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第二十二話 再びD-GEAR

よろしくお願いします


 普段のルーティーンとも言える、軽いランニングを終えた浅見は、珍しく考え込んでいた。


 浅見が何について考えているかというと、このまま日下部を一階層で連れまわすのは良い事かどうか、である。

 もしそれが悪い事と考えたところで、浅見自身が日下部に頼んだことではないために気にする必要はないのだが……。


 色々と気にしている様子の浅見だが、そもそも城戸が浅見の持つスキルを危険視していることへの解決策として、日下部が付いて回っている訳だ。

 浅見としては、はっきりと『チームを組んでいるのは仕事です』と言われたほうがよっぽど気を使わなくていい。それを知らないからこそ、こうも気をもんでいるのだ。


「うーん。これを機に、もう少し深い階層へ挑戦してみるべきか?」


 そう言って浅見はスマホをタップした。





 城のダンジョンからほど近い場所にあるD-GEAR。

 相変わらずこの店は探索応援キャンペーンをしているようで、入り口に見慣れたポスターが張られている。

 そのポスターの前には二人の人影があった。


「すみませんでした。今日は急に予定を変えちゃって。やっぱり武器の事を聞くなら日下部さんに来てもらった方がいいと思いまして」

「いやー、メッセージ貰った時は驚きましたよ。あの浅見さんが深い階層へ行きたいだなんて」


 浅見と日下部だ。


 あれから浅見は、メッセージアプリで日下部に、深い階層へ行くから武器選びに付き合ってほしいと、メッセージを送っていた。

 あのアイスピックのような刺す専用の武器は持っている浅見だが、折角なら稽古で使っている、木刀のような刀の武器が使いたいと思うのも、自然の流れと言えるだろう。


「まあ、ちょっと考えるところがあって」

「……?」


 二人は早速、武器が並ぶショーケースに向かった。浅見が以前に買った小さい武器ではなく、大きい武器、日本刀や両刃の剣が展示されており、その美しさから美術館のようにさえ見える。


「へー。こういう場所でも、それなりにいいのが並んでるんですね」


 さすがと言った感じで良し悪しが分かるらしく、日下部が並べられている刀や剣を見て回る。


「あっ……」

「ひょっとして、ビビッと来るのがありましたか?」


 あと剣の所で浅見が立ち止まり、小さな声をあげたのを聞いて日下部が寄ってくる。

 その剣のPOPには鋼鉄サソリの外骨格を取り入れて耐久力アップとあった。

 以前の職場で取り扱った事のある素材に、懐かしさから足を止めたのだ。

 それを知らない日下部が、剣についての評価を下した。


「かなり幅広ですね。どちらかというと浅見さんのようなスピードタイプが持つよりも、城戸さんみたいな人が持つ剣だと思いますけど……」


 剣の幅は手を広げたよりも大きく、また分厚かった。一目で浅見が振り回せる武器じゃないと分かる。


「この素材を使った商品を、前の職場で取り扱った事があったんですよね。確か、ドリルの刃だったかな?」

「浅見さんの以前のお仕事ですか。他にどんな素材があったんですか?」

「そうですね……、カエルの素材の雨具とか、コボルトの腹巻とか、色々ですね」


 ふと浅見の脳裏に、探索者好きの同僚の顔が浮かんだ。要領よく仕事をさぼる奴だった。思い出した浅見が懐かしさからか、笑みをこぼした。


「でしたら、これとかいいんじゃないですか? 黒狼の小太刀です」


 十二階層に出る狼のモンスターの素材で作られた小太刀が飾られていた。

 浅見は黒狼の商品を扱ったことも無ければ、実物も見たこともない。ただ、刀身が薄い紫色をしているのを見て、なんとなくの色を想像した。


「綺麗な色ですね」

「実物はもっと真っ黒ですけどね。――それで、これですけど、重ねも薄すぎないですし、重心も手元かな? 扱いやすいと思いますよ」


 日下部が言っている事で、浅見が分かったのは黒狼の色が、黒いという事だけだった。


「他にもいろいろありますけど、これがいいんですか?」

「そうですね。他のでも別にいいですけど、これは黒狼の爪と牙で作られているんですよ。言わば黒狼純度百パーセントです」

「えっ? 鉄とかに混ぜるんじゃなくて、そのものってことなんですか?」

「ですです。それなりに出回ってますよ? あの新種モンスターの時に、私が使ってた刀もモンスター素材で作られた刀です」


 駆け付けた時は、すでに刀を弾き飛ばされた後だったため、どんな刀か浅見は知らない。


 あの時に日下部が使っていた刀は、十一階層に出てくる魚のモンスターの、大量の鱗を圧縮加工されて作られた刀だ。白く輝き、鱗の性質のせいで光に当たると七色に薄く輝くのを気に入って日下部は愛刀としていた。

