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第六話 D-GEARで買い物

そろそろ矛盾点が出そう。

よろしくお願いします。

 月曜日、いつも通りに出社した浅見が資料作りに勤しんでいた。

 画面には雨具の写真が映っている。蛙のモンスターの革を使っているようで通気性が従来のものより優れていると書いていた。

 蛙のモンスターが気になった浅見は、スマートフォンを取り出して情報を調べることにした。

 どうやら、二つのダンジョンの三階層で見かけるモンスターらしい。色々と種類はあるが、一番よく見かけるものは『グリーンフロッグ』と言われる、緑色の蛙だった。大きさはひざ丈ほどで、舌で攻撃をしてきたり、毒性のある唾を飛ばしてくるらしい。まるで大きくなったアマガエルだ。

 買い取られるのは皮で、この緑色の蛙の場合は1枚あたり千円~三千円で取引されている。皮は加工され雨具の他に車やバイクのシートにも使われているようだった。


 浅見は蛙モンスターの写真を見て、皮を剥ぐ場面を想像し、思わず身震いした。いざ捌くとなると、どうしても尻込みしてしまうが、こればかりは慣れるしかない。


 昼のチャイムが鳴ると浅見は意を決して立ち上がった。退職する旨を上司に伝えることにしたのだ。

 上司は『寂しくなるな』と残念そうにしていた。月末の退職になるが、それまで有休消化の休みに入る。引継ぎは隣の席の田中に任せるように指示が出た。


「なあ」

「どうしたよ」


 席に戻った浅見は隣の席の田中に話しかける。


「俺、仕事辞めることにした。悪いけど引継ぎ頼むわ」

「はぁ!? マジかよ! 辞めて何を……まさか、探索者になるのか!?」


 驚いた様子で田中が浅見に言う。今まで辞める素振りが全くなかった人間が急に仕事を辞めるというのだ。田中が驚くのも無理はなかった。

 そして最近の浅見との会話から、田中はダンジョンのことがよぎり、その考えに至った。


「そのつもり。この土日にダンジョンツアーってのも行ってきた」

「急にダンジョンに興味がわいたのか? 前の車の件からか?」

「んー、まあそれでダンジョンに興味が湧いたと言えばそうなるかな」

「それにしても、よくそんな決断できたな……。まあ、お前が決めたことなら止めはしないけどさ。気をつけろよ」


 田中の声には、驚きとともに少しの寂しさが混じっていた。


 昼休憩が終わり、退職に向けて身辺整理を済ませる。受け持っていた仕事も田中に全振りすると喜びの悲鳴を上げていた。



 次の日から浅見は動き始めた。


 まず東警察署へ行き車が盗難に遭ったと被害届を提出した。廃車手続きをするのに必要だった。適当な嘘をつくことに心が痛んだが、許してくださいと、浅見は内心で謝った。


 次に向かったのは探索者用の装備品や道具を取り揃えている店にやってきた。ある程度は調べてあるが、店員から聞きながら選んだほうが確実と判断してのことだった。

 けやき大通り沿いにあり、和歌山城ダンジョンにほど近い場所にある『D-GEAR』と書かれた、探索者用の品物を取り扱っている全国展開しているチェーン店に浅見は足を運ぶことにした。

 店の外観はアウトドアショップのようなデザインで、黒とオレンジの看板が目を引く。

 自動ドアの脇には『はじめての探索応援キャンペーン実施中』と書かれたポスターが貼られており、入口横にはスライム燃料を使ったランプの実演展示が行われていた。

 店内に入ると壁際に探索用の武器や防具がずらりと並んでいる。その近くに消耗品コーナーがあり、応急処置セットや保存食、耐久性の高いロープ、テントなどが整然と並べられていた。折り畳み椅子や寝袋などもあり、やはりアウトドアショップのように感じる。ダンジョンで夜を明かす探索者が数多くいるためだろう。探索者たちが椅子の座り心地を確かめていた。


