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EP:8 スライムの倒し方

リリアは武器屋の杖の棚を

まじまじと眺めている。

かれこれ20分くらいはこの調子だ。

痺れを切らしてリリアを

急かそうと思ったのだが…


「リリア、もうなんでもいいだろう?

適当なやつ買って早く行くぞ。」


「ダーメ、こういうのは一期一会なの。

これから長く使っていくんだから

ちゃんと見極めて選ばなくちゃ。」


「どうせ何を選んでも変わらないだろう?」


「見た目も大事なの。

私、ちゃんと“勇者っぽい勇者”に

なりたいんだもん。」


リリアのこだわりは相当らしい。

さっきから高い物ばかり眺めているが

ちゃんと金は持ってるのだろうか。


「よし!これに決めた!」


そう言ってリリアが手に取ったのは

金貨3枚の木製の杖。

いかにも魔法使いらしい装備だった。

以前言っていた通り、

剣を使う気はまるで無いらしい。


「あの、店員さん、これください。」


リリアはステップを踏みながら持っていく。

やる気が出てくれるのなら万々歳なんだけど…


無事に杖を購入したリリアは言った。


「さて、スライム退治しに行こ!

さっさと終わらせて、

美味しいもの食べに行こうよ。」


賛成、と言いたかった。


「ちょっと待て、お前は防具なしで戦うのか?

金に余裕があるなら

買っておいたほうがいいのではないか?」


現実的な忠告だと思っていた。

だがリリアには通じないらしい。


「やだ、重いの着ると汗かくもん。」


「お前汗かいたら死ぬのか?」


どんだけ汗嫌いなんだこいつ。


「だって〜、汗臭い女の子なんて幻滅でしょ?

優雅に、華麗に勝ってこその勇者でしょ〜。」


俺はもうつっこむのをやめた。

リリアの好きにさせよう。

そして俺たちはスライムが出現するという、

街の近くの平原に足を運ぶのだった。





難易度星1、スライムの討伐クエスト。

内容は5匹のスライムを狩り、

スライムの粘液という素材を持ち帰ること。

いかにも初心者向けと言えるクエスト内容だ。

それをこの俺にやらせようなどと…


(まあ、こいつの初陣にはちょうどいい。

痛い目を見る前に、

軽く成功体験を積ませてやるか。)


周囲の平原を見渡すと、

至る所にスライムが点在している。

数えきれないほどに。

この中からたった5匹狩るだけでいいなんて

楽な仕事だな。


そんなことを考えていたとき、

リリアが服の裾を引っ張って提案してきた。


「ねぇねぇ、1匹ずつ追いかけて倒すのって

めんどくさいじゃん?

だからさ、5匹くらい固まってるところ狙って

一気に倒しちゃおうよ。」


実に合理的だと思う。

だがその思考はある程度戦闘に慣れてからでこそ

本領を発揮するもの。

野生の魔物との戦闘経験のないこいつが

実践するのはいささか危険…


そう忠告しようとしたときにはもう遅く、

リリアはすでに集団スライムのもとへ

向かっていた。

ちょうどいい、スライムを目にして

リリアがどう対応するのか、

この目に焼き付けておくとしよう。

リリアの成長のためにな。


「とりゃあああ!」


リリアは買ったばかりの杖を

一生懸命に振り回し、

スライムどもへ攻撃を仕掛ける。

しかし目を瞑っているのか、

その攻撃は一切命中しない。

そんなリリアを嘲笑うかのように

1匹のスライムが体当たりを仕掛けた。


「痛い!」


何も防具をつけていないとはいえ、

スライムのぶよぶよの体での体当たりなど

たかが知れている。

それを大袈裟に…


リリアはスライムどもを警戒して後ずさるが、

運悪く足元の石に躓き転んでしまった。


「あいた!」


尻餅をついたリリア目掛けて

スライムどもが一斉に襲いかかる。

リリアの華奢な体に向けて何度も何度も

体当たりを仕掛ける。


「あっ!ちょっ!痛い痛い!」


リリアは手も足も出ない様子だ。

せっかく買った杖は手から離れ、

お気に入りの服はスライムの粘液まみれで

ベトベトになっている。

リリアは涙ぐみながらうずくまるだけだ。


なんて情けない姿だろうか。

選ばれし伝説の勇者とある者が、

スライムの群れにまとわりつかれ

もみくちゃにされ、

ボコボコにされている。

スライムに負ける勇者…

俺が抱いていた勇者への

イメージが日を追うごとに崩れていく。


(あのときは運命の宿敵だと思ってたのになぁ。)


俺が空を見上げながらそんなことを

考えていると、

リリアが泣きながら助けを求めてきた。


「く、クロ〜!助けてぇ!」


その間もリリアはスライムどもの

体当たりを喰らい続けている。

リリアの全身にぷよぷよとしたスライムが

何度もぶつかり、

どんどん粘液が付着していく。

可愛らしい小娘の姿など見る影もない。


「ちょっとクロ!何やってるの!

助けてよ!本当にやばい!」


俺はゆっくりとリリアのもとへ歩き出す。

数は4匹ほど、こいつらを

倒してもまだ1匹足りないなぁ。

そうこう考えているうちに

リリアの悲鳴が悲痛なものへと変わっていく。


「ああぁぁぁ!冷たい!

