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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第八章 聖所編
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第122話 秘術

 焔の声を受け、私は数日前の出来事を思い返していた。それは、夢で交わしたヤトパパとの会話。ずっと忘れていた。その時、ヤトパパも言っていたのだ。「口寄せの術」が「聖所」の謎を解き明かす鍵なのだと。そんな大事なことを伝えそびれていたとは……。


 私のバカっ!


 だが、そんな思いとは裏腹に、焔の表情は確信めいていた。どうやら、私が伝えるまでもなく「聖所」の秘密に辿り着いたらしい。


「今話すことは、ヤトには内密に」


 焔の言葉に、皆が静かに頷く。私もそっと視線を落とし、懐に収まるヤトに目を向ける。すると──。


「ぐぅ」


 気持ち良さそうな寝顔に、私はくすりと笑った。ヤトがぐっすり寝ているのを確認した焔は、ゆっくりと口を開く。


「八咫烏の秘術『口寄せの術』が、命懸けだと言われている所以をご存知か?」


 焔の問いに、私はぽかんと口を開ける。長官、丹後、そして江藤も、彼の言葉の意味を測りかねているようだ。


 だが、その時。


 天宮だけが言葉の意図に気付いたのか、ハッと目を見開いた。


「……『特定』だね」


「その通り」


 瞬間、場の空気が一気に揺れた。長官や幹部の表情は戸惑い、皆が一斉に口を開く。


「焔さん、どういうことですか!?」


「何?気になるじゃん!」


「どんな秘密が?詳しく話せ」


 矢継ぎ早に詰め寄る、私、江藤、そして丹後。一方の焔は余裕の笑みを浮かべ、天宮と静かに視線を交わしている。数秒続いた沈黙に耐えかねたのか、長官が勢いよく机を叩いた。


「もったいぶらずに、さっさと