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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第七章 御影編
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第83話 追憶

 昔の夢を見ていた。


 部屋にぽつんと座るのは、七歳の私。涙を流している。


「凪?」


 振り返ると、藍色の着物を着たおばあちゃんが静かに立っていた。おばあちゃんはそっと膝をつき、柔らかな手で頭を優しく撫でる。


「どうしたの?」


「真子と、喧嘩した、の」


 私はしゃくり声で、なんとか言葉を絞り出す。


「本を真子に取られて、お母さんに言ったら『凪はお姉ちゃんなんだから我慢しなさい』って。ずるい。私がおばあちゃんから買ってもらったのに」


 涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、おばあちゃんは優しく微笑んでいた。その笑顔に誘われるように、私はゆっくりと抱きつく。


 懐かしいにおい。温かくてほっとする。そうだ、おばあちゃんのにおいは、いつも温かかった。私は袖口で涙をゴシゴシと涙を拭き、着物の袂を引っ張った。


「ねえ。いつもの話、聞かせて」


 おばあちゃんは小さく頷き、静かに息を吸う。


「凪はお話が好きねえ」


「うん、大好き!」


「じゃあ今日は、ちょっと特別なお話をしようかな」


「なあに?どんなお話?」


 おばあちゃんはそっと目を閉じ、子守唄を歌うように言葉を紡ぎ始めた。


「ある一人の女の子のお話。女の子は、突然別の世界に飛ばされてしまいました。元の世界に戻る方法もわからず、行くあてもありません。女の子は悲しくなって、泣いてしまいます」


「うわあああ」


 私は大げさに顔をしかめる。それがおかしかったのか、おばあちゃんはクスッと笑った。私もつられて笑顔がこぼれる。


「そんな女の子の前に一人の狼少年が現れます。その少年は不思議なことに、女の子のことをずっと知っていたのです」


「ええ?ねえねえ」


「ん?」


「どうして?なんで知ってたの?」


 身を乗り出して尋ねると、おばあちゃんは少し考えて、優しく目を細めた。


「どうしてでしょう。心配で心配で、ずっと見守ってたのかもね」


 おばあちゃんはそれ以上言わず、話を続ける。


「狼少年は『君は宝物の在処を知っているんだよ』と言います。女の子はビックリして、困り果ててしまいます。せっかくの宝物。その場所を知っているはずなのに、思い出せないからです」


「ええ~どこお?」


「気になるでしょ?」


 おばあちゃんは私のほっぺたをぷにっとつまんだ。


「狼少年は言いました。『一緒に探そう。実はね、その宝物を悪い奴らが狙ってるんだ。だから、僕が君を守ってみせる!』二人は一緒に宝物を探すことにします」


「わああ!狼さん、かっくい~」


 私は頬を緩ませ、にっこり笑う。


「そうして旅を始めた二人の前に、不思議な出会いが訪れます」


「え~?なになに?」


「二人の前に、カラスが現れたのでした。カラスは『僕はヤタガラスだよ。半人前だけどね』と言いました」


「やたがらす?普通のカラスじゃないの?」


「そう。このカラスはね、とっても特別なの」


「へええ」


「カラスはこうも言いました。『宝物は、二人だけじゃ見つけられないよ。導く者が必要なんだ。それが僕。君たちを導くヤタガラスさ』」


「う~ん。なんだか、よくわからないや」


 私が首を傾げると、おばあちゃんは笑って私の頭を撫でる。


「じゃあ、今日はここまで。続きはまたのお楽しみ」


 おばあちゃんがそう言うと、私は慌てて声を上げた。


「ねえねえ、宝物ってどこ?どこにあるの!?」


 おばあちゃんは少し驚いた表情を浮かべ、私の両頬にそっと手を添える。


「特別な場所に隠してある。今度、凪だけに教えてあげるね」


「ほんと!?」


「ええ。ところで元気出た?」


「うん!」


 私はおばあちゃんと目を合わせて笑う。涙はすっかり止まり、おばあちゃんの温かな笑顔で心はふわっと軽くなっていた。


 懐かしい心地よさに包まれていた私だったが、自分の体からふわりと解き放たれる感覚に襲われる。一メートル、二メートル……。自分の視点が幼い私の体から離れていった。


 そっか。これは夢だ。きっとそろそろ覚めるんだ。


 だけど、夢にしては妙にリアルだ。それにこの話、まるで──。


 そんな思いがよぎった時、不意に低い声が頭の中で響いた。


 ―…さて。今、見せられるのはこのくらいかな。


 突然の声に驚き、私は声を上げる。


「だ、誰!?」


 一瞬の静寂。少しの間を置いて、再び低い声が聞こえた。今度はさっきよりも確かに響く。


 ―…驚いた。私の声が、聞こえるのかい?


「はい!あなたは?これ夢ですよね?」


 声は答えず、数秒の沈黙が続く。


「あの、聞こえてますか?私、幸村凪といいます。あなたは誰ですか?」


 再び問うと、ようやくゆっくりとした口調で答えが返ってきた。


 ―…私はね、君を見守る形なき魂だよ。


「魂?」


 ―…そう。だから君のことはよく知っているよ。驚かせて悪かったね。まさか私の声が聞こえるなんて。対の世界に来て、魂が随分成長しているようだ。


 何の話かまるでわからず戸惑う。だが、ひとつ確信できることがあった。この「魂のおじさん」は意図的にこの夢を私に見せている。何か意味があるのだ。


「あの、この話、私に当てはまるような気がします。もしかして、おばあちゃんが見つけた磁場エネルギーと関係が?」


 ―…それ…まだ…言え……


 どうしたのだろう。突然声が弱まりかすれて聞こえる。


「す、すみません!もう少し、大きい声で……!」


 だが、声と同様に私の目の前に広がる光景もまた、じわじわと消え始める。見慣れた部屋の景色は闇に包まれ、次第に何も見えなくなった。


 すごく大事なことを掴めそうだったのに。


 そう思った矢先、暗闇の中で低い声が脳裏に響いた。


 ―…大丈夫。私の遺志を継ぐ者が、君を「聖所」へと導く。

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