 今は刀匠に預けてある。


「それじゃあこれにします」


 日下部が言うのだから間違いないと、浅見は何の迷いもなく決めた。

 店員に声を掛けて、黒狼の小太刀を購入したいと告げるが、すぐにお会計という訳にはいかなかった。

 値段も張るし、それなりに価値のある品だ。現物はここにはなく、受注生産となっていた。


「少なくとも三ヵ月ほどお時間を頂くことになりますが、よろしいですか?」

「結構かかるんですね」


 今までのように、すぐに使える量産型の装備品とは違い、これは一点物だ。それなりに時間がかかるのも当然と言えた。


 すると今まで黙って見ていた日下部が入ってくる。


「こちらのお店が依頼している刀匠はどなたですか?」

「それはモンスター素材を使った刀の第一人者とも言われています、久堂鍛刀場にお願いしていますので、自信を持ってお勧めできる一振りに仕上がると思います」

「あ、玄爺さんのとこですか。浅見さん、とりあえずそれで行きましょう」


 何がなんやらな浅見は日下部に言われるがまま、店員と契約を交わした。住所と連絡先を記入している間に、免許証と探索者カードのコピーを取られる。

 そして手付金として半額を、浅見はカードで支払った。


「それでは、商品が届きましたら連絡をいたします。それまでどうかお待ちくださいませ」


 D-GEARを出た二人だが、日下部がちょっと待ってくださいと、足を止めて脇にそれた。浅見も、続いて脇に寄る。


 そして日下部はスマホを取り出して数回タップした後に耳に当てた。


「どうもお久しぶりです。日下部です。……いえ、娘の真姫ですー。あー、いえいえ、そんな、ええ。はいはい。あはははは」


 どこか楽し気な声が漏れ出ているが、はっきりとは聞き取れない。浅見は聞くのも悪いと思い、少し距離を取った。


「それで、玄爺さんは今忙しそうですか?」


 日下部が言う玄爺とは久堂玄武、久堂鍛刀場の現当主の事だ。人気のある刀匠であちこちから依頼が入り忙しいに決まっている。

 保留音が流れるスマホから耳を外した日下部が浅見に言った。


「三ヵ月も待ってられませんよね」

「それはどういう――」


 浅見が言い切る前に日下部がスマホを耳に再度当てた。


「もしもーし。お願いがあってさ、うん。D-GEARから黒狼の小太刀の依頼が行くと思うんだけどさ、それって私が今チームを組んでる人の刀なんだー。……そうそう、探索者の。違います。そんなんじゃありません。分かった。うん。はーい」

「えっと……?」


 通話を終えた日下部に、どうなっているのか話が見えない浅見は困惑している。


「明日、玄爺の鍛冶場へ行きませんか? 浅見さんのために、特別に刀を打ってくれるそうです」

「そんな事をして大丈夫なんですか? 先方に悪いんじゃ……」

「大丈夫ですって。玄爺って私にベタ惚れですし、一日一本とか言ってるから、三ヵ月とかかかるんですよ」


 爺と言われる年齢の人物が、若い女性にベタ惚れ……。浅見は、その刀匠の事が不安になった。





 久堂鍛刀場の当主である久堂玄武(くどうげんぶ)が鍛冶場へと戻ってきた。


「親方、それで真姫さんはなんて?」


 玄武の息子である(とおる)が電話の用件を聞いた。

 いきなり母がやってきて、日下部さんとこの真姫ちゃんから電話だから、と伝えられた玄武は仕事をほっぽって出て行ってしまった。

 用件が気になるのも仕方ない。


 だが玄武は取るに足らないと言った感じだ。


「なんでもねえよ。ある人の為に刀を打ってくれっつうから、こっちに来いって言っただけだ」

「新しいモンスターの加工も試さないといけないのに、時間ないって」

「あぁ? んなもん、待たせときゃいいんだよ。嫌ならそのうち頼まなくならぁ」


 まさに頑固職人と言った玄武に対して、母親に似た息子の透は柔和で、まさに正反対の性格だった。


「明日の準備してくる」


 のっしのっしと鍛冶場を後にした玄武に、透はため息を漏らした。



3.000文字ぐらいにまとめるのって難しいですね……


読んでくれてありがとうございます。

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