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第十二話 予兆

違う作品も書いてたりします。

よければそちらもぜひ。

 武器の取り扱い講習から帰った浅見は泥のように眠った。起きたのは翌日の昼過ぎだった。


 眠気を覚ますためにシャワーを浴び、その後、カップ麺で軽く腹を満たす。

 人心地着いたところで、あの講習の事を振り返っていた。


「稽古か……」


 日下部の披露した型を浅見は思い出して、見よう見まねで緩やかに動きをなぞる。もしこの姿を日下部に見られたら『盆踊り』とからかわれるかもしれない動きだった。


 似ても似つかない自分の素振りを見て、急に可笑しくなったのか浅見は笑みをこぼす。


「むりむり。何年も稽古をして出来る技だっての」


 浅見はおもむろにテレビを見始めると、探索者のオシャレ装備を紹介している番組だった。やたらと可愛いを連呼し始めたため、浅見はチャンネルを変えた。

 ちょうどニュースが始まるようで、リモコンを置いた。


 パソコンを立ち上げて、動画サイトでダンジョン関連の動画を見始めた浅見は、今日はダンジョンに行かずに休日にするようだった。


 テレビからは探索者の事故が多発していると流れていた。安全に無理をしないようにと注意喚起していた。


「安全ねぇ……」


 ラジオ感覚でニュースを聞いていた浅見は、パソコンでダンジョンに入る仲間について調べ始める。


 色々と仲間募集の掲示板がヒットする。ただこういう掲示板での募集は色々とトラブルがあった。出会い系と化してるものも中にはある。浅見は少し中を覗くが、直ぐにブラウザバックした。


