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EP:9 どんなスキルが好き?

スライムに大敗を喫した次の日、

リリアが朝から重大なことを決心したかのような

言い草で告げてきた。


「何かスキルを習得しよ!」


リリアの目は珍しくやる気に満ちていた。

冒険者稼業においてこれほどの熱意を見せたのは

俺が知る限りでは初めてだ。

スライム相手に無様に負けたのが

よほど効いたらしい。


「なら冒険者ギルドに行くぞ。

お前はまず何か攻撃魔法を…」


俺の言葉を遮ってリリアは言った。


「それもいいけど、クロのスキルを教えてよ!」


目を輝かせ、期待に満ちた顔でお願いしてきた。

俺の持つスキルはバインドスキルを始め、

大したスキルじゃないんだけど…

まぁ、やる気を削ぐわけにもいかないし、

大人しく教えてやるか。


俺たちは昨日訪れた平原にやってきて、

スライム相手に練習することにした。

リリアは嫌がってたが、

いつまでもスライムにビビってるようじゃ

勇者の名が廃る。


スライムが近くにいない場所を選んで

リリアに尋ねる。


「それで、お前はどんな

スキルを覚えたいんだ?」


スキルは大枠には3つの種類に分けられる。

剣術スキルや体術スキルなどの

魔力を消費しない"攻撃スキル"、

少ない魔力を消費して発動し、

冒険を有利に進められる"技巧スキル"、

多大な魔力を消費して発動する"魔法スキル"。

俺のバインドスキルは

技巧スキルに属するものだ。

俺の考えとしては、

最初は簡単な魔法スキルを覚えるか、

攻撃スキルを覚えるのがセオリーだ。


「もちろん、魔王に相応しいめちゃくちゃ強い

魔法攻撃スキル!破滅の光とか!」


「だから破滅の光なんてないって。」


なんでこうも物騒な技に固執するんだ…

リリアは口を咎め不満そうに聞いてきた。


「えぇぇ、じゃあクロって

どんなスキル使えるの?

攻撃魔法のスキルね。」


「俺は攻撃魔法は一切使えないぞ?」


そう事実を伝えるとリリアは口を

あんぐりと開けて驚いた。


「ええ!!魔王なのに!?

なんで使えないのよ!」


「そんなこと言われても…」


俺は基本的に身体能力ありきの

ステゴロ戦法だからなぁ…

それに魔族にはスキル習得なんて概念ないし…

魔王として君臨するには拳と足で十分だった。


「じゃあいいよバインドスキルで。

クロのバインドすっごい強かったし〜。」


こいつの俺を見る目がどんどん酷くなっていく。

なんも教えてやんねえぞ。

俺は面倒な気持ちを押し殺して

バインドスキルを手取り足取り教えてやった。

するとリリアの冒険者免許の

習得可能スキルの欄に

バインドスキルが刻まれた。

リリアは瞬時に習得するのだと

思っていたのだが…


「これ、ダメだ。」


リリアはがっくしとでも言うかのように

明らかに落胆して見せた。


「どうした、なんかあったのか?」


リリアは冒険者免許を見せつけながら言った。


「これ見て。

バインドスキルの習得に必要なスキルポイント、

10必要なの。」


ん?何が問題なんだ?

こいつの所持スキルポイントは10だ。

ポイント的には習得可能だ。


「私ね、攻撃魔法を覚えたいの。

ここでバインドスキル覚えちゃったら、

次のクエストも杖振り回すだけになっちゃう!」


なるほど、それは確かに問題かもしれん。

昨日のこいつの戦闘は目に余るものだった。

一心不乱に杖を振り回し、

スライムにはちっとも当たらず、

挙げ句の果てにはドジを踏んでボコられる。


「くっ…」


「ああ!今笑ったなぁ!このぉ!」


リリアは俺の頬をむにむにしてきた。

しかし困ったものだな、

俺の4つのスキルはどれも攻撃用じゃない。

今のこいつのご所望に応えられるものが、

ギリギリバインドスキルだったんだけど…


(いや待てよ…?)


逆転の発想で、このスキルならこいつのために

なるのではないかと考えて、

俺はリリアに提案する。


「なぁリリア、"回避スキル"を

覚える気はあるか?」


リリアは興味津々になって返事をした。


「うんある!あるあるある!

それ覚えたら痛い目に遭わずにすみそう!」


「わかった、よく見てろよ…」


俺は回避スキルを実演するために

足元に落ちてた石をスライムに投げつけて

喧嘩を売る。

スライムは激怒して俺の方へ向かってくる。


「クロ、来るよ!」


こいつはスライムにトラウマを

植え付けられてしまったのだろうか?

俺が、大魔王のこの俺がスライムごときに

遅れをとるはずがないというのに。

スライムの体当たりを完全に見切った俺は

回避スキルを発動する。


その刹那、俺の体は脅威的な速度で、

フルオートで攻撃を避けた。


「これが回避スキル。

ごく微小の魔力を消費することで

完全自動であらゆる攻撃を回避する。

発動条件は相手の動きを見切ること。」


リリアは目をキラキラさせて

必死に説明を聞いていた。

これはそんなに魅力的なスキルか?

