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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第七章 御影編
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第90話 双命

 「特殊警察活動規定法」三条一項──。


 その条項が長官から発せられた後、私は息をするのも忘れ、呆然としていた。


 おばあちゃんは、敢えてこの条項を入れるよう長官に進言した。


 もしかして「対の世界」に来た私をSPTに入隊させるため?


「藍子さんは、凪さんをSPTに入隊させたかった?それに……」


 長官は揺らめく瞳のまま、今度は焔へと視線を移した。


「彼女は、焔の入隊も見越していたのか?この条項がなければ焔も……」


 長官の思わぬひと言に私は息を呑んだ。焔を見ると、彼も驚愕の表情を浮かべている。


「焔さんもこの条項でSPTに!?」


「ああ。十年前、この条項があったから入隊できた。長官の推薦で」


 十年前……。


 それは、彼の故郷である人狼族の村がミレニアの襲撃を受けた時。


 つまり、焔さんはあの悲劇の直後にSPTに?


「あの、焔さん……」


 だが、私の言葉は、江藤の声にかき消される。


「ってことは、藍子さんは本当に時紡石で未来に来たってこと!?だとしたら、一体今、時紡石はどこに?」


「それも、ヤトの伝承にヒントが隠されてるんじゃないかな」


 天宮が静かに答える。


「伝承によると、瞬間移動できる『飛石』と凪さんの世界とこの世界を結ぶ『境界石』。この二つの石を手にした時、八咫烏……つまりヤトは選ばれし魂を『聖所』へと導く、そして『紡石』への道を開く……とある」


 すると、ヤトが羽を大きくバタつかせ、キョロキョロと周囲を見渡す。思いがけない展開に戸惑っている様子だ。


「ちょっ、ちょっと待ってよ!俺、聖所なんて知らない!本当に聞いてないよ!聞いてたら覚えてるはずだもん!」


 天宮はヤトを見つめながら、指を顎に当て考え込む。


 伝承が示す「聖所」とは何なのか、思索を巡らせているのだろう。


 ヤトは「聖所」を知らない。


 そんな中でも、私はひとつの確信を抱いていた。


 ──このカラスはね、とっても特別なの。


 夢でのおばあちゃんの言葉。これを踏まえると、ヤトが磁場エネルギーの道を示す存在だと思えてならなかったのだ。


 ……まてよ。もし時紡石が存在するなら……。


「あの、もしかしておばあちゃんは時紡石で過去か未来に行って磁場エネルギーを隠したんじゃないでしょうか?そもそも隠せるものなのかっていう気はしますけど……」


 張りつめた沈黙の中、焔が静かに目を閉じ、ゆっくりと頷く。


「時紡石が実在する以上、可能性はある。SPTやミレニア、政府機関や軍事組織……あらゆる団体が何十年も血眼になって探しているのに、手がかりすら掴めない。もしや、これが答えなのではないか。この時系列にはない。過去か未来にあるから、いくら探しても見つからなかったのだ」


 焔の言葉が衝撃的だったのか、長官は小さく息を吐き、椅子の背もたれに深く寄りかかる。重苦しい空気の中、私は再び「あのっ」と呟き、顔を上げた。


「磁場エネルギーが過去か未来にあるなら、ある意味安全なんじゃないでしょうか?だって、誰が探しても見つからない。つまり、ミレニアにも見つけられない。だったら探す必要もないんじゃ」


「いや……」


 焔が静まり返った空気を再び揺らす。


「紅牙組の風見組長が言っていただろう。ミレニアの幹部、万丈がソルブラッドの宿主、すなわち君を探していると。恐らく、ミレニアも時紡石が磁場エネルギーの場所に繋がるという情報を掴んでいる。だったら、過去だろうが未来だろうが、先に私たちが磁場エネルギーを見つけ出し、破壊するしかない」


 そ、そうか……。言われてみれば確かに。


 その時、江藤が焔を見て尋ねた。


「つまり、ヤトが聖所へと導く『選ばれし者』は、凪さんってこと?」


 その言葉に、焔が私を見てゆっくりと頷く。


「恐らく──」


「いや、ちょっと待って」


 言葉を遮ったのは天宮だった。彼の瞳はどこか確信めいている。まるで、伝承の謎が解けたとでも言わんばかりに。


「『選ばれし者』は凪さんだけじゃない」


「どういうことだね?」


 長官の低い声が会議室に響く中、天宮は毅然と答えた。


「伝承にある『対なる者は光を放ち―』の一節。『対』という言葉は、単数ではなく、二つの存在を示すもの。つまり、この伝承が示しているのは一人ではなく、二人の人物です」


「二人?」


「伝承の冒頭『血と血の魂が出逢う時』がそれです。ひとつが凪さんの陽の血『ソルブラッド』なら、もうひとつの『対』となる血は、たったひとつしかありません」


 次の瞬間、一同の視線が一斉に焔へと向けられる。


 まさか……伝承が示す二人の「《《対なる者》》」は……。


「人狼族の陰の血『ルナブラッド』──。ヤトの伝承『対なる者』とは、凪さんとルナブラッドの宿主である焔、この二人を指し示しているのです」

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