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第3話 敵国での就職交渉は魔力測定から

 馬車を降りた私は、敵国ヴァレンティアの王都を見下ろす丘の上で足を止めた。


 岩山の斜面に石造りの家が段々に並び、頂には黒い城、麓には市場らしき賑わい。鍛冶の音に、パンの匂いまで混じっている。


(もっと血なまぐさい街だと思っていたのだけれど……普通に暮らしがあるのね)


「どうだ、我が国の1番の印象は」


 隣のユリウス殿下が、わずかに口元を緩める。


「思ったより物騒ではありませんわ」


「それは光栄だ」


 やがて馬車は、街の中央にそびえる灰色と銀色の塔の前で止まった。壁面に魔法陣が彫り込まれた塔だ。


「あれが国立魔導研究所、灰銀塔だ。まずはここで、きみの魔力と体の状態を調べる」


「お城より先に健康診断ですのね」


「準備を重んじる国なのでな」


 扉をくぐると、ひんやりした空気とインクの匂い。受付の奥から、髪をまとめた女性が白衣めいたローブを翻しながら現れた。


「殿下、噂の悪役令嬢さん、無事確保?」


「物騒な言い方はやめろ、レナ所長」


 レナと呼ばれた研究者は、私を上から下まで眺めてにやりと笑う。


「グランベルトの公爵令嬢で前世持ち疑惑あり、ね。本人がうちに来るなんて、研究者冥利に尽きるわ」


「情報がずいぶん詳しいですわね」


「うちの情報部が優秀なの」


 その言葉に合わせるように、後ろで少年騎士ルカの肩がぴくりと震えた。問い詰めるのは後にして、私は測定室へと案内される。


     ◇


 円形の部屋の中央に、金属と水晶でできた大きな装置が置かれていた。前世で見た実験器具を、魔法で派手にしたような見た目だ。


「この円盤に手を置いて、いつも通り魔力を巡らせて。壊れても怒らないでね」


「前置きがすでに不安ですわ」


 苦笑しつつ、私は両手をそっと円盤の上に乗せる。深呼吸を1つ。


「では、始めます」


 意識を集中させ、魔力を解き放った瞬間。


 ぎゅん、と音を立てて針が振り切れ、水晶にはひびが走った。装置全体が震え、最後にがくりと沈黙する。


「ちょっと待って、まだ最大値まで距離あったはずなんだけど!?」


「これは……壊してしまいましたわね?」


「いいわ、むしろ壊れてくれてありがとう。王族級どころか、それ以上。属性は光と闇と風の複合。教科書を書き換えたいレベルね」


「光と闇、両方ですの?」


「ええ。どちらか片方だけでも貴重なのに、両方持って風まで乗せてくるなんて、世界は本気であなたに何かさせる気らしいわ」


 世界。聖女システムも、10年前の光も、その中に含まれているのだろうか。


「どうやら噂以上の人材だったようだな」


 扉にもたれていたユリウス殿下が、楽しげに笑った。


「これで、堂々と交渉ができる」


「交渉、ですか?」


「そう。きみをこの国の客将兼魔導顧問として迎え入れる交渉を」


     ◇


 上階の会議室で、私たちは向かい合って座った。窓の外には段々に並ぶ家々と、市場の屋根が見える。


「まずは条件を整理しよう」


 ユリウス殿下とレナ所長、そして所在なさげに座るルカが同席している。


「その、レイチェル様」


 観念したように、ルカが口を開いた。


「俺、本当はヴァレンティア情報部所属で……殿下の命令でずっとレイチェル様の側にいました。監視役で、すみません!」


 深々と頭を下げる少年を見て、私は肩の力を抜いた。


「薄々気づいておりましたわ。妙に有能でしたもの」


「すみません……」


「でも、あの断罪の日に命懸けで助けてくれたのも事実です。そこは感謝していますわ。今後も目的が同じうちは、よろしくお願いします」


 ルカがぱっと顔を上げる。


「はいっ!」


 その様子に、ユリウス殿下が苦笑した。


「きみは本当に、人を切り捨てるのが下手だな」


「褒め言葉として受け取っておきますわ」


「もちろん。俺にとっては、そういうきみの方が都合がいい」


 軽く1回咳払いをする。彼は真剣な目で私を見る。


「レイチェル。きみをヴァレンティアの客将兼魔導顧問として迎えたい。役目は、聖女システムとグランベルトの分析。我が国の魔導体系の改良と結界の実戦運用だ」


「盛りだくさんですわね」


「その分、待遇は最大限用意する。研究所の設備は使い放題、住まいも選ばせよう」


 レナ所長が笑う。


「研究者としては、こっちに住み込んでほしいけどね」


「ただし」


 ユリウス殿下の声が少し低くなった。


「これは、きみを再び戦場に立たせる契約でもある。グランベルトが暴走すれば、その矢面に立つのは俺たちだ」


 私は胸に手を当てる。


「私からも条件を1つ、」


「聞こう」


「グランベルトが私を再利用しようとしても、私の意思を無視して連れ戻すことはさせないでください。私はもう、あの国の所有物ではありません。ここで働くなら、私自身の選択として守ってほしいのです」


 短い沈黙ののち、ユリウス殿下は立ち上がり、手を差し出した。


「約束しよう。きみを駒ではなく、対等な味方として迎える。2度と勝手に捨てさせない」


 胸の奥がじんと熱くなる。


「分かりましたわ、ユリウス殿下。悪役令嬢レイチェル・アルノー、敵国ヴァレンティア王国にて、第2の人生を始めさせていただきます」


 彼は愉快そうに口の端を上げた。


「その顔だ。実に悪役令嬢らしくていい」


「それは褒め言葉でよろしいのかしら?」


「もちろん。俺は、そういうきみが好きだ」


 さらっと告げられた言葉に、心臓がふいに跳ねる。


(好感度イベント、発生確認。でも今は仕事が先)


 私は涼しい顔を作った。


「それでは殿下。国ごとの炎上案件、きっちり一緒に片付けていきましょう」


「望むところだ、レイチェル」


 こうして私は、敵国に雇われた悪役令嬢として、世界と元婚約者の国を巻き込む大仕事の最初の歩みを踏み出したのだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。作者です。


第3話では、ついにレイチェルが敵国ヴァレンティア側で正式にお仕事スタート、というところまで描きました。

魔力ぶっ壊れ測定器や、チート気味な属性、そしてサラッと好感度を上げてくる殿下……と、少しずつ恋愛フラグも立ち始めています。


このお話は

・追放された悪役令嬢が

・敵国で就職して

・前世知識とチート魔力で国ごと炎上案件を片付けつつ

・ついでに恋もしていく

そんな方向で進んでいきます。


面白い、続きが気になる、レイチェルやユリウス殿下をこれからも見守ってやるか、と思っていただけましたら、

ぜひブックマークと評価をぽちっとしていただけると、とても励みになります。


感想や一言コメントも、今後の展開を考えるうえで大きな力になります。

次回は、レイチェルの新しい職場環境と、早速巻き込まれる最初の炎上案件について描いていく予定です。


これからもお付き合いいただけましたらうれしいです。


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