 浅見は店の入り口のポスターにあった『初めての探索』のコーナーへ足を進める。すると店員が浅見を見つけて近づいてくる。


「いらっしゃいませ! これからダンジョンに潜られる方ですか?」

「近々探索者になる予定でして。装備を揃えようと思って見に来ました。良いのがあれば買って帰ろうかと思ってます」


 店員の目が光ったような気がした。

 探索者講習に落ちる可能性があるのに、などと店員が言うはずもなく、


「なるほどなるほど。ではこちらの――」


 そう言って店員は、天井から『スターターセット』と書かれた看板がぶら下がるエリアへと浅見を誘導した。


「この辺りがおススメとなっております」


 花村が身につけていたような革の装備品が並んでいた。インナーも置いてあり、手書きのPOPが貼られているが、浅見には違いが分からない。

 こういう時は素直に店員に聞くに限る。


「すいません。何がどう違うのか分からないので、選んでもらえますか? サイズはLLでお願いします」

「はい、かしこまりました。まず――」


 浅見のような客も多いのだろう。店員はすらすらとお勧めの商品を紹介しはじめた。


「上着のインナーですが、こちら、シロアミグモの糸を編み込んでおり防刃効果に優れています。主にモンスターの噛みつきを防いでくれますね。ただ衝撃を吸収する力はそれほど高くありません。酸にもある程度の強度がありますが、完全には防ぐことは出来ませんので注意してください。ズボンのインナーも同じものがいいかと思います」


 紹介された上下のインナーの値札を見て、浅見は思い出した。モンスターの素材を使用した用品は値が張ることを。

 なんとそのインナーは上下セットで五万五千円もする。


「上着ですが、こちらのレッドフロッグのジャケットがいいかと思います。二階層の昆虫型のモンスター相手でしたら、先ほどのインナーとこちらの上着で十分に、安全を確保できるかと思います。耐水、通気性にも優れていますので普段使いにもいいですよ」


 ジャケット八万円。


「ズボンも同じ素材のものでよろしいかと思います。表面はデニム風に加工されているので、こちらも普段使いができます」


 ズボン六万円。

 

 命を守るためだ。初期投資をケチって命を落とすような事になれば元も子もない。この際だからと、浅見はしっかり装備をそろえることにした。これだけ揃えたのに、靴は運動靴という訳にはいかない。



「では、その4つ買うので置いておいてください。あと、靴とか、ダンジョンで入り用になりそうなものとかあれば教えてください」

「そうですね。安全靴に革手袋、頭を守るヘルメットがあれば問題ないかと」


 ヘルメットと言われて花村や紀伊風土記の丘のセンターで話をした探索者はヘルメットをしていなかったが、城のダンジョンですれ違った探索者は頭に防具をしていた。その違いは何か分からなかった浅見は店員に聞いてみた。


「ヘルメットをしている探索者の人って、あまり見かけませんよね」

「はい。疲れる、邪魔になる、髪型が崩れるなど、理由はさまざまですが、あまり人気がない防具ですね。

 ただ、私どもとしましては、頭を守るヘルメットは是非付けていただきたいです。最近では、見た目もオシャレな帽子型のヘルメットとかあるんですよ?」


 そういって店員はキャップ型のヘルメットやハット型のヘルメットを持ってきた。一見すればヘルメットに見えない。浅見は手に取って、軽く叩いてみるとしっかりとした強度があった。


