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冒険者免許取得試験:後編

俺とリリアが扉を開けて試験会場に戻ったとき、

さっき説明をしてくれたスタッフの女と

試験用ゴーレムが待っていた。

ゴーレムの大きさは一般的な成人の男より

一回り大きいくらいで、

ゴーレムにしては小さい方だった。


「それではリリア・エヴァンスさん、

準備はいいですね?」


リリアはその問いに対して無言の頷きを返す。

表情にかなりの緊張感が表れている。

この空気感、俺は大好きだ。


周りに大勢の冒険者候補の人間が集まってきた。

カイト・ブライトも含め、

皆勇者の実力を確かめたいのだろう。

こいつらの期待に応えられる力をこいつは…


「試験、開始!」


スタッフが叫ぶのと同時に戦闘開始を知らせる

ゴングが鳴り響く。

リリアは石の剣を構えてゴーレムに向ける。

ゴーレムは地鳴りを起こしながら

こちらへ近づいてくる。


リリアは自ら攻撃を仕掛けるのかと思いきや…


「行け!クロ!破滅の光!」


「そんなスキルあるか!」


こいついきなり俺にやらせる気か。

俺がやれば確かに合格は余裕だろう。

だが、それはこいつの成長につながらない。

今はこいつに現実を見せよう、

冒険者が日々相手にする魔物が

どんなものなのかを。


「ゴォォォォォ!」


ゴーレムが岩でできた重い拳を振りかぶり

リリア目掛けて振り下ろす。

リリアは石の剣で防御の姿勢をとるが

受けきれずに地面に叩きつけられる。


「がはっ!」


所詮は小さいゴーレムだ。

一撃の威力などたかが知れている。

だが今の攻撃はリリアの心をへし折るには

十分だったらしい。

リリアの表情が恐怖に染まる。

完全に戦意を失っているようだ。

体が震えて立つこともままならないらしい。


「はっ、はっ、はっ…」


呼吸が浅くなっている。

冷や汗がとめどなく溢れている。

そうだ、俺は無意識のうちに

リリアを過信していた。

天の紋章を持つ選ばれし勇者である前に、

こいつだって年端のいかない一人の小娘、

魔物を前に怯えるのは当然の反応だろう。


そんなリリアにゴーレムは容赦なく

近づいていく。


「あっ、かっ、たすっ、あっ…」


リリアは俺の方を見て口をパクパクさせながら

声にならない声をあげる。

目尻から涙が溢れそうだ。

その姿を見て周囲の人間は失望の声を上げた。


「なんだあいつ、だっせ。」


「大したことないな。」


俺にはそれらの言葉を否定できない。

今のリリアの無様な醜態を目にすればな。

だが…


俺はリリアの前に立ち塞がり

ゴーレムと対峙する。

こいつにはなんだかんだ世話になって

愛着が湧いてきてしまったからな。

ここいらで軽く恩返しといこう。


「クロ、力を貸して…」


俺に懇願してきたリリアの表情と言葉が

脳内を反芻し駆け巡る。

テイムモンスターのさがなのか、

体が勝手に動きリリアを守ってしまう。


「ゴォォォォォ!」


今度は俺に拳を向けて放ってきた。


(こんなもの…)


俺は片手でそれを受け止める。

そして軽く握り締めてやると

岩の拳が崩れ落ちた。


「ーー!!」


ゴーレムは動揺を隠せない様子だ。

後退りして俺から距離をとった。

俺はその隙を逃さずに胴体に膝を叩き込む。

鈍い音が響き渡りゴーレムの

胴体に大きな窪みができた。


周囲の人間が湧き上がる。

俺にとっては耳障りな雑音に等しいがな。

リリアは安堵の目を俺に向けてくる。

依然として涙が止まらない様子だ。

リリアのそんな姿にため息が出つつも

俺は"スキル"を発動する。


「"カースバインド"」


これが俺の扱うスキルの一つ、

"バインドスキル"、

拘束スキルとも言う。

人間が扱う場合はワイヤーやロープを

用いると聞くが俺の場合は違う。

体内の魔力を抽出して編み出した

魔力の縄を手から生み出し、

相手を拘束する。

これによりゴーレムは一切の動きを封じられた。


「うん?」


なんだこの違和感…


「ゴ…」


ゴーレムの体から軋み音が聞こえてくる。

本来ならばこのまま締め潰すことも可能だが、

今のリリアためには…


「リリア、来い。

トドメはお前がさせ。」


リリアは無言で首を振った。

まだ恐怖が消えていないのだろう。

だが俺はここで甘やかすことなどしない。


「早く立て。

お前がやるんだ、お前は選ばれし勇者だろう?」


俺がそう告げると逃げることは

できないと悟ったのか、

リリアは恐る恐る立ち上がり俺に近づいてくる。

そして俺の服の裾をそっと掴む。

その手は震えている。

もはや剣を構えることも難しいほどに。


「今のこいつを見てみろ。

俺に体を破壊され、

拘束されて動きも封じられている。

お前はそれでもこいつが怖いのか?」


「…ううん。」


リリアは涙を拭い首を横に振る。

そして意を決したように剣を握り直し、

ゴーレムに向けて構える。


(そうだ、それでいい。

今日のところは、お前が自分で

立ち向かうことが重要だ。)


リリアは先ほど俺がつけたゴーレムの傷目掛けて

強く、大きく剣を振りかぶり、

全身全霊の力を叩き込む…!


