第三十二話 拠点設営
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五階層に着いた浅見たち裏班は、事前の計画通りこの階層で小休止を取ることにした。
先に出発したモンスターを間引く探索者たちも休息に入っているのだが、城戸と日下部の姿はなく、どこに行ったかと言うと、例の探索者の装備品が落ちていた辺りにある洞穴に二人の姿があった。
その洞穴は、以前に変異種との戦いで城戸が負傷者を休ませるために入っていた洞穴から、目と鼻の先だった。
中に入った日下部が指を差して言った。
「どうみてもあいつらが何かやってた後でしょ」
指差した先には、DIYで作り上げたようなテーブルに椅子、棚が置かれていた。家具の上には、土ぼこりが溜まっていたため、長い事使われていないのが分かる。しかし、家具以外は何も残っていないため、それ以上の事は分からなかった。
日下部は、伊藤宗一郎絡みだと決めつけている様子だったが、あまり決めつけて考えるのは良くないとでも言いたげな城戸が、別の可能性を示唆するのだが、
「他の探索者が、休憩する為に作っただけかもしれんぞ」
「こんな人気のない階層の端っこで? 一般の探索者が休憩? さすがにそれはないでしょー。それに城戸さん、自分で言ってて『ないな』って顔になってますよ」
五階層は特に人気がない。ゴブリンの持つ棍棒ぐらいしか持ち帰るものがないのだ。嵩張るし重いし安い。何一ついい事がない五階層の端の洞穴で、身を寄せるなど、誰が聞いても怪しく思う。
城戸も話しているうちに違うなと感じていたようで、日下部に指摘されていた。
奥も念のため確認するが直ぐに行き止まりに当たった。これ以上目新しい発見はなさそうと、二人は戻ることにした。
「それじゃ城戸さん、十階層でー」
事もなげに日下部は言ってのけると、日下部の班は進み始めた。
そして城戸たちも進み始めると、裏班も進み始める。ここからは纏まって動くようだ。
「なんだか人が増えましたね」
裏班で物資を持った浅見が小巻に聞いていた。
「ここからは危険があるので、まとまって動くんです」
六階層からは、それなりに経験を積んだ探索者が活動する階層だ。浅見の実力ではギリギリ無茶をすれば何とかなる……、かもしれないといったところだ。
先頭を行く日下部の班や、城戸の班が、ことごとくモンスターを間引いて進んでいるおかげで、裏班はスムーズに足を進めることが出来ていた。
浅見は五階層までは以前の騒動で立ち入ったことがあるが、六階層から先は完全に未知の領域だった。一人なら心細く、風景を楽しむ余裕などないだろう。しかし、これだけの人数の探索者に囲まれていれば、不安は微塵も感じない。むしろ景色を眺める余裕さえあった。
すると少し向こうで、六階層のモンスターであるコボルトが横たわっていた。その姿を見て、浅見は車で轢いたモンスターの事を思い出した。
「……? 小さい?」
昔の記憶を掘り起こした浅見が呟いた。あまり鮮明に思い出せないが、どう見ても、あの時に見た毛むくじゃらよりも、はるかに小さい。
「六階層のコボルトは、大体これぐらいの大きさですけど……」
「ひょっとしたら勘違いかもしれませんね。ははは」
その呟きが耳に入った小巻が反応すると、慌てて浅見はごまかした。要領を得ない浅見の言葉に、小巻はこれ以上なにも言ってこなかった。
そして七階層に入ると、少しペースが落ちる。これは一階層のような迷宮型のせいで、先頭の班がモンスターと戦い始めると、後続もおのずと足が止まる。こればかりは階層の性質上仕方がなかった。
とはいえ、最前線を張る日下部と城戸のおかげで、ペースが落ちたとはいえ一般の探索者が進むペースより圧倒的に早かった。
七階層を抜けた浅見たち一行は、八階層、九階層と順調に進み、ついに目的の十階層に到達した。
広大なフロア型で、丘陵や森林が広がる風景は五階層とよく似ていた。
近くにモンスターの気配が無く直ぐに戦闘とはならないようで、城戸が後方までやってきて指示を飛ばし始めた。
