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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第九章 最終決戦編
134/156

第134話 仲介

「おいおいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、巨乳の姉ちゃんよォ……」


 財前を見るなり、瓜生は臭い物でも見るような目で見下した。


「誰?あんた」


 財前はバンッと薙刀を払い、胸を張って高らかに名乗る。


「紅牙組、財前光流(ひかる)


「財前?若頭の?イメージ通り、チャラい男」


「なかなか正直じゃねえの。まあ聞け。俺は紅牙組を代表して、あんたに提案がある。それを飲んでくれたら、この場から逃してやってもいい」


「提案?」


 すると、ヤトがバサバサと羽を広げ、財前に猛抗議を始めた。


「な、何言い出すんだ!瓜生を逃がすなんて……ふごっ!」


 ヤトが言い切る前に、財前が素早くその(くちばし)をムギュッと押さえる。


 それを見た私は、すかさず負けじと身を乗り出した。


「財前さん!勝手なことしたら、SPTの隊員として私が……ふがっ!」


 今度は私の口がガシッと塞がれる。


「そっちの事情なんざ知るか。それに、あの天宮と上木、焔に負けず劣らずの堅物と見た。あいつらの前じゃこんな話できねえからな。どうだ、姉ちゃん。話だけでも聞いてみねえか?あんたにとっても損はねえはずだ」


 瓜生はゆっくり首を傾げる。あからさまに拒否しないところを見ると、どうやら話だけでも聞くつもりらしい。


 にやりと笑う財前。ゴクリと息を呑む私とヤト。


 一体彼は何の話を……?


 すると、財前は照れくさそうに頬をポリポリと搔き、こう呟いた。


「実は、あんたに紹介したい男がいるんだ。花丸耕太っていうんだけどよォ……」


 …………。


 ズコーーーッ!!


 私とヤトは盛大にズッコケた。話ってそれかい!


 瓜生も呆れたように肩を落とし、顔をしかめる。


「……誰?」


「凪と戦った時にいた医者だよ。半人前の」


 瓜生は一瞬考えた後、ハッと顔を上げる。どうやらうっすら思い出したらしい。だが、瓜生は鼻で笑うと、きっぱりこう言い放った。


「悪いけど、全く興味ない」


「そう言わずによ。一度食事でもどうだ。あいつの性格の良さは、俺が保証する」


 薙刀を振るい上げる瓜生。


「興味ないって言ってるでしょ!」


 雷閃刀で受け止める財前。


「マジでいい奴なんだって!」


 いつになく必死の財前。それを見て、不覚にも私は心の中でこう思った。


 ──あなたがいい人ですよ、財前さん……。


 ヤトも同じことを思ったのか、苦笑いを浮かべている。


「それによォ、あんたずっと逃げ回ってんだろ?もうこんな生活やめにしねえか。辛えだろ。SPTに捕まるのが怖えならよ、うちに来ればいい。匿ってやるからよ」


 財前が穏やかに伝えるが、瓜生は豪快に薙刀を財前目がけて振り下ろす。


「ごちゃごちゃうるさい!」


「おわっ!」


「大体、そいつはSPTにいるんでしょ!私はSPTを裏切った。何をどう考えたらそんな発想になんのよ!」


 珍しく言葉を荒げる瓜生。苛立っているせいか薙刀の動きが荒い。一方の財前は、それをひらり、ひらりと受け流すだけ。どうやら自分から攻めるつもりはないらしい。


「仕方ねえ。こうなったら、俺が掴んだとっておきのネタを教えてやる」


 その言葉に、私とヤトは顔を見合わせる。


「とっておきの……」


「ネタ?」


 財前は感傷を帯びた笑みを浮かべ、ゆっくりと語り出した。


「高校の時、あいつの初恋の相手がいじめられてて、その子はよく弁当を隠されていた。心配になった耕太は、隠されてもちゃんと飯が食えるように、毎日その子の分まで余分に弁当を作って、一緒に食った。周りに冷やかされても、ずーっとな」


 すると、次の瞬間、瓜生の手がふっと止まった。


「そんでもって、卒業式の日に意を決して告白したんだが、こっぴどく振られたらしい。理由は……」


「理由は?」


「弁当がまずかったから。その子にしてみりゃ、ありがた迷惑だったみてえだな」


 財前の言葉が落ちた瞬間、私たちは一瞬押し黙る。数秒後、ヤトがバサッと羽を広げた。


「なんだよ、そいつ!花丸は心配して毎日お弁当作ってたのに!」


 私も頷く。そんな振り方、酷すぎる。あの優しい花丸なら、絶対に傷付いたはずだ。胸の奥に沸々と怒りが湧く中、不意に視線を向けた先で、驚いた。


 瓜生が僅かに目を伏せていたのだ。財前の話、そしてこのヤトの言葉に、少なからず心が揺れている──?


「そんな奴、こっちから願い下げだい!花丸もビシッと言ってやるべきだ!」


 私の横で思いきり感情移入したヤトの怒声が飛ぶ。いつになくプリプリのヤトを見ながら、財前は口元を緩めた。


「話はここからだぜ、カラスの小僧。こんなフラれ方したら、流石にどんな優男でもキレると思うだろ?でもよォ、耕太はこう言ったんだ。『好きになれて幸せでした。ありがとう』ってな」


 瓜生の瞳が、一瞬硬さを失った。


 私も、ヤトも、財前の言葉に思わず息を呑む。


 花丸さん、お人好しとは思っていたけど、お人好しなんてレベルじゃない。天使だ。


 すると、すぐ横でバサッと羽音が聞こえた。ヤトが両翼で目を覆い、小刻みに震えている。どうやら、もらい泣きをしているらしい。


「ううう……俺、花丸のこと、もっと好きになっちゃいそう」


「わかってるじゃねえの。なかなか健気だろ?なあ、姉ちゃんよォ……」


 ふと瓜生を見ると、彼女の表情が一瞬揺らいだ。その小さな揺らぎを、財前は見逃さず、静かに言葉を投げた。


「ようやく少し見せやがったな」


「は?」


「本音だよ。あんたは今、耕太のことを『バカみたいなお人好し』と思った。そうだろ?」


 瓜生はうんざりした顔でため息をつく。だが、財前は確信めいた笑みを浮かべていた。


「俺はよォ、極道だからってのもあるが、今まで色んな人間を見てきた。それこそ『闇堕ち』した奴も腐るほどな。だからわかる」


 財前は瓜生に向き直る。その表情はいつになく、とても柔らかかった。


「あんたは、そこまで堕ちちゃいねえ。随分気張ってるけどよ、ほんとはこの状況辛えんじゃねえのかよ」


「さっきから何?知ったようなこと、言わないでくれる?」


 瓜生はそう言うと、財前を冷たく睨みつけた。だが、財前は不敵に笑う。


「言っとくが、これを最初に言い出したのは、俺じゃねえ」


 瓜生は小さく首を傾げる。財前は胸を張り、言葉を続けた。まるで花丸の優しさを誇るようなそんな眼差しで。


「耕太だよ。あいつは、あんたの本音に気付いた。だから惚れた。強情なあんたに必要なのは、耕太みてえなちょっと勘の鋭い、お人好しなんだよ」



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