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第十八.五話 日下部 真姫

時系列としては変異種を倒して、センターへ帰っているときのお話です。



 幼少期の頃から剣道や合気道に柔道と、家の都合で色々と武道と言うモノをやらされてきた。

 物心がついた時には竹刀や木刀を握っていたと思う。

 私の遊び道具も、初めてのプレゼントも、すべて武道に関わるものだった。


 父は道場の師範、母は師範代。祖父もまた、剣を極めた人たちだった。そんな家庭に生まれ育ったのだ。必然的にその世界に入っていった。


 道場の片隅で竹刀を振る毎日だった。友達と遊びに行きたいと言えば、叱られた。断っていたら次第に誘われなくなった。

 あの子は育ちが違うから、私たちとは合わないと、同級生の母親が言っていたのを今でも覚えている。


 そして私は剣に打ち込んだ。いや、他にやることが無かったんだと、今になって思う。


 中学生になれば、大人に混じって稽古をつけられた。

 それから、すぐに門下生の大半に勝てるようになた。

 その頃から私は剣の天才と呼ばれ始めた。


 部活でも剣道部に入り、大会では負けなし。全国優勝も果たした。ただ友人と呼べるものは出来なかった。

 天才だからしかたない、と顧問が他の生徒に言っているのを聞いたときは、またか、と思った。

 遊びにも行かずに努力をしているのに、その一言で全て済ますのが不思議だった。別にわざわざ言い返すこともしなかった。どうでもよかったのかも。


 高校生になっても特に変わらなかった。


 剣は日常で、義務で、私そのものだった。周囲が勝手に期待して、勝手に騒いで、勝手に持ち上げていく。


 そういや、廊下を歩いていて、騒いでいた男子とぶつかったことがあった。べつに怪我もしていないし、謝ってもくれた。私も許した。そこで終わりだったはずなのに、その夜、親が必至な顔をして謝りに来た。

 ちょっとぶつかっただけなのに、とんでもないことをしたと頭を下げているのをみて、ばかばかしくなった。

 

 それから次第に、反抗するように明るく振る舞うようになったと思う。何に反抗したかったのかは覚えていない。

 我ながら荒んだ青春時代だった。今になって思い出しただけで笑えてくる。


 公務員になると父に言うと、剣を使う仕事ならと許可が出た。就職先ですら自由に選べない。

 公務員と言ってもダンジョン協会だ。探索者に興味があった。それだけの理由。

 父は警察官になるものと思っていたようで、その時に初めて本気の親子喧嘩をした。


 木刀での仕合は私の圧勝で終わった。


 娘に負けたのがショックだったのか、父はそれから私に何も言わなくなった。今でも会話は、あまりない。



 ただ、職員として働いて、道場で稽古をしているうちに、いつの間にか友達と呼べる存在が出来ていた。もし中学生の頃に知り合っていたら、もう少し楽しい学生時代だったのかも。

 でも、当時の私と一緒にいたら、彼女にも迷惑がかかるかもしれない。そう思うと、さーやと知り合ったのが学生の頃じゃなくてよかった気もする。




 ある日、職員で探索者登録している私に救助隊に入るよう指示が出た。城戸さんも行くようで、そうそうたる顔ぶれだった。

 最近増えているモンスター関連かと思ったが、新種が出たみたい。


 五階層でその新種を見た時、その気配では強さが分からなかった。

 人間相手なら大体の強さが立ち振る舞いで分かるけど。

 とりあえず一太刀当ててみることにしたが、何もできなかった。

 ただただ硬かった。木刀で鉄の塊は斬れないのと同じで、この刀ではあいつを斬れない。無理なものは無理だ。


 しかし皆が私を見ている。ここで私が無理と言えば、私が私じゃ無くなってしまう。私は笑って「頑張ってみるよ」って言っていた。


 しかし、結果は無惨なものだった。


 私は二人に『放っておいて逃げていい』と伝えた。すると、さーやが泣きそうになった。あの子は情に脆い。城戸さんならそのあたりを理解してくれる。


 そして私は負けた。ただ振り下ろされる棍棒を眺めることしか出来なかった。

 走馬灯なんて何もなかった。ただ「ああ終わりか」ぐらいにしか思わなかった。

 私の心はとっくに壊れていたのかもしれない。


 だがその棍棒は振り下ろされることは無かった。突風が吹いたと思ったら凄い音と共に棍棒が砕け散った。何が起きたか私の目でも分からなかった。


 そこには盾を構えた浅見さんがいた。


 下心もなく、ただ私を見てくれる人。

 私の剣を見て、嬉しそうに凄いと言ってくれた人。

 真面目で講習にきちんと出る人。

 にこにこと丁寧な物言いで接してくれる人。

 見ていて飽きない人。


 その人が目にも止まらない早業で私を城戸さんの横まで運んだ。

 多分、ダンジョンの主を轢いたときにスキルを取ったんだろう。そうじゃないと説明が付かない。

 そしてあっという間に、あれだけ苦労した新種を倒してしまった。


 城戸さんが浅見さんを警戒しているが、取り越し苦労に決まってる。


 とりあえず無事だったしお腹も空いてるみたいだから、モンスターは城戸さんに任せてセンターに帰ろう。


 その帰り道で私は良い事を思いついた。城戸さんの問題も解決できるし、きっと楽しいに違いない。


 どうだろう? 断られるかな? 

 家まで押しかけて押し切ったら多分頷いてくれるとは思う。

 押しに弱そうだし、きっと押し切れる。


 きっと、さーやには、からかわれそうな気がする。

 でも、多分そういうのじゃない。


 荒んだ思春期を過ごした反動かもしれない。

 浅見さんって仲のいい兄や、優しい父みたいな感じなんだと思う。


 思ったより私は甘えたがりなのかもしれない。――まぁ、恥ずかしいから絶対に誰にも言わないけど。







次から第二章が始まります。

いつもありがとうございます。

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