表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第七章 御影編
98/156

第98話 潜入

 天宮と話してから三日後の夕方。


 私は庭で、ヤトと水遊びを満喫していた。


「ぴやああ~気持ちいぃ~」


 私は嬉しそうに声を上げるヤトの嘴を目がけて、渾身の水鉄砲を放つ。


「ぶほ!凪、ひどい!」


「へへへっ」


 すると、ヤトがお返しとばかりに大きく羽をバタつかせる。大量の水しぶきを浴びて、今度は私がずぶ濡れになった。


「楽しそうだな」


 振り向くと、焔がいた。私は濡れた髪を払いつつ、笑顔で声をかける。彼はSPTの制服に身を包み、鞄を手にしていた。


「焔さん!お出かけですか?」


「ああ。長官に呼ばれてな。少し出る」


 そう言うと、焔は静かに玄関に向かい、外へ出て行った。私は玄関の方を見つめ、息を呑む。


 来た。チャンスだ。


「ねえ、ヤト」


「ん?」


「ずぶ濡れになっちゃったから、バスタオル取って来るね」


「うん!……ぴやああぁぁぁ~~」


 再び水遊びに夢中になるヤトを微笑ましく見つめながら、私はそっとその場を離れた。行き先は、焔の執務室だ。


 執務室の鍵を突破する方法は至って単純、マスターキーを使うこと。元々、この家は天宮の別荘。彼がマスターキーを貸してくれたのだ。


 ──カチリ。


 執務室の扉をそっと押し開ける。薄暗い室内。僅かに差し込む夕陽が、長い影を落とす。背の高い本棚にアンティーク調の間接照明。そして、部屋の中央にある机。そこには、書類や本が無駄なく配置されていた。


 隠すなら、目につく場所には置かないはず。


 そう思った私は、引き出しに手を伸ばす。一段目、二段目……。


 三段目の引き出しを開けると、古い木箱が入っていた。


 木箱を開けると、そこにあったのは封筒と白い和紙。


 封筒には、名前が書かれていた。その名は──。


 ──御影稜馬


「みかげ、りょうま……?誰だろう」


 確か、焔のおじいさんは御影関水(かんすい)、ミレニアにさらわれたのは、御影安吾(あんご)だったはず。


 知らない名前……この封筒は関係なさそうだな。


 私は封筒を置き、白い和紙に手を伸ばす。


 その瞬間、私はギョッとした。そこに記されていた文字は……。


 ──血判状


 不穏な文字に、心臓の鼓動が一気に早まる。


 いや、待てよ。


 そういえば、対の世界に来た初日、彼から血判状を見せられたっけ。


 私は折られた和紙を開けて、中を見る。


 ──害をなす者にこの情報が渡ることを厳に禁ずる。命の危機に瀕した場合のみ、一人に限り口伝するものとする。口伝で秘密を伝えし者は、秘密を託した者の名前を八咫烏の一族へ申し伝えることとする──


 和紙の下部には「幸村藍子が口伝せし者 孫 幸村凪」と書かれていた。


 やっぱり。これはあの日に見せて貰った血判状だ。


 これも関係ないかな。


 そう思った時、和紙の端に目が留まった。微かに破られた跡があったのだ。不安に駆られ改めて木箱を見ると、他の紙に紛れてもう一枚和紙が入っていた。


 恐る恐る取り出し、中を見る。それは先ほどの血判状と同じ内容が記されていたが、名前が異なっていた。


 ──御影関水が口伝せし者 孫 御影稜馬


 この名前、さっきの封筒に書かれていた名前と同じだ。


 それに、御影関水の孫ということは、この「御影稜馬」という人は……。


 まさか──。


「……焔さんのこと?」


 焔の本名は御影稜馬。


 つまり、彼も私と同じく磁場エネルギーの場所を聞かされていた?


 じゃあどうして、私に聞いたりなんて……?


 疑問が頭の中を渦巻く中、私は「御影稜馬」と書かれた封筒にそっと手を伸ばす。もしかしたら、この封筒に答えがあるのかもしれない。


 名前が書かれているのは裏側。無意識に私は封筒を裏返して表を見た。


 そして、次の瞬間──。


「え……?」


 あまりの衝撃に、私は言葉を失った。


 封筒の表に記されていたのは、たったの二文字。


 だがそれは、彼の覚悟と苦しみを象徴する、とても残酷な言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