「後ろの壁を背にして入り口横で拠点を作れ。あと、誰も十階層から出すな」
城戸の指示を受けて小巻が少し考え込んだ。
「なら入り口を囲むように作っちゃいますか。それなら見逃さないと思いますし」
「そのあたりは任せる」
「了解です! 入り口の出入り管理も追加だ! さあさあ動け動け!」
裏班はすぐに作業に取り掛かった。
浅見も自分の荷物を降ろして、見よう見まねで他の探索者と一緒に物資の運搬を手伝っていくのだが、腰にある刀が邪魔をする。とはいえ、その場に放置するわけにも行かずに浅見は難儀していた。
寝具、食料、調理器具、燃料など、生活に必要なものを作業がしやすいように種類ごとに固めて配置する。
大体の物資の配置が終わり、各々がテントやかまど、簡単なバリケードを設置していく中、浅見は小巻に言われてテント設営を手伝う事になった。
袋から取り出されたテントは、耐久性に優れていそうな厚めの生地で作られていた。遮光生地になっているようで、日が沈まないダンジョン用と言える。
てきぱきと説明書など見ずに、小巻はポールを通してペグを打ち込んでいく。
「浅見さんはこの中に、マットと寝袋を二セットずつ並べていってください」
「分かりました」
指示を出された浅見は仕事をこなしていく。
浅見がテントの中にマットと寝袋を並べている中、調理場が完成に近づいていた。地面に穴を掘り、石を組んでかまどを作る。よく見ると、土をコネて粘土のようにして、石の間に詰めていた。
そして、鍋やフライパンが並べられていく。
保存食を食べて数日過ごすのではなく、ちゃんとした料理が提供されるのは、探索者のやる気にもつながる大事な要素だ。料理人がすでに下ごしらえを始めている。
トイレも作られていた。出入り口には、節水と張り紙がされた手洗い用のコックが付いたポリタンクが台の上に置かれていた。
そして簡易的な小屋ではあるが、あると無しでは雲泥の差があると言える。
中は、手回しドリルで地面に数メートル穴が掘られ、その上に簡易便座を設置。用を足した後に専用の薬剤を放り込んで、分解させる仕組みだった。
衛生面を考えて、一日おきに横に新しい穴を掘り、今まで使っていた穴は埋める決まりになっている。
ベット類を並び終えた浅見が、拠点内を見回していると、少し離れた位置にテントとトイレの小屋を見つけた。
「あのテントはどうして、離れているんですか?」
聞かれた小巻が顔を上げた。
「あそこは女性探索者の区域ですね。何か用事がある場合は、あそこの本部にいる誰かに言伝るのがいいと思います」
指差した先には、まるで遊牧民が使っているような移動式の住居、『ゲル』のようなテントが立っていた。
ああいった中で作戦を立てる海外ドラマとかでありそうだな、と浅見がぼんやりと眺めていた。
出来上がりつつある拠点を、森の中から窺う者たちがいた。
「何かややこしいことになってんじゃね?」
「俺ら、別に何もしてねえだろ」
「でも、宗さんに伝えたほうがいいんじゃね? あの人色々と細かく聞いてくるし」
三人の探索者が十階層から帰ろうにも帰れなくなっていた。やましいことがなければ拠点内で話をして潔白を証明できるはずだが、それができないでいる。
判断に困った三人は、ボスである伊藤宗一郎にどうするべきか、お伺いを立てに来た道を引き返していった。
次の階層へ向かう入り口の近くにあるオーガの集落。その集落を超えた奥に作られた掘っ立て小屋の中で伊藤宗一郎はいた。
五階層にあったような椅子に座り、男から十階層で起きていることを聞いている。
「――って感じで……」
男の一人が見たことを伊藤に伝えると、ため息をついて気だるそうにした。
「あーあ。田舎のくせに動きが早いな。田舎だから早いのか? ま、どっちでもいいか」
「そ、それで俺らはどうしたら」
伊藤は両手首をくっつけて、逮捕されることをほのめかした後に、ニヤリと笑って言ってのけた。
「あいつらに捕まったら確実にコレ行きだろうからさ、――あいつら殺っちまえばいいんだよ」
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