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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第七章 御影編
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第91話 心乱

 会議室は騒然としていた。


 まさか…伝承の「対なる者」が私と焔さんのことだったなんて。


 都市伝説の「時紡石」


 時紡石が導く「聖所」


 その場所に磁場エネルギーが?


 そう思った矢先──。


 ガタッ──!


 突然、椅子を引く音が聞こえた。丹後だ。


 彼は無言のまま立ち上がり、真っすぐ焔へと向かう。その目には鋭い怒りが満ちている。丹後は焔の胸ぐらを掴み、勢いそのままに彼に殴りかかった。


「この……!穢らわしい人狼族めが!!!」


 ガンッという鈍い音が響く。二人の体は揺らぎ、狭い会議室の机と椅子が乱暴に軋む。突然の出来事に私は口を塞いだ。焔は顔を歪めながら、横目で丹後を睨む。


 しかし、丹後の怒りは収まらない。再び焔の胸ぐらを掴み、振りかぶる。


「焔さ──」


 次の瞬間、焔の右手がパンッという乾いた音とともに、丹後の拳を正確に受け止めていた。焔と丹後、互いの力が拮抗し、腕が微かに震えている。丹後の表情は険しく、憎悪を宿した目で焔を睨んだままだ。


 すると、丹後の背中を背後から江藤が勢いよく抱き止めた。


「丹後!落ち着けって!!」


 同時に長官の叱責が響く。


「やめなさい!」


 私の腕の中で、ヤトが小刻みに震えていた。焔が殴られ、彼も怒り心頭なのだろう。私はそっと撫でて諫めるが、震えは収まらない。それどころか、爪を剝き出しにして今にも飛びかかりそうだ。


「貴様……どこまで知っていた!?」


「何の話だ?」


「とぼける気か!話が出来過ぎている!何の目的で、この小娘を……幸村凪を傍に置いている!?」


「丹後、やめなさい!それ以上は君に罰を与える!」


 長官が声を荒げるが、丹後は引かない。むしろ胸の内の疑念を一気に吐き出すように、焔を力強く睨みつけた。


「長官はおかしいと思わないのですか!?この焔、どういうわけか、気付いた時には八咫烏と暮らしていた。そして、幸村凪を率先して匿い、傍に置いたのも焔。貴様……本当は伝承の秘密を知っていたのではないか?知った上で幸村凪を利用して磁場エネルギーをこっそり掌握しようと!何が狙いだ?一族の復讐か!?」


 すると、天宮が私と丹後の間に割って入った。


「落ち着きなよ、丹後。さっきの話は全員が今知ったことだ。焔も知らなかったはずだ」


「そうとは限らんぞ」


 丹後の目は疑いの色を強めたまま。彼はさらに胸ぐらを掴む手に力を込める。


「そもそもおかしいのだ。この男が幸村凪を匿うなど」


 丹後の怒りに満ちた視線が私に向く。


 針のような視線に射貫かれて、私は背筋が凍った。


 おかしいって、何が?


 気持ちが追い付かないまま、丹後は怒りを燃やし、畳みかけるように言葉をぶつける。


「人狼の村がミレニアに襲われたのは、幸村藍子が余計な研究をしたせいだ。あの女が人狼族の力を探らなければ、ミレニアに目をつけられることもなく、村人も私の祖父も、研究者たちも殺されなかった!それなのに、あの女はすでに一人だけ別の世界へ逃げていた。無罪放免だ!人狼族の貴様にとっても、最も憎むべき相手は──」


「丹後!」


「やめなさい!!」


 天宮と長官の声が同時に響き渡る。けれど、丹後の言葉はすでに私の胸に深く突き刺さっていた。


 焔さんの仲間が……たくさんの人たちが……。


 おばあちゃんの研究がきっかけで殺された……?


 ふと視線を挙げると、焔が丹後の手を乱暴に払い、鋭く睨みつけていた。そして、次の瞬間、焔はゆっくりと私に向き直る。


 だが、彼がどんな表情をしているかはわからなかった。気付いた時、私の視界は涙でぼやけていたからだ。堪えきれずに溢れた大粒の涙は、頬を伝い腕の中のヤトへ落ちていく。


「な、凪……?」


 微かに聞こえるヤトの声。


 平静を取り戻そうとしたが、無理だった。喉が詰まり、声が出ない。


 次の瞬間、私は腕の中のヤトをそっと手放した。


 そして、震える足で立ち上がり、足早に会議室から飛び出していた。

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