EP:10 ダンジョン探索の心得
リリアと交代で付着したスライムの
粘液を洗い流した後、
俺たちは冒険者ギルドへ足を運んでいた。
「俺はスライムの素材を換金してくるから、
スタッフに頼んでスキル教わっておけ。」
そう言い残してギルドの素材換金所に向かう。
カウンターに座る
いつもの女スタッフに話しかける。
「すまない、今いいか?」
俺が訪問するとスタッフは
一瞬驚いた様子を見せ、
すぐに仕事モードの雰囲気で対応してくれた。
「は、はい!換金ですね!」
「ああ、頼む。」
採集袋を手渡しちょっとした世間話を挟む。
「アンタ、今日の持ち場はここなんだな。
ギルドのスタッフの仕事は
日によって変わるのか?」
そう尋ねるとスタッフは
ほんのり顔を赤らめながら答えた。
なんだ?やらしいことは
聞いてないはずなんだが…
「えっ?あっ、はい、そうなんです。
毎日毎日大変で…」
口ではそう言いつつも作業の手は一切緩めない。
やけに目線が泳いでいるのが気になるが、
なんとなく触れるべきではないと
感じたため触れなかった。
「いつもありがとうな。
ギルドの働きにはいつも助かっているよ。
あのバカ勇者と一緒だと尚更な。」
「あはは、それでもすごいですよ。
あの伝説の勇者様とその使い魔なんですから。
お二人の力があれば"黙示録の四騎士"だって…」
今聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「ん?今なんと言った?」
「えっ?黙示録の四騎士、ですか…?」
俺の耳に間違いはなかったようだ。
黙示録の四騎士…
魔王だった頃の俺に仕えていた四人の幹部だ。
それぞれ"死"、"飢饉"、"征服"、"戦争"の名を
冠する魔族たちだ。
今は俺が従えていたときから
500年経っていると聞く。
未だ生きているとは、なかなか嬉しい情報だ。
「その四騎士がどうかしたのか?」
俺が尋ねると神妙な面持ちで答えた。
「はい、実は…
黙示録の四騎士の一人、飢饉を担当する魔族が、
王都の騎士団を蹴散らしてエリオス近郊に
向かったという情報が入りまして…
もしかしたら、元魔王軍の幹部を討伐するための
緊急クエストを依頼しなければならないかも
しれなくって…」
「本当か!?」
思わず肩につかみかかって聞き返してしまった。
スタッフは顔を真っ赤にして
動揺している様子だ。
「ふぇっ!?えっと、その、はい…」
飢饉を担当する魔族となると、
"ラヴェリシア"だな。
あのときは鬱陶しくて仕方なかったが、
いざ会えなくなると寂しいものだ。
近いうちに再会したいものだな。
俺は換金してもらった銀貨2枚を受け取って
リリアの元へ向かう。
リリアは端っこの方で
ちょこんと座り込んでいた。
暗い顔を浮かべていたが
俺を見るやいなやパァッと晴れて笑顔になった。
「クロ!もう、遅いよ〜。」
「お前は何をしている。
俺は確かに、スキルを教わってこいと
言ったはずだ。
もう習得したのか?」
リリアはバツが悪そうに無言で首を振った。
「なんでだよ。」
リリアは手遊びをして俯きながら
ぽつりぽたりと話し始める。
「…クロと一緒が良かったから。」
「…はぁっ!?」
俺は驚きを隠しきれなかった。
勘弁してくれ、本当に俺なしじゃ
成り立たなくなる…
「だって私人見知りだから、
人と話すの得意じゃないし…
一人だと不安になっちゃうから…」
リリアは虚ろな目を向けてきた。
そうだった、忘れるところだった。
こいつは学校でいじめられてたんだった。
それなら人付き合いが
怖くなるのも無理はない、か?
俺に接してくるときは
そんな素振りはないんだけどなぁ。
俺はリリアに手を差し伸べて告げる。
「ほら行くぞ、今日だけは一緒に行ってやる。」
リリアは俺の手を掴み嬉しそうに口を開く。
「へへ〜ん、毎日一緒だも〜ん。
じゃないとスライムにも勝てないし〜。」
「それはもっと恥じてくれ。」
いい加減にしてほしい、
という思いもなくはない。
だが、こんなふうに頼られるのは嫌いじゃない。
ちょっとずつ、ちょっとずつリリアと
過ごす時間に暖かさを感じていく自分がいる。
(これでも魔王なんだけどな…)
毎度のごとく受付書類を仕上げ、
ギルドの受付カウンターは提出する。
そして待つこと数分、
リリアの名が呼ばれたところで
スタッフのもとへ向かう。
「冒険者リリアさん、よろしくお願いします。
本日はスキルの教授、でお間違いないですね?」
「あっ、はい…」
考えてみるとリリアは人と話す時
しどろもどろになるんだよな。
これも全部いじめられたことの弊害か。
この過去を清算できる日は来るのだろうか。
「かしこまりました。
スキルの習得ですが、
大抵は次に引き受けるクエストに備えて
どのスキルを身につけるのか決めるものですが、
スキルのご所望はございますか?」
「えっ!?あっ、えあ〜、その…」
リリアは目に見えて動揺している。
まぁこいつは何も考えていないわけだしな。
俺は二人の会話に割って入るように助言する。
「すまない、こいつはまだ初心者で、
右も左もわからない状態なんだ。
次はダンジョン探索のクエストを
受けたいと考えているんだが、
何かおすすめのスキルはあるか?」
そう尋ねるとスタッフは
いくつか提示してくれた。
「そうですねぇ、
便利なものですと、
"暗視"スキルや"探知"スキルでしょうか。
どちらもダンジョンに潜る上では
必須級のスキルですよ?」
「それらは今はいいんだ。
何か他にないか?」
「そ、そうですか?