無くても困らないスキルの筆頭だと思うけど…


「すごいすごい!決めた!

今日は回避スキルを身につけるよ。」


リリアはうきうきで冒険者免許を取り出し、

なんの躊躇もなく回避スキルを習得した。

そのとき冒険者免許が光り輝き、

取得済みスキルの欄に回避スキルが刻まれた。


(なるほど、冒険者はこうして

スキルを覚えていくのか。)


感慨深いものがあるな。

魔王が勇者にスキルを教えるとは…

リリアは習得済みスキル欄をまじまじと眺める。

そして調子に乗って

スライムのもとへ走り出した。

昨日の私とは違う、とでも言いたげな顔で。


「ちょっとためしてくる〜!!」


「あっ、おい!」


少し不安を覚えたが、

リリアは回避スキルを完璧に使いこなして、

縦横無尽にスライムの攻撃を回避していく。

驚いた、俺以上に

使いこなしているように見える。

俺の場合は回避スキルなんて使わなくても

大抵の敵の攻撃は効かないし、

余裕で避けられたからなぁ…


(このスキルは、人間の冒険者こそ

使いこなせる力なのかもな。)


そうこうしてるうちに

他のスライムどもがリリアの周りに湧いてきた。

今度のリリアは一味違う。

迫り来るスライムどもの攻撃を全て避ける。

回避スキルに消耗する魔力は極々わずか、

魔力を使い切ることなんてあり得ない。


(もう、大丈夫だな。)


俺が目を瞑って感傷に浸っていると、


「ああ!」


リリアの悲鳴が聞こえてきた。

そっと目を開けると、

そこには昨日と同様にスライムの群れに

もみくちゃにされるリリアがいた。

やっぱりリリアはリリアだった。


「いたぁぁい!冷たいよ〜!

気持ち悪い〜!」


「…はぁ。」


3秒前の自分を殴り飛ばしたい。

こいつは俺が思っている以上にダメなのだ。

勇者としてではない。

一般的な冒険者においても、

二日連続でスライムに

ボコられる奴なんていないだろう。

もうなんか、面白いとか、可哀想とか思えない。

ただただ情けない…


「痛い痛い!ベトベトする〜!

ひゃっ!ちょっ!助けてぇ…!」


リリアは今日杖を持ってきていない。

俺としてもスキルを覚えるだけなら

いらないかなと思っていた。

だが実際にこいつはスライムに喧嘩を売り、

完膚なきまでに返り討ちに遭っている。

もう置いて帰ろうかな、という言葉が

頭の中を反芻する。

しかし…


「クロ助けてぇ!死んじゃう死んじゃう…!

ふぇぇぇぇん!」


泣き叫ぶリリアの悲鳴を聞いて

俺の体は勝手に動き、

リリアの周りのスライムをねじ伏せた。

こんな、拳を突き刺すだけでぶっ潰れる雑魚に、

どうしてこうもやられちまうかなぁ…


「ひっぐ、えぐ、うぅ、おぇ…」


リリアは泣きすぎて嗚咽し始めた。

身体中にスライムの粘液が付着し、

顔は涙でぐちゃぐちゃだ。

見るも無惨な姿へと変貌を遂げた。


「クロぉ、あり、あ、ありがとねぇ…

えぇぇぇぇん…」


リリアは俺に泣きついてきた。


「ちょっ!くっつくな気持ち悪い!

ベトベトすんだよ!」


「そんなこと言わないでぇ…」


俺はリリアをおぶりながら

スライムの粘液素材と経験値を回収する。

経験値をリリアに渡すとまたレベルが上がった。


「よかったな、またレベルが上がったぞ?」


「こんなになって、嬉しくない…」


リリアは俺の体を抱きしめる。

女に抱きつかれるのは普通なら嬉しいだろう。

俺とてそうだ。

部下の女にくっつかれるのは好きだった。

でも今は、少なくとも今は嬉しくない。

こんな粘液まみれの奴にくっつかれたって…


「今日はこのままギルドに行って

別のスキルを習得しに行くぞ。

そして明日はクエストを受ける。

そうだな、ダンジョン探索とかにしよう。

それでいいな?」


俺が確認するとリリアは必死に拒んだ。


「だめぇ…

こんな姿見せられない、恥ずかしいよ…

シャワー浴びさせて。」


まだ女の意地が働くらしい。

すでに昨日の時点で無様な姿晒してるだろ、

とは言わないでやった。

今言ったら多分冒険者やめる…


俺はそのままリリアをおぶって家に帰り、

シャワー室にぶち込んだ。

リリアがあがるまで、

俺はまた全身ベトベトのまま待たされる。


俺がいなかったらリリアは冒険者できてないな、

としみじみ思う今日この頃なのであった。


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