 やはり友人や知り合いで組むのが一番多いようだ。

 浅見はスマホに入っている連絡先をスクロールしていく。

 33歳にもなると、同級生たちは家庭を持っていたり、他府県に出ていたりと、中々声を掛けづらい。

 仲が良かった高校の同級生も、数年前に結婚してからは疎遠になった。


「一人でだらだら自由にやるのが一番か」


 1人で出来るならそれにこしたことはない。


「二階層も1人だとちょっと不安要素がなぁ……」


 半日の素振りや蟻の対処を見た程度では、万が一どころか百に一がある。

 うーん、と悩んだ結果、


「とりあえず運動と筋トレでもするか」


 ネット通販でランニングシューズとジャージをポチっていた。




 一方で和歌山城のセンターにある買い取り所では、職員たちが頭を悩ませていた。


「最近ちょっと素材買い取りの量が多くないですか?」

「うーん、たまたまな感じもするけどどうなんだろうな」


 一般的な探索者が活動している一階層から五階層までで、持ち込まれた素材の総キロ数がパソコン画面に映し出されていた。緩やかに数量が増えているのは事実だった。

 ただ、新規の探索者が増えれば、当然持ち込まれる素材の総量も増える。こればかりは職員だけで判断は出来なかった。


「とりあえず報告だけいれときましょうか」

「後は向こうでやってくれるだろ」

「入れときますねー」


 センターから市役所にあるダンジョン協会に報告が行き、そして大阪にある関西支部へと報告が送られることとなった。

 しかし二府四県を管理する関西支部では、忙しさからその報告は重要視される事はなく、処理済みとして忘れ去られることとなった。

 この十年で何も起きていないダンジョンは、きっとこれからも何も起きないだろうという思い込みがそうさせたのかもしれない。




 毎日の習慣にランニングと筋トレを加えた浅見は、結局二階層には行かず、1ヶ月ほどスライム集めに奮闘していた。

 今ではスキルの調整も完璧に出来るようになっている。

 そして今日もスライムを集めようと一階層を歩いているのだが、広場に行くまでの通路で多くの探索者とすれ違う。

 あきらかに一階層でスライムを集める探索者の数が増えていた。

 広場も同様だった。


「思うように集まらないな……」


 少し前は20分少しで2リットルのペットボトルを満タンにできたが、今は30分以上ほどかかる。

 できるだけ人のいない場所を探して歩くが、どこも人がいた。浅見は4時間ほどでスライム集めを切り上げることにした。


 買い取り所でいつものやり取りを済ませてから、食堂で休憩をする。コーヒーとホットケーキを食べるのが最近の浅見のブームだ。


 ホットケーキに舌鼓を打っているとセンターの入り口が慌ただしくなった。浅見は入り口の方に目をやると、企業探索者が団体でやってきたようだ。その中に花村の姿もあった。

 ぞろぞろとゲートをくぐる企業探索者の列。


 その光景を眺めていたら、ピンポーンと壁にかかる巨大なモニターから音が鳴った。その音につられて浅見は顔を向ける。


『ただいまから、二階層から五階層でモンスターの大規模討伐を実施します。

 他の探索者の方にはご迷惑をおかけしますが、ご了承ください』


 と表示されていた。聞きなれない言葉に浅見はスマホをタップする。


「増えすぎたモンスターを減らす時に使われる言葉、ね」


 大きな荷物をパンパンに膨らませて背負っている者が多いのを見ると、どうやら日帰りではなさそうだ。

 浅見は今のところ二階層に行く予定はないが、ひょっとすれば行くかもしれない場所で起こっている事を、暇を潰すついでに聞くことにした。




「ってなことがセンターであったんですけど」

「わざわざ聞きに来たんですか? どれだけ私の事好きなんですか、もー」


 わざとらしく頬に手を当てて照れている素振りをする日下部。

 浅見は市役所にあるダンジョン協会の窓口に来ていた。雑談交じりに質問をするなら知った顔のほうがいい。


「まあまあ、どうせ暇なんでしょ?」

「ところがどっこいなんですよ。なーんかモンスターの数が増えてるって探索者からの報告が相次いでまして。その報告と持ち込まれた素材やらを比べてなんやかんやしなきゃいけないんです。つまり忙しい訳ですよ」


 取り出した分厚いファイルをばっさばっさ捲るが、日下部が手にしているのは地図にしか見えない。

 これにはさすがの浅見も突っ込んだ。


「それ……地図じゃないですか」

「ちっ、気づいてしまいましたか。やりますね!」


 奥で数人の職員が何かを調べたり電話をしたりと、それなりに忙しなく動いているのを浅見は気がついた。

 冷やかしついでの暇つぶしに来たのを申し訳なく思ってしまう。


「何だか本当に忙しそうですね。すいません。帰りますね」

「いいですよ別に。私は事務よりこっちで雇われてる身なので」


 力こぶを作るように腕を曲げて見せる日下部。色白の細い手首が見える。


「腕……? あぁ、戦闘要員ってことですか」

「ですです」


 このすらりとした腕と手で、どうしてあんな動きができるのか浅見には理解しがたかった。


「そういえば宇佐美さんが言ってましたよ。日下部さんに稽古つけてもらってるって」

「あー、はいはい。あの時の講習ですね。ま、しがない小さな道場ですけど、なんとか続けられてますよ」


 小さな道場と謙遜をしているが、その道の者なら誰しもが知っている道場だったりする。

 浅見は思ったことを素直に話した。


「すごかったですよ。いや、私みたいな素人が言うのもなんですけど、研ぎ澄まされた動きで、本当にかっこよかったです」

「ふふ、ありがとうございます。浅見さんのような方に言ってもらえると嬉しいですね」


 日頃は道場の関係者から見え透いた世辞を言われ、うんざりしていた日下部は、お世辞抜きの心から放たれた浅見の言葉が、本当に嬉しかった。

 しばらく沈黙が漂い変な空気になるが、浅見が空気を換えようと話を振る。


「そういや宇佐美さんが凄く怯えていましたけど、大丈夫でした?

「……? あれはさーやの自業自得ですよ。武器を持つ相手に油断するなんて、恥ずべきことです」


 宇佐美の言う『笑えないほど厳しい』一端が顔を覗かせていた。


「それは、そうなんでしょうけど……。稽古が厳しくなるーって落ち込んでいましたよ」

「厳しくない稽古は稽古って言いませんってばー」


 一般人のそれとは感覚が大きくずれていた。浅見は興味本位で聞いてみた。


「その、あの後の宇佐美さんとの稽古はどんな感じに?」

「確か、その日の夜から始めて……日付が変わるくらいまで、私と仕合をしていましたね」

「それで、宇佐美さんに負けると言いますか、一本取られるとかあったり?」

「私がですが? ははは、あるわけないじゃないですか」


 あっけらかんと笑う日下部に恐怖を抱いた浅見だった。


 何をしに来たのか分からなくなってきた浅見は、モンスターが増えていると言っていたことを思い出して、それを聞こうとした時だった。

 奥で仕事をしている職員がより慌しく動き始めた。ちらちらと浅見と日下部のほうを見る職員もいる。


「なんだか本当に忙しくなってそうなので帰ります」

「わかりました。モンスターが増えているみたいなので、浅見さんも十分気を付けてくださいね」

「あれからもずっと一階層で活動してます」

「すごく浅見さんって感じですねー」


 そういって腰を上げると日下部は手伝いに奥へと向かっていった。




読んでいただいてありがとうございます。

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