なら…あっ、"フラッシュ"スキル
なんていかがでしょう?
周囲を明るく照らす光のスキルで、
"アンデッドモンスター"を
退ける効果があります。
ダンジョンにはアンデッドが
つきものですから。」
なるほど、フラッシュスキルか。
実を言うとかなりありがたい。
アンデッドモンスターとは
生ける屍とも呼ばれる、
生死の狭間の奇妙な魔物だ。
死しているために物理攻撃では
有効打にならない。
己の肉体のみで戦う俺の天敵とも言える存在だ。
そんなアンデッドを遠ざけられるという効果は
本当にありがたい。
迷う余地はない。
「それを教えてくれ。」
「えっ?なんで?」
リリアが聞いてきたが無視して話を進める。
するとリリアは子どものように
頬を膨らませていじけだした。
「承知しました。
フラッシュの習得に必要な
スキルポイントは3です。
今リリアさんが所持している
スキルポイントは12なので、
初級攻撃魔法スキルであれば一つだけ
習得可能ですが…?」
商売の上手いやつだ。
リリアの杖を見て魔法スキルが
必要になることを見抜き、
残りのポイントで覚えられるスキルを
叩き出してくる。
おまけにリリアの好奇心を湧き立たせる。
とことん金を搾り取るつもりだな?
「ぜ、ぜひお願いします…!」
リリアのその返答を聞いて
スタッフは満足そうな表情でいくつかの
スキルを提示してきた。
まぁ、リリアの攻撃力が皆無だったからな。
仕方なく、分かった上で、あえて、
乗ってやろう。
別にこいつの誘惑に負けたわけではないからな!
「初級攻撃魔法には6つの属性がありますが、
どれになさいますか?
ダンジョン探索ですと、
松明に火をつけられる"炎属性"のスキルが
おすすめですよ!!」
スタッフのテンションが上がってきた。
この商売勝負の勝利を確信したからだろう。
なんかムカつく。
「じゃ、じゃあ炎にします…
何かと使い勝手良さそうですし…」
リリアがそう返すと、
スタッフは快く二つのスキルを教授してくれた。
リリアがスキルを無事に習得した後、
しっかりと料金を払わされた。
何はともあれ、リリアが攻撃の手を得た
というのはなかなか大きい。
杖を振り回すなんてアホなやり方じゃ、
これからの冒険では通用しないだろうから。
リリアは冒険者免許の
習得済みスキルの欄を眺めて目を輝かせた。
冒険者として自身の成長を喜ぶその様を見て、
俺は少し羨ましいと感じるのだった。
ダンジョン探索の話を聞いたからか、
スタッフが有益な情報を教えてくれた。
「ダンジョン探索のクエストですと、
明日掲示予定のこのクエストは
いかがでしょうか?
最近見つかったばかりのダンジョンで、
まだ誰にも探索されていませんよ?」
と言ってクエストの張り紙を見せてくれた。
無論、断る理由などない。
「ぜひ明日引き受けよう。」
星3の探索クエスト、
今のリリアには少し難易度が高いかもしれんが、
俺がいれば大抵のことはなんとかなる。
問答無用、引き受けようじゃないか。
リリアは不安な顔をしながら
苦言を呈してきたが、
俺は押し切ってクエスト受理の申請をする。
待つこと数分、
無事にクエストを受諾できたようだった。
俺たちはその日はレストランで
美味い飯を食って帰ろうと話していたため、
ギルドを出てレストランに
向かおうとしたのだが、
「リリア!」
カイト・ブライトがリリアを呼び止めた。
呼ばれた途端、リリアはびくんと肩を震わせて
おそるおそるカイトに話しかけた。
「な、なに…?」
俺たちが振り返るとカイトの隣には
二人の女冒険者が佇んでいた。
こいつらの目的は…