 頭を守るのは重要だ。浅見は髪型が崩れることなど気にするタイプではない。キャップ型のヘルメットを買う事を決めた。

 安全靴、革手袋、ヘルメット、合わせて五万五千円になった。どれもモンスターの素材配合だ。


 レジへと店員と向かっていると、ショーケースの中に保管されている武器が目に入った。


「武器か……」


 浅見がふと漏らした言葉に店員が反応する。しかし、今までのような買わせようとするセールストークではなかった。


「武具も取り扱っていますが、ダンジョンに入ったばかりでしたら一階層で探索者としての活動に慣れてから、武具が必要になる二階層に挑戦したほうがいいかと思います。

 スライム相手なら、このような武器は必要ありませんので」


 きちんと初心者探索者の事を考えている店員だった。非常に良い店員と言えるだろう。

 ただ、浅見の場合は少々無茶ができる。

 なぜならスキル持ちだからだ。しかし、店員の善意のアドバイスを無下にすることもないと考えた浅見は、大人しくそのアドバイスを受け入れた。


「そうですね。ダンジョンに慣れて二階層へ行くときにまた寄らせてもらいます」

「その時はぜひ」と店員は穏やかな笑顔を浮かべていた。


 清算額に手が震えそうになりながらクレジットカード決済を済ませる。結構な荷物になるために宅配サービスを利用することにした浅見は手ぶらでD-GEARを後にした。

 その足で市役所へと向かう。

 探索者になるためには、ダンジョン協会が実施する講習と試験を受けなければならないが、その申し込みをするためである。

 もちろんオンラインでも受け付けている。しかし面と向かって話をしながら申し込むほうが、質問も簡単にできるため浅見は好んでそうしていた。

 目と鼻の先にある市役所のダンジョン協会の窓口へと向かい、つい日下部の姿を探すが不在のようだ。番号札を取ろうとしたところで、ちょうど席が空いた。

 職員に声を掛けられ浅見は席に着いた。


「探索者になる講習の申し込みにきました」


 そう言いながら、免許証を財布から取り出して置いた。


「では、こちらの用紙に記入をお願いします。免許証の控えを取らせてもらいますがよろしいですか?」


 事前に免許証が必要と調べて知っていた浅見は、頷いて用紙に目を落とした。

 氏名、生年月日、住所、連絡先のほか、『現在の職業』『ダンジョン探索経験の有無』『希望する講習日』などの項目が並んでいた。

 すでに退職の手続きを済ませ有休消化に入っているが、正確にはまだ無職ではない。ひとまず『会社員(退職予定)』と書き、探索経験の項目には「ダンジョンツアー参加」と記入した。

 希望する講習日は明後日に印をつけた。

 その間職員はパソコンの画面と免許証を見比べたり作業を行っている。


 書類を書き終え、職員に手渡す。


「ありがとうございました。それでは、講習費用八千円のお支払いをお願いいたします」


 講習の時間は朝の10時からだった。

 財布から現金を取り出し、手続きが完了する。


「では、こちらが受講票になります。講習当日はこの票と身分証明書をお持ちください。会場は14階の会議室になっております」

「分かりました」


 受講票と免許証を財布へ入れると窓口を後にした。

 その日の帰り道、よく見るとインナーとジャケットを着た人々を見かけた。今までなら探索者とは思わなかったが、探索者装備と知った今、街中に思ったよりも探索者がいることに浅見は驚くこととなる。


 次の日、D-GEARで買った品物が届いた。いくつになっても新しい事を始める準備というのは心が躍るものだ。

 浅見は嬉しそうに届いた装備を身に着ける。

 上下のインナーとジャケットとズボンを着けた浅見は、ラジオ体操のような動きをしている。


「おぉ……。意外と動きやすい」


 新品だからか多少のゴワつきがあるものの、柔らかく動きやすい。おもむろに匂いを嗅ぐが、特にモンスター素材特有の臭いは感じなかった。


 浅見は今日一日、講習の為の予習とダンジョンの勉強をして過ごすのだが、風呂に入るまで、この恰好で過ごしていた。




キャンプ用品ってカッコいいのが多いですよね。

焚き火台などギミック感があるのが凄くいいと思います。

今もキャンプは流行っているのでしょうか?


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― 新着の感想 ―
綿どころか絹よりも生産効率悪そうな素材使っているのだから安いわけないね というか素材の確保が機械化できずに人力な時点でもっと高くなってもおかしくない それどころか思ったよりも安いまである 蜘蛛の糸なん…
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