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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第九章 最終決戦編
130/156

第130話 真心

 私たちは今、収容棟の細長い廊下を歩いている。廊下の窓は所々割れ、風が吹き抜ける音が不気味に響き、背筋がぞくりとする。時折、近くから衝撃音や怒号が聞こえる。今、この収容棟ではSPT幹部の丹後と江藤の部隊が使徒たちと戦闘中だ。みんなは無事なのか。心配と不安で胸がざわめいた、まさにその時──。


 ……ヴヴ、ヴヴヴ……


 唐突に小さなうめき声が聞こえてきた。かなり近い。


 天宮と上木は足を止めて周囲を警戒する。上木は素早く懐から小刀を取り出し、私に駆け寄ってきた。


「大丈夫」


 小さく呟いて微笑む彼女に、ぎこちない笑顔で応える私。その時、上木の目が見開かれた。彼女の目線の先は、私の懐にいる──ヤトだ。


 まさか……。


 ──ヴヴ~♪ルルルン♪ルン♪


 目を閉じ、頭を左右に上機嫌のヤト。


 不気味なうめき声の正体は、ヤトのハミングだったのだ。


 すると、財前が呆れたように舌打ちをし、私の懐にズボッと手を突っ込む。


「ひ、ヒィ!?」


 声を上げる私をよそに、財前はヤトを引っ張り出すなり、そのままグルグルぶん回す。


「ぴ…ぴやあああん!」


「ぴやーん、じゃねえ!ぶりっ子すんな、このタコ!まーた変な声出しやがって!」


「違うもん!みんなをリラックスさせようとしただけだもん!」


 必死に言い訳するヤトを財前は容赦なくぐるんぐるんと振り回す。数秒後、気が済んだのか財前はポンっと私の手にヤトを戻した。


「ぴや……ああぁぁ……」


 目を回してか細く鳴くヤトを、私はそっと撫でる。


 よしよし……。


「財前さん!ヤトをいじめないでください!」


「へいへい」


 財前は適当に返しながら、気を取り直すようにひとつ咳払いをした。


「ところでよォ、今追ってる瓜生っていう姉ちゃん。どんな顔してんのよ?」


 上木は懐から一枚の写真を取り出す。財前は写真を覗き込むなり、ピュウっと口笛を吹いた。


「とんでもねえ美人じゃねえか。胸もでけえし。な?耕太」


「え!?あ、そう……ですね」


 花丸は一瞬写真を見ると、顔を逸らしてぱぁっと頬を赤く染める。それを見た財前は一拍置き、にやりと笑うと花丸の肩をガシッと抱き寄せた。


「わかりやすいな、お前」


「え?」


「お前、惚れてんだろ?この姉ちゃんに。バレバレだぜ」


 私はぎくりとした。


 思い返せば、花丸は瓜生を初めて見た時、あからさまにときめいていた。あの時は一時的にドキッとしただけだと思っていたのだが……。


 まさか花丸さん、本気……!?


「な、凪ちゃん!?違うよ!そんなんじゃ……」


 言葉とは裏腹に、花丸の耳は真っ赤に染まっている。嘘をついているのがバレバレだ。だが、天宮や上木、ヤトは互いに視線を交わし、押し黙った。


 若干重たくなった空気を感じ取ったのか、財前は訝しげに首を傾げる。


「なんだよ?この姉ちゃん、なんかあんのか?おい、凪?」


 話しかけられて目を泳がせる私。すると、天宮と上木がこちらに向かって静かに頷いた。


 ──財前になら話してもいい。


 二人の意図を察した私は、財前にそっと耳打ちをした。話終えると、財前は小さく息を吐く。


「そういうことか」


 かつてSPT幹部だった瓜生蓮華は、仲間を裏切って機密情報をミレニアに流した。妹がミレニアに捕われ、彼女を救うために従わざるを得なかったのだ。


 だが、それを知ってもなお彼女を許せない隊員は多い。瓜生は、部下である上木をスパイに仕立てあげた。そして上木の告発が発覚した時、瓜生は彼女を殺そうとした。現に戦闘では上木に瀕死の重傷を負わせている。


 すると、花丸が前に出て、上木の前で深く頭を下げた。突然の行動に、上木は僅かに目を見開く。


「上木さん。僕が言うことじゃないかもしれないんですけど……」


 上木は戸惑いながらも、口を開きかける。が、花丸が先を急ぐように続けた。


「瓜生さん、泣いてたんです。あなたを斬りつけた後、逃げる直前に」


 言葉が落ちるのと同時に、私たちの間に動揺が広がった。あの冷静な天宮ですら表情が揺れている。


「瓜生さん、妹を助けなきゃっていう思いと、SPTを裏切ってしまったっていう二つの思いがせめぎ合ってるんじゃないでしょうか。あの時の涙……上木さんを、本当は傷つけたくなかった、でも傷つけてしまった、どうしようもなかった。そんな心の叫びみたいに思えてならなかったんです」


 そこまで言い終えると、花丸は視線を落とし、再び上木に頭を下げた。きっと彼はずっと、瓜生の心を感じ取ろうとしてきたのだろう。そして、気付けば瓜生のことが心から離れなくなった。私は赤くなった花丸の横顔を見て、静かに微笑んだ。そんな恋のはじまりも、この人らしい。どこまでも優しくて、温かいところが。


「花丸さん」


 上木はそっと花丸に近づくと、肩に優しく手を置いた。


「……ありがとう。本当のあの方を、見ていてくれて」


 上木の声はとても穏やかで澄んでいた。思い返せば、瓜生がSPTを去った後、上木はひと言も瓜生を悪く言わなかった。以前、彼女はこう言っていたのだ。


 ──瓜生隊長は元々妹思いで優しい人なんだ。だから、初めは力になりたいと思った。でも、どんどん行動がエスカレートして……。結果的に止められず……──


 上木はきっと、今でも瓜生の優しさを信じている。その奥にある葛藤と、妹への愛情の深さも。そんな想いが彼女の表情から滲み出ていた。

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