「やぁぁぁぁぁ!」


辺りに甲高い音が鳴り響くと

ゴーレムの体がぼろぼろと崩れ落ちていく。

俺たちの、いやリリアの勝利だ。


「試験終了!」


その結果を見て再び

周囲の人間どもは湧き上がる。

やかましい、大袈裟にも程がある。


「リリア・エヴァンスさん、

控え室の方で治療を受けることができます。

貸し出し用の装備は私が回収しますので

頂戴します。

試験、お疲れ様でした。

結果は全員の試験が終わり次第

順次お伝えしますので。」


と言ってスタッフは

次の受験者のもとへ向かっていった。


「ほら、聞いただろう?

さっさと控え室に行くぞ?」


俺がそう言うとリリアは俺に抱きついてきた、

泥だらけの姿で。


「ありがとう…」


リリアの目から涙が溢れ出す。

俺のことを力強く抱きしめて咽び泣く。


「…おい、周りからの視線が熱い、

早く行くぞ。

せっかく買ってくれた服が

ぐしょぐしょになるだろう?」


そう言うとリリアは顔を上げて

屈託のない笑顔を向けてくる。


「えへへ。」


まったく、本当に世話が焼ける勇者だな。

俺はそっと背中を差し出す。


「ほら、おぶってやるよ。」


リリアは遠慮なく飛びついてきた。

俺はそのままリリアを連れて控え室に向かう。

リリアの冒険者免許取得試験は

こうして幕を閉じるのだった。




「うあぁぁ、染みる〜。」


リリアが治療を受けている間、

先ほどの戦闘で感じた

違和感の正体に気づいた。


(かなり弱体化しているな。)


スキルの威力はもちろんとして、

拳の威力も魔王だった頃より

かなり落ちているのを感じる。

時間による衰え、ではないだろう。

この世界に召喚されてから

数日しか経っていない。

衰えるほどの時間は経っていない。

可能性があるとすれば…


(テイムされたことが原因なのか…?)


自身の拳を眺め、握りしめる。

この弱体化が永続的にかかり続けるのか、

はたまた一定の力まで制限するものなのか

わからないが、

何か対策を打たねばならないな…

俺がそんなことを考えていたとき、


「クロ〜!」


リリアが背中に抱きついてきた。


「やめろ、くっつくな。」


「えぇ〜いいじゃ〜ん。」


(こいつ、さっきまでべそかいてたのに。)


リリアは隣にちょこんと座ってきた。


「どうしたの浮かない顔して。

何か悩みごと?」


察しがいいなこいつ。

まぁ言うべきことではないか。


「なんでもない…」


「絶対何かあるでしょそれ〜。

いいから教えてよ。」


リリアは俺の腕をつつきながら

だる絡みしてくる。


「何もない。

今は試験が終わったことを

喜んでいればいいんだ。」


そう伝えるととリリアは

声のトーンを落として言ってきた。


「…よくないよ。

私、クロに助けてもらったもん。

クロがいなかったらあのまま

負けてただろうから…

だから恩返ししたいの。

悩んでることあるならなんでも言って、

話を聞くくらいはできるから。」


リリアの切実な思いだった。

恩返ししたいと言っても、

俺の方こそ恩返しをしたつもりだったんだが…

その思いを聞いたとて、

これはリリアに話す必要はない。


「何もない。

だから安心しろ。」


そう答えるとリリアは唇を尖らせ

不満な表情を浮かべた。


「まぁいいや。

ていうかさ、やっぱりクロって強いんだね。

さすが自称魔王!」


「自称じゃない!」


この期に及んでまだ信じてないのか…!


「あはは、冗談冗談。

あの強さを見ちゃったら

本当に魔王な気がしてきたよ。

なんで私なんかがテイムできたんだろ。」


「そんなもん知るか。

俺が聞きたい。」


「あはは、だよね〜。」


俺たちの間にしばしの静寂が走る。

その空気を断ち切って

リリアがか細い声で聞いてきた。


「ねぇクロ、今日の私を見てどう思った?

幻滅した…?」


俯き、軽く頬を染めながらリリアは尋ねる。


「ああ、した。」


「んもう!」


だがいい機会になった。

勇者ではなく、リリア自身を見るいい機会に。

俺とリリアが問答を繰り返しているうちに

カイト・ブライトがやってきた。


「リリアお疲れ様、そろそろ結果がわかる頃だ。

一緒に行こうぜ。」


「えっ、あっ、う、うん…」


リリアは途端にしどろもどろになる。

そんなリリアの手を引き、

俺はカイト・ブライトの後に続く。

そして先ほどのスタッフの女がリリアに対して、


「リリア・エヴァンスさん、

おめでとうございます!

合格です!

こちら、冒険者免許になります。」


と言って一枚の小さなカードを手渡した。

大きさは大体トランプのカードくらいだろうか。

カイト・ブライトも同じく合格したようだ。


「それでは冒険者の皆様、

"進め、その先に栄光あれ!"」



スタッフたちの冒険者への激励を受けて、

俺たちは第一訓練場を後にする。

これから俺たちの、

冒険の日々が幕を開けるんだ…

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