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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第九章 最終決戦編
125/156

第125話 布陣

 ──十月三日。午前十一時、快晴。


 轟音(ごうおん)を上げながら、数台の青いトラックが中央刑務所の敷地内に停まった。いや、正確には「かつて中央刑務所だった場所」。


 廃墟と化した敷地では、今月から本格的な解体作業が始まっていた。トラックの荷台には鉄パイプや工具箱が置かれ、無骨な男たちが続々と降りて来る。


 その様子を、私たちは少し離れた建物の影から静かに見つめていた。濃紺(のうこん)のツナギにヘルメット。私と焔、そして他のSPTの面々も、解体作業員に(ふん)している。


 今夜、この場所にミレニアが来る。


 そう断言したのは、天宮だった。


 根拠はヤトの伝承の冒頭だ。


 ──昏明(こんめい)の刻 影月(えいげつ)紅く染まりし時


 「昏明の刻」とは、夜明け前や日没直前のこと。


 そして「影月紅く染まりし時」とは、月が地球の影に包まれ、赤黒く染まる時──つまり、皆既月食だ。


 数年に一度の「皆既月食」が来るのが、今日──十月三日。


 すべては伝承通り。


 SPTとミレニアの、最後の戦いが静かに幕を開けた。


「俺、ちょっと様子を見てくるよ」


 私の腕の中にいたヤトはそう告げると、バサッと空へ飛び立った。


 ヤトが向かったのは、廃墟と化した中央刑務所。その敷地内は広大で、複数の建物が点在している。


 収容棟に管理棟、そして囚人たちの作業場だった工場棟。


 一年前、ミレニアはすべての棟を襲い、囚人や刑務官たちを殺害もしくは(さら)ったという。


 襲撃後、建物は放火され、棟の壁は影を落としたような灰色がこびりついている。割れた窓の隙間から風が吹き抜け、建物全体がまるでうめいているかのようだ。


 私は、寒気を振り払うように隣に立つ焔を見る。


 いつも銀髪の彼だが、この日は黒く染めていた。人狼族の特徴ともいえる銀の髪は目立つということで、昨日私がせっせと黒く染めたのだ。


 凛とした横顔。ヘルメットの中から覗く黒髪。


 焔さん、黒髪もめちゃカッコイイ……。


 すると、私たちの間にある人物が割って入ってきた。


 SPTの策略家、天宮だ。


「ヤトの偵察次第だけど、とりあえず作戦は予定通りでいこうか」


 私と焔は無言のまま、静かに頷く。


 そう、決戦の作戦を立てたのは天宮だ。


 まず昼間。


 解体業者に扮したSPT隊員が、中央刑務所内に潜入。現場の様子を確認しつつ、夜に備えて罠を仕掛ける。


 夕方からはヤトの出番だ。


 仲良しカラスと共に、上空から広い敷地をくまなく確認する。不穏な動きがあれば即座に報告し、その場合は丹後と江藤の部隊が動く。


 そして、本隊。


 焔と私、天宮、上木をはじめとしたSPT隊員それに救護隊員は、刑務所内のある場所を爆破する。これはミレニア、そして飛石を持つ瓜生を誘い出すための陽動(ようどう)だ。


 ミレニアのスパイだった瓜生は、正体がこちらにバレた以上ミレニアには戻っていないはず。瓜生が妹を探してこの場所を監視しているのは確かだ。爆発が起これば、状況を確かめに来るに違いない──それが天宮の読みだった


 とはいえ、爆発騒ぎで敵が一斉に押し寄せるリスクもあるので、夜に備えて朝のうちに刑務所内に罠を仕掛ける、というわけだ。


「飛石を奪取したら、すぐにヤトに口寄せの術をしてもらう。敵が迫っていても、焔と凪さんは迷わず過去に向かってね」


 天宮の声は、穏やかながらも決意に満ちていた。彼の言葉を受けて、私は僅かに顔を曇らせる。すると……。


「凪、心配いらない」


 すぐ後ろで落ち着いた声が響いた。上木(かみき)凛だ。


「罠も仕掛けるし、武器も改良済み。例の『真・雷閃刀(らいせんとう)』もなかなか使えそうだし、夜には紅牙組も援護に来てくれる」


 そう、元々「雷閃刀」は、紅牙組の若頭、財前が開発(DIY)した刀だ。


 電流を帯びるその刀をSPTが改良し、人狼の気を(まと)わせたのが「真・雷閃刀」。


 同じく、SPTの銃も強化され、皆が携行(けいこう)している。人狼族ではなくても、人狼の気を(まと)った武器が使えるのはかなり有利だ。


 すると、天宮が焔に向き直り、静かに告げる。


「とはいえ、まずは瓜生が持っている飛石を奪取しなければ始まらない。彼女が先にミレニアに捕われる、なんてことがないように……頼んだよ、焔」


「ああ」


「あの、ちょっといいですか?」


 不意な問いに、私たちは一斉に振り向く。そこにいたのは、私たちと同じ作業服に身を包んだ、花丸耕太だった。


「その瓜生さんって、例のスパイだった女性ですよね?前に凪ちゃんと戦った」


 彼の腕には救急バッグが握られている。


 花丸は元々研修医。その経験を買われ、今回の作戦では救護班として同行している。


 花丸の言葉に、私は小さく頷いた。すると、彼はふっと息を吐き、頬を微かに赤らめる。


「花丸さん?どうかしました?」


「う、ううん。何でもないよ。えっと、しっかり準備しとかないとね」


 花丸は慌てたように目を逸らし、救急バッグの中をゴソゴソと探り始めた。少し不自然な動作に首を傾げながら、胸の奥でゆっくりと深呼吸する。


 しっかり、心の準備をしておかないと。


 私がやるべきことは、瓜生から飛石を奪取すること。そして、焔とヤトと共に過去へ行き、磁場エネルギーを破壊すること。失敗は許されない。


 それに私は、ミレニアにとって磁場エネルギーの場所を知る唯一の人間。絶対に捕まるわけには──。


「凪」


「は、はい!」


 突然焔に呼ばれて、つい声が裏返る。彼は私をじっと見つめ、心を見透かしたかのようにこう告げた。


「不安なのか?心配するな。何度も言っているが、君は私が守──」


 ──ぺちん。


 言い終わる前に、私は両手で焔の口を塞いだ。突然のことに驚いたのか、彼は目を見開く。一方の私はというと、彼の口を塞いだまま小さく息を吐いた。


 焔が言いかけた「守る」という言葉。


 ここ最近、私が少しでも不安がると、それを察知したかのように、彼はこの言葉を口にする。


 優しさに感謝する一方、言われるたびに心臓がとんでもなく高鳴り、三日前にはついに鼻血が出た。決戦前の大事な時にあんな顔は見られたくない。


 ──焔さん、ごめんなさい。これは私なりの鼻血予防なんです……。


 私はそっと手を離し、小さく笑う。一方の焔は私の行動が不可解だったのか、きょとんとしながら首を傾げる。すると、私たちの様子を見ていた天宮がくすりと笑ってこう切り出す。


「そういえば、紅牙組との連絡は焔に一任されてたよね。彼ら、夜に合流するとしか聞いてないけど、具体的にどんな形で?」


「紅牙組、か」


 焔は空を仰ぎ、片手で日差しを遮る。


 ヘルメットの隙間から覗く黒髪が、光を受けて僅かに紅く染まっていた。


「色々考えてるんじゃないか。なんせ、あの派手好きが若頭だからな」


 そう微笑む彼の表情は、どこか楽しげだった。

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