ベトベトして気持ち悪い〜!

あぁ!いたぁぁい!」


「スライム退治のためにこの力を

使う日が来ようとは…」


俺はため息をつきながらリリアに取り巻く

スライムを1匹、また1匹と拳で粉砕していく。

スライムが潰れるごとに粘液が飛び散り、

俺やリリアの体に付着する。


そして残骸から虹色に光り輝く玉が現れた。

おそらくこれが、経験値と呼ばれるものだろう。


全て倒し終えた頃にはリリアは

涙を流しながら憔悴していた。

戦い始めたときと比べて、

見るに堪えない姿になっていた。


「ひっぐ、えぐ、うぅぅ…」


俺はスライムの残骸を採集袋に入れながら

リリアに話しかける。


「おーい、大丈夫かー?」


「大丈夫じゃな〜い!

もう全身痛くて動けない〜!」


リリアは子供のように泣きじゃくり出した。

そんなリリアに周囲の経験値を集めて渡す。

経験値はリリアの体に吸収され、

全て吸収されるとリリアの体が一瞬光った。

レベルが上がった、

ということでいいのだろうか?


「ボロ泣きしてるところ悪いが、

まだ1匹足りない。

その辺のやつ適当に殺してこい。」


「無理…」


リリアは弱々しく答えた。

さっきの戦闘で身も心もボロボロに

へし折られたらしい。


「情けないな、お前は勇者だろう?

1匹くらい倒して、

この屈辱を晴らして見せたらどうだ?」


「身体中痛いし、髪も服もベトベトだし、

もう動けない…かゆいかゆい…

クロぉ、なんとかしてぇ…」


「はぁぁぁぁぁぁぁ…」


俺はバカでかいため息をついた後、

近くにいたスライムをバインドスキルで

締め潰した。

そしてすかさず素材と経験値を回収して

リリアに投げつける。


「いたぁい…」


「ほら帰るぞ。

もうクエストは終わった。

あとはギルドで報酬をもらうだけだ。」


リリアは依然ベソをかきながら言ってくる。


「もう歩けない…

おんぶしてってよぉ…」


「やだよ汚い、

俺までベトベトになるだろうが。」


口から出た言葉とは真逆で、

俺の体は勝手にリリアをおぶった。


(クソが!)


「ふぇぇぇぇん…」


リリアは俺の背中に顔を埋めながら泣き叫ぶ。

涙や鼻水、リリアに付着した粘液など

あらゆる液体が俺の背中を濡らしていく。 

本当に勘弁してほしい。

俺はリリアをあやしながら

再び冒険者ギルドへ戻るのだった。





冒険者ギルドに入った途端、

スタッフの女が心配して言葉をかけてきた。

周囲の何人かの冒険者が俺たちを見てくる。

その中の一人の小娘と

目があった途端に逸らされた。

まあこんな奴らと関わりたくなんてないだろう。


リリアは俺の背中で小さく身をすくめた。

注目されるのが相当恥ずかしいらしい。


「だ、大丈夫ですか…!?」


「まあ、なんとかな。

それよりも、クエストの報酬をいただきたい。

なるべく早く頼む。

こいつの心がそろそろ保たない。」


「か、かしこまりました!

こちらはどうぞ。」


スタッフの女は早急に対応してくれて、

無事にクエスト達成だと認められた。

報酬として銀貨5枚と経験値を譲り受けた。

リリアが経験値を受け取ると再び体が光だし、

レベルアップの合図を告げた。


「レベルアップおめでとうございます。

失礼ですが、冒険者免許を

拝見してもよろしいでしょうか?」


スタッフにそう聞かれたので、

俺はリリアの服のポケットをまさぐって

冒険者免許を取り出す。


「なになに、レベル3、スキルポイント10、

魔力208、体重◯◯kg…」


「体重言わないでぇ…!」


そんな俺たちのやりとりをスタッフの女は

吹き出しながら眺めていた。

リリアの冒険者免許を見せると、


「はい、拝見いたしました。

スキルポイントが10たまったので、

簡単なスキルであれば二つほど習得可能ですが

どうなさいますか?」


とうとうリリアがスキルを

使えるようになるのか。

これは今すぐにでも習得させるべきだろう。


「ぜひお願いしたい。

確かギルドでスキルを教われるんだったな?」


「今日はもうやぁぁ…!帰るのぉ…」


とのことだった。

仕方あるまい、

スキル習得はまた次の機会にしよう。


「すまない、リリアがもう限界らしい。

また今度頼むよ。」


「は、はい!お待ちしております!」


女スタッフは笑顔で俺たちを送り出してくれた。

こうして、俺とリリアの初めてのクエストは

散々な形で幕を閉じた。

家に着くまでずっとリリアは

泣きべそを書いていて、

家に入るなりシャワーに直行した。

リリアが上がるまで俺はベトベトした体で

全身痒いまま待つのだった。


もしリリアが何かスキルを

習得している状態だったなら

こうはならなかったのだろうかと、

俺は考えずにはいられなかった。


窓から差し込む夕焼けの光が

俺を照らしてくれる中、

これからの冒険への不安を

募らせていく一方だった。


(俺の主人は、これからちゃんと

やっていけるだろうか…)


粘液まみれになったリリアの杖を

拭き取りながら、

そんなことを考える今日この頃なのであった。

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