EP:6 冒険者の生き方
試験を終えて俺たちは
冒険者ギルドへと足を運んでいた。
冒険者についての諸々の説明を受けるためだ。
「ねぇねぇ別に行かなくてよくない?
めんどくさいんだけど。」
リリアは気だるそうについてくる。
「…筆記試験の結果を忘れたか?」
俺がそう尋ねるとリリアは
ビクンと肩を振るわせた。
無言を返したリリアに
追い打ちをかける。
「合格点ギリギリだった
勇者様はどこの誰だろうな〜。
試験順位が下から三番目だった勇者様は
どこの誰だろうな〜。
スライムのことスイラムって書いてた勇者様は
どこの誰だろうな〜。」
「わ〜わ〜わ〜!!
わかった、わかった!
行く、行くって!
だからもう言わないで!!」
リリアは顔を真っ赤にして
渋々ギルドへ行くことを決めた。
リリアの知識は正直ギリギリ、
このままだと足を掬われかねない。
リリアの成長を考えると絶対に行くべきだ。
「ほら行くぞバカ勇者、
スイラムに殺されるなんてことが
ないようにな!」
「…もう言わないで〜///」
俺がめいっぱい辱めてやったら
リリアはおとなしくなった。
自分でも流石にまずいと自覚しているようだ。
リリアに知識をつけさせるだけが目的ではない。
俺自身も冒険者について気になっていた、
いわゆる好奇心からだ。
俺はギルドの扉を押し開ける。
ギルドに入って早々、
俺はスタッフの一人に声をかける。
「すまない、少しいいだろうか?」
そう尋ねるとスタッフは快く返してくれた。
「はい!大丈夫ですよ。
どうかなさいました?」
「このバカ勇者に冒険者について
教えてやってくれないか。
バカすぎて目に余るもので…」
「それは言い過ぎだよ///」
リリアは再び赤面して言い返してきた。
別に誇張したわけじゃない。
はっきり言える、こいつはバカだ。
今回の試験はかなり危なかった。
クエストやダンジョン探索、魔物との戦闘で
バカを発揮されるのは避けたい。
下手したら命を失う世界なわけだからな。
「わかりました、
では三番カウンターへお越しください。
私でよければ今すぐに対応可能ですが…?」
「ああ、頼む。」
俺とリリアは席につき、
スタッフの説明を受ける。
「まずは免許取得おめでとうございます。
ここで知識を復習しておくことで
これからの冒険を安全に、
容易に進められると思いますので、
心して聞いてくださいね。」
「復習、ね…」
「な、何よ///」
「まずは冒険者という職業について。
冒険者とは、我々冒険者ギルドが
依頼するクエストを引き受けて
生計を立てていく職業になります。
我々が支払う報酬金は国の税金から
賄われてるので公務員に属します。」
それが血税喰らいと言われる所以か。
リリアはもう恥はかくまいと
真剣に聞いている様子だ。
後でからかってやろ。
「クエストだけではなく、
素材の売買やモンスターの討伐などでも
お金を稼ぐことができます。」
「だそうだ、わかったか?」
「このくらいはわかるし!」
リリアは俺の肩をぼかすか叩いてくる。
やんちゃな小娘だな。
「えっと、続けますね。
次はスキルについてです。
野生のモンスターとの戦闘を
有利に進められる力のことで、
大抵のスキルは"魔力"を消費します。
スキルがなくても戦おうと思えば戦えますが、
スキルを身につけていたほうが
格段に有利に戦うことができます。」
ふむ。
この辺は俺でも知っている常識の範囲内だ。
「冒険者免許を出してもらえますか?」
「あっ、はい、どうぞ…」
リリアの冒険者免許には
様々な項目が書かれてあった。
「レベル1、スキルポイント0、習得スキル0、
魔力200、身長153cm、体重…」
「ちょっと!体重見ないで!!」
リリアの鉄拳が俺の頬に飛んできた。
なんだ、体重見られたくらいで。
「スキルを習得するためにはこの、
"スキルポイント"を使用します。
スキルポイントは"レベル"を上げることで
取得可能です。」
「レベルとは?」
「レベルというのは言うなれば強さの指標です。
レベルが高ければ高いほど魔法スキルの威力や
身体能力などの"ステータス"が高くなります。」
「ステータスとは…?」
「ええっと、冒険者さんの能力ですね。」
「…なるほど。」
頭がこんがらがってきた。
冒険者とはこんなに複雑なシステムのもと
成り立っていたのか?
