを見る。

 テレビの中では天気予報をやっているところだった。フクロウのマスコットキャラクターと、名物のお爺ちゃん気象予報士が……じゃなく、今日は女性気象予報士が天気予報を知らせてくれている。

 あれ、お爺ちゃんはお休みなのかなぁ?

 となんとなく思っているうちにカメラがスタジオに切り替わると、そこにいるメインキャスターも知らない女の人に変わっていた。私が春休みで寝坊している間に変わったんだろうか。でも番組の名前は変わってないし……。


「ねぇ、前のキャスターさんは辞めちゃったの?」


 ちょうどお母さんがトーストを持ってきてくれたから聞いてみる。


「前の?」


 お母さんもテレビを見るけど、なんだかピンときていないみたいだった。


「ほらいたじゃん、私が子供の頃からずっとこの番組してる人! だんだん髪が薄くなってきてるってお母さんも言ってたでしょ」

「そんなこと言ってた? 薄くなったってそんな歳じゃないと思うけど……」

 確かに今の人は綺麗な女性だけど、そうじゃなくて!

「覚えてない? 眼鏡で50代くらいのおじさん。カツラが凄い分かりやすいさぁ」

「……奏、今なんて言った?」

「? 眼鏡で50代くらいのおじさん……っていうかお父さんはどうしたの? 寝坊?」


 お父さんは私が子供の頃から海外で働いているけど、今日は私の入学式ということもあって昨日の夜遅くに帰ってきていた。寝る前ギリギリに一瞬会ったけど、会うの久しぶり過ぎて思わずこんな顔だったっけ? と言ったら泣かれてしまった。半分は冗談だったのに。


「お父さんって……奏大丈夫? 夢でも見てる?」


 そんなことがあったというのに、お母さんはなぜか本気で心配そうな顔をし始めた。その表情にちょっと焦るけど、いったいなにがそうさせてるのか分からない。


「い、嫌だなぁ! なにそれドッキリ? 高校生になる日にぃ? お父さんそんなに昨日のことショックだったの?」


 冗談めいてそう言うも、いつまで経ってもお父さんは起きてこないし。その後もいろいろ話すけど、その度お母さんの表情はますます険しくなっていく。

 そうして最終的に高校生一日目の朝、私はなぜか強制的に病院へ連行されることになったのだった



 ★ ★ ★



琴宮奏(ことみやかなで)さん?」

「はい……」


 救急病院の診察室、朝一で対応してくれたのはすっごい美人の先生だった。胸の大きさが凄いし、ウエストはキュッと細い。こんなお医者さんならテレビとかで紹介されそうだなと思ってしまう。


「お母さまは記憶の混濁っていってたけど、受け答えもはっきりしてるしねぇ……お父さまがいるの?」

「…………」


 その問に黙り込む。

 というのもここに来る車の中、私はスマホでとある情報を目にしていた。

 それは『今年度の男女比率、1対35.2と政府発表』というニュース。

 訳が分からなかった、夢かとも思った。けどスマホから流れてくる情報は、多くが女性の話題で、少ない男性の記事のコメント欄はまるで超人気アイドルみたいに崇められていた。

 特にかっこよくない男の子でもちょっと画像が出まわれば『抱きたい』や『どこで会える?』みたいな過激なコメントが多くなって、とある会社役員が男の子を秘密で囲っていたというニュースで不買運動が起こっていたりする。

 その世の中を証明するように、車の窓の外には女の人しかいなくって。


「あ、あの、先生は男の人ってみたことあります?」


 それでも信じられなくて先生にそう聞いてみる。昨日までだったらお医者さんだって、男の人が多かったはずだけど。

 けどその私の問に、先生はまたか、とも言いたげな表情をした。


「ここには来ないわね、男性専用の病院があるから大抵はそっちで受診してもらうの……男に飢えて寝ぼけちゃったりした? たまーにいるのよ、想像妊娠で診察しに来る人とかね。脳内で架空の彼氏作ったり……」

「そんなんじゃ……!」


 咄嗟に言い返そうと思い一瞬浮かべた腰を、ストンと落とす。今先生に何を言っても、私がおかしいと思われるだけな気がした。


「大丈夫そうだと思うけど一応安定剤出しておくから、飲んでみてくれる? お母さまにもお話しておくから」


 まるで私がおかしい人、みたいな扱いをされて診察室から出される。病院には何人かの看護師さんや診察を待つ人がいたけど、その誰もが女の人。

 普通に寝て起きただけなのに、一晩で世界はおかしくなっていた。



 ★ ★ ★



 薬を貰って、病院からの帰り道。

 車の窓の外を流れる景色は、変わらぬ現実を叩きつけていた。

 スーツ姿で電話をかけている人、コンビニの前でゴミを掃いている人、喫煙所でタバコをふかす人。その全てが女の人で、男の人なんて一人もいない。

 男女比、1対35.2。女子35人に対して男子は1人しかいない。それがどういう世の中なのか、高校生になったばかりの私には想像つかなかった。

 スマホで調べる限り、その原因は遺伝子異常ということしか分かってなくて現在も解決していない。

 三百年前くらいから徐々に男性が生まれにくくなって、今も男性は減少傾向、政府はその格差をなんとか縮めようと、いろいろな政策を打ち出している。

 人工授精は気軽に行えるし、出産に対しての費用も無料。しかも男の子が生まれれば凄い額の給付金が支給されるから生涯は安泰。

 そのかわり蝶よ花よと過保護に育てられる男子は、傲慢な性格になるか、積極的に関わろうとする女性が怖くてほとんど外に出なくなるかのどっちかになるらしい。

 なにそれ、漫画の世界じゃん。

 私も人工授精なのかなぁとか、お父さんほんとにいなくなっちゃったのかなぁとか思う。

 お父さんは子供の頃から会っても年1回とかだったから、そんなに寂しさはなかった。今だって、また海外に行ったんだなって感じに近い。昨日の夜せっかく帰ってきてくれたのに、こんな顔だっけ? と言っちゃったのはごめんなさいって感じだけど……もうそれも謝れないのかなぁ。

 もう会えないかもしれないお父さんのことを想うと、ちょっとしんみりしてしまう。


「奏、学校どうするの? 一応準備してたみたいだけど」


 学校……学校ねぇ。そういえば今日って入学式だっけ……?

「あ」

 そんなお母さんの声に私は超重要なことを思い出す。それは私にとって世界が狂ってたよりも大事なことだった。

 そういえば今日、高校初日じゃん!!!!


「行く!」

「本当に大丈夫? 一応連絡してるから休んでもいいけど」

「行く、絶対行く!」


 私の『絶対』にお母さんは肩をすくめてウインカーを出す。

 そうだった、今日は高校初日。なにより大切な日。

 高校生活は初日でほとんど決まるといってもいい。そこで上手くグループに入れなきゃずっと一人で過ごすことになるし、クラスのカースト決めも最初の印象がめちゃくちゃ重要。

 ああああああ、なんで早く気が付かなかったんだろう! 昨日だってたくさんシミュレーションしたはずなのにぃ!

 なんでこの世界に来たのか全く分からないし、もしかしたら明日の朝起きたら元の世界に戻ってるかもしれないけど! なんなら明日になっていれば戻っていてほしいけど、どっちにしてもこれから始まる高校生を完璧なものにするために、今日という日を休んでなんかいられない!


「もう着くから準備しておきなさい」

「分かった!」


 視界の端に大きな校舎が見えてくる。そこが今日から私が通う、公立百合が原高校だった。



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