EP:13 ルミナス騎士団
ダンジョンの暗闇の中、
一筋の光が俺たちを照らす。
「"フラッシュ"!」
その光は、リリアの放った
フラッシュスキルだった。
「うっ!あっ!」
「………」
フラッシュスキルがラヴェリシアの目を潰す。
暗から明への瞬時の移転、
視界を封じるには十分すぎる一手だった。
「リリア、なぜ来た…」
リリアは間髪入れずに俺を肩に担いで答える。
「今はいいから…!早く逃げるよ!」
「………」
俺たちはダンジョンの階段を駆け上がる。
ラヴェリシアとの再会、敗北、
思うことはいろいろあった。
だが今は何よりも…
(リリアに、助けられる日が来ようとは…)
ラヴェリシアは追ってこなかった。
ダンジョンを出た後、
カイトパーティーと合流して
一心不乱に走り続けた。
リリアの涙が俺の頬に当たる。
怖い思いをさせてしまったらしい。
「はぁ、はぁ、この辺でいいんじゃない?」
カイトの取り巻きがそう言い出し、
俺たちはエリオスの側の平原に座り込む。
俺は思わず地に倒れ込んでしまう。
「あ、あぁぁぁぁぁ…」
戦闘での疲労が一気にきたな。
体力や魔力が吸収されたせいで枯渇している。
あのまま戦い続けていれば、
全て吸い尽くされていたやもしれん。
俺がぶっ倒れた途端にリリアが抱きついてくる。
「クロ…!」
リリアは涙ながらに口を開く。
「よかった、よかったぁ…」
何を大袈裟な、と思いふと自身の体を見ると
全身傷だらけだった。
必死で気づかなかったが、
かなり手痛くやられていたらしい。
ラヴェリシア、やってくれたな…
ここまで追い詰められたのはいつぶりだろうか…
俺はそっとリリアの頭を撫でる。
するとリリアはより力強く抱きしめてくる。
安心させてやるために、
リリアの背中に手を回して抱きしめ返す。
目覚めたカイトは
複雑な表情でその様を眺めてきた。
「早くギルドに戻って報告するぞ。
あのダンジョンには近づくな、とな。」
リリアを初めその場の全員が無言で頷く。
立てない俺をカイトが担いでくれた。
「お前は平気なのか?」
「ああ、俺はたった一発しか
喰らってないしな。」
俺たちは敗北を噛み締めて歩き出す。
リリアはずっと泣きべそをかいていた。
何を泣くことがある、
無事に危機を乗り越えただろう?
お前の力はラヴェリシアに通じただろうに…
俺は一人家に送り帰された。
リリアは口うるさく、
「もう休んで!」
と、しきりに言ってきたからだ。
(あいつ、俺がいないとギルドのスタッフにも
話しかけられないのに大丈夫なのか…?)
ベッドの上に寝っ転がり、
天井を眺めながら考える。
ラヴェリシアは俺に気づいていない様子だった。
それは無理もない。
あのときより遥かに弱体化してる上に、
ダンジョンの暗がりで
姿を視認するのは困難だった。
だが普通は魔力の性質で判別できるものだ。
あいつにとっての俺は、
絶対服従を誓う最愛の主君。
そんな俺の魔力を理解できないはずはない。
そこから至る結論は…
(俺の魔力の性質が、変化しているのか?)
ここ数日間での俺の成長か、
はたまたテイムされた影響か、真実は闇の中だ。
10分ほど経ってリリアが帰ってきた、
二人の客人と共に。
「ただいま!クロ生きてる!?」
「生きとるわ!」
言い返した俺を見てリリアは安堵した。
どんだけ心配してんだこいつ…
「"メルティ"さん、お願いします…」
リリアがそう言うと一人の小娘が近づいてきた。
見た目からして年はリリアと同等、
リリアよりも賢そうだな。
「はい、クロさん?
少しだけ動かずにいてくださいね?
"リフレイン"。」
メルティとかいう小娘は
回復魔法スキルを俺に発動した。
どうやらリリアが俺のために
連れてきてくれたヒーラーのようだ。
体全体がひんやり冷たくなっていき、
怪我だけでなく疲労も
なくなっていくのを感じる。
(初めて受けたな、これが回復魔法か。)
これはとてもいい。
絶対にリリアにも覚えさせよう。
「ふぅ、どうですか?
一通り傷は治せたかなと。」
ものの数秒で戦いで受けた傷が全回復した。
驚くほどに体が軽くなった。
500年前の俺の統治時代、
冒険者パーティーに僧侶が必ずいた理由が、
今ではよくわかる。
起き上がるとリリアがまた飛びついてきた。
「よかったぁ!
クロが死んじゃってたらって思うと、
私、怖くて怖くて…!」
俺はかなり好かれてしまったらしい。
そしてリリアに対する俺の気持ちも同様だ。
「俺が死んだらお前は冒険者できないもんな。」
俺の軽口にリリアははにかみながら頷いた。
てっきり否定してくるもんだと思っていたが…
「おいお前、メルティ、とか言ったか?
