冬の火照りに卒業未遂
横並びに自転車を押して歩く高校の帰り道。
「大丈夫か?」
なんて隣に言ってみれば曖昧な笑顔が薄く頷く。
知ってた、大丈夫じゃないよな。
言葉の白々しさが可視化されるような冬の空気が肺に冷たい。
雪の降る田舎の町はびっくりするくらい静かで、普段は気にも留めない音さえよく聞こえた。
湿った雪を踏みしめる音、近くを流れる川のせせらぎ、遠くに聞こえる踏切の警報。あと、そんな音々にもかき消されそうなほどに小さな吐息と。
「あのね」
長い田んぼ道を抜けて大きな国道に出た頃。信号待ちでようやく隣から声が聞こえた。
「振られちゃった。ごめんね、サキちゃんにはいっぱい相談乗ってもらったのに」
「小凪は頑張ったよ」
「変なの。いつもなら『ちゃんと咲也って呼べ』って言うとこじゃん」
「……ごめん」
無理して明るく振る舞ってるのが分かるから謝りたくもなる。
形だけの笑顔浮かべてさ、それで俺が誤魔化されるわけないじゃん。
「もー、なんでサキちゃんの方が辛そうな顔するの?」
そんなの好きだからだよ。伝えてないけど。
だから大事な話があるって言われた時は正直期待したんだ。なのに得られた立場は相談相手でさ。
俺でいいじゃんって何度も思ったよ。
でも頼られたから、初恋を卒業するつもりで後悔しながら応援してたんだ。
「分かるからだよ。失恋は辛いよな」
「え、もしかしてサキちゃん好きな人いるの?」
「……いない」
「えー絶対嘘じゃん! 幼馴染み舐めんな!」
そう言って無邪気に小突いてくる姿が可愛くて、なんだか照れくさくて。
ああ、好きだなぁって。
こんな気持ちどうしようもないって思ってたのに、諦めたつもりの胸の内からまだ熱が消えてない。
草木も凍るこの季節では小さな熱さえ誤魔化せない。
「俺の好きな人は小凪だよ」
気付いた時には素直な気持ちが発火した。すぐに体に熱が巡って心臓がバクバクうるさくて。
冷たい冬の空気が一瞬で心地良くなる。
「あのねサキちゃん。傷心の乙女にそーゆー冗談は言っちゃ駄目なん、です、けど」
文句を言うつもりで俺の顔を見たんだろうけど、真っ赤な顔に冗談成分が含まれてないことに気付いたみたいで小凪の勢いが失われていって。
沈黙さえも頬を炙る熱になる。
やっばい。え、これどう反応すればいいんだ?
あーもう! なんで勢いで告白したんだよ俺!
心の準備とかさ!
「え、と。じゃあ帰るか」
「そだね、うん。帰ろ帰ろ」
照れ顔二つ、横に並んで歩き出す。
信号はもう青になっていた。