レベル、ステータス、
知らない言葉が盛りだくさんだ。
「そのレベルを上げるにはどうすればいい。」
「レベルは、モンスターを倒したときに生じる、
"経験値"と呼ばれる光の玉を集めることで
上がっていきます。
経験値はクエストの報酬でも
得ることができますよ。」
つまりクエストをこなしたり、
魔物を討伐していくことで
自然と強くなっていくと…
なかなか面白いシステムだ。
俺たち魔族の場合は初めからその、
ステータス?は決まっていたからな。
努力次第で強くなれるというのは
恵まれた存在だな。
「少し脱線してしまいましたが、
スキルの習得についてですね。
スキルを習得するには他者から
使い方を教えてもらう必要があります。
教えてもらったら冒険者免許の、
習得可能スキルの欄に表示されるので、
必要なスキルポイントを消費することで
習得完了になります。」
「なーほーね。」
お前は今知ったんかい。
俺は生じた疑問を順に尋ねる。
「質問が二つある。
こいつはどんなスキルでも習得可能なのか?」
「はい、昨今の冒険者は基本的に
どんなスキルでも習得可能です。
かつては職業ごとに習得可能スキルに
違いがあったんですけどね。
今は誰でも回復魔法スキル、攻撃魔法スキル、
武闘家スキルとすべて習得可能です。」
そうだったのか。
俺のよく知る冒険者と言ったら
それぞれ専門職があり、
役割を分担していたが…
もしかして俺のスキルも教えれば
習得可能なのか?
「二つ目だ。
こいつは誰にスキルを教わればいい?
あいにくこいつは人脈がなくてな。」
俺がそう言うとリリアは俯いて肩を震わせた。
今日だけでこいつは何度羞恥を覚えたのか。
「その点は心配ありません。
冒険者ギルドで手配しております。
習得したいスキルがあれば私たちスタッフに
お声かけください。」
ふむふむ…
あらかた理解できた。
冒険者はこのギルドがなければ
完全に機能を失うと言ってもいいわけだ。
だがそれだけギルドが
優秀な働きをしていると言える。
「説明感謝する。
あとは大丈夫だ。
また後日、クエストを受けさせてもらうよ。」
俺は微笑んで感謝の気持ちを伝える。
「は、はい!」
スタッフの女は急足で去ってしまった。
何か用でもあったのだろうか?
リリアはその様を見て不満な顔を浮かべた。
「ん?なんだその目は。」
「…別に!」
何を怒っているんだ?
揶揄いすぎたか?
「クロってさ、私のお父さん?
面倒見良すぎない?」
「お前みたいな娘ができたら俺は泣く。」
「うらぁぁぁぁ!」
俺がそう言うとリリアは飛びついてきた。
どうやら琴線に触れたらしい。
「や、やめろ、◯◯kgの重みが…」
「体重言うな!!!」
リリアとの押し問答を経て
俺たちはギルドを後にした。
まぁ無事に免許を取得できたことだし、
一件落着だな。
帰路につこうとしたとき、
リリアが待って!と呼び止めてきた。
「寄りたいところがあるからちょっときてよ。」
リリアはそう言った。
寄りたいところ…?
鍛冶屋か?それともまた服屋か?
「どこへ行きたい。」
俺が尋ねるとリリアは驚愕な言葉を口にした。
「不動産屋さん。」
「…はぁ?」
不動産、つまりは家…
こいつはエリオスに住み着く気なのか?
この始まりの街に?
始まりの街に家を構える勇者だと?
「お前は何を言っている。」
「何って、賃貸借りて暮らそうかな〜って。」
「賃貸借りる冒険者なんて聞いたことない!」
冒険者とはその名の通り、
各地を巡り冒険していく者たちのことだ。
まずはこの始まりの街エリオスで力をつけ、
新天地でまた力をつける、
そしてまた次の新天地へ。
それが冒険者の定石だ。
魔王の俺でさえ知っている常識だぞ。
それなのにこいつはなんだ、
冒険する気なんてさらさらないと言うことか?
「だってだって、もう魔王なんていないから
わざわざこの街出る理由ないし…」
「うぐっ…」
何も言い返せない。
「宿の硬いベッドより
ふかふかのベッドで寝たいし…」
「うぐぐ…」
「野宿なんて死んでも嫌。」
「ぐはっ!」
ダメだ、ぐうの音も出ない!
よく考えたらそうだな!
大義なんてないのにそんな生活するなんて
アホらしいな!
「というわけで!
帰る前に物件紹介してもらって、
なるべく早く我が家を構えちゃいましょ〜!」
リリアは拳を突き上げ、
ノリノリで歩み始めた。
俺はそのテンションについていけなかった。
「もしかして俺の考えが古いのか…?」