ありがとうな。」
感謝を伝えるとメルティは照れた様子で
後頭部を掻きながら言った。
「いえいえ、いいんです。」
俺たちの会話に割って入るように
リリアの連れてきたもう一人の客、
荘厳な鎧に身を包んだ好青年が口を開いた。
「勇者リリア殿、テイムモンスターが
回復したところで本題に入らせてもらおう。」
「あ、はい。」
リリアはこの男に対しては
しどろもどろになってしまうらしい。
まあ確かに、メルティと違って人相悪いしなぁ。
「改めて自己紹介をさせていただく。
私は王都の護衛騎士団、
"ルミナス騎士団"の副団長を務める
ゼーフリートという者だ。
この度、魔王軍の生き残りにして
黙示録の四騎士、飢饉のラヴェリシアの
討伐に協力を願いたくて参上した。
構わないか?
テイムモンスターのクロ殿。」
情報量が多すぎる。
一気にいろいろ喋るやつだな…
ルミナス騎士団、ギルドのスタッフが言っていた
ラヴェリシアに蹴散らされたという騎士団か?
副団長ということは王都の精鋭、
実力は確かだろう。
「なぜ俺に許可を求める?
俺はあくまでこいつの従者だぞ?」
そう言いながらリリアの頬を引っ張ってやる。
毎度思うがぷにぷにしてて
触り心地がいいんだよな。
「いや、あなたの許可が欲しいと、
リリア殿から言われたのだが…」
なるほど、こいつの差金だったか。
魔王の俺に気を遣ってくれたのか、
はたまた怖気付いて俺に押し付けたのか、
どちらにせよ一報を与えられたのはありがたい。
ラヴェリシアの討伐、主君としては複雑だ。
この手で忠誠心の高い部下を殺すなどと…
しかしリリアはこれでも勇者だ。
このような高難度の案件は
押し付けられて然るべき存在…
断ればリリアの立場がなくなる。
俺抜きでやってくれ、
などと無責任なことは言えない。
俺がいなければそもそも、
ラヴェリシアに勝つこと事態不可能だろう。
リリアの命だって危ないしな。
俺がなかなか答えを出せずにいると…
「彼女と戦り合った経験を持つあなたには、
是非とも協力を願いたい。
無理強いはしないがな。」
性格の悪い奴だな。
無理強いしないだなんてよく言えたものだな。
目が明らかに俺たちを
逃さないとでも言いたげだ。
リリアはぐいぐいと俺の服の裾を
引っ張り小声で耳打ちしてくる。
「クロの好きにしていいよ。
私は正直怖いし…」
リリアは俺に選択を委ねてくれるらしい。
腕を組みながら指をトントンと腕に当てる、
早くしろと言いたそうなゼーフリート、
あわあわとして場の雰囲気に
呑まれているメルティ、
俺の肩に寄り添うリリア、
三人の視線を受けながら俺は答える。
「わかった、協力しよう。
俺の持つ情報もできる限り提供する。」
そう伝えるとゼーフリートは
満足そうに微笑み、
ドアの方に向かいながら言ってくる。
「できる限りではなく、
全ての情報をいただきたいがな。」
そう言い残して家を出た。
俺たち三人の緊張感が一気に和らぐ。
「ふぁぁぁ、私あの人苦手だぁ。」
と言ってリリアは俺の膝に頭を乗せてくる。
どうしたんだこいつは、
いくらなんでも甘えすぎだろう?
そんな俺たちの方を改まった顔で見ながら
メルティが話し始める。
「あの!私をお二人のパーティーに
加えてくれませんか!?」
唐突な懇願だった。
「あっ、えっ、あ…?ぱ、パーティーに…?」
リリアはわかりやすく動揺した。
それもそのはず、
こいつは他人とまともに話せない。
今までは俺とだけ話せばよかったものを、
メルティが加入すれば新たな人間関係を
構築する必要が出てくる。
人間関係にトラウマを持つリリアにとっては、
なかなかに高い壁だろう。
メルティはリリアを置き去りにして
理由を語り出す。
「私、ついこの前冒険者になったばかりで、
試験のときお二人のことを見てたんです。」
ほう、あのときのうるさい観客の一人だったか。
「だったらなぜこいつを選ぶ?
試験ではこいつは恥を晒しただけだ。
冒険者になったあともスライムに
二度も大敗しているような奴だぞ?」
リリアの黒歴史をこれでもかと晒してやると、
リリアは真っ赤になりながら
俺の両耳を引っ張って抗議して来た。
その様子を見てメルティはと言うと…
「はい、知ってます。
試験の様子は見てましたし、
ベトベトになったリリアさんも見ました。
二回も負けたのは初耳ですが…
それでも!お二人はとても仲が良くて、
楽しそうに冒険者やってます。
それが羨ましくて、
仲間に入れて欲しいなって…」
ふむ、こんなダメ勇者でも
人を惹きつける何かを持っているのだろうか…?
「リリア、どうするんだ?」
俺の問いに対して、リリアの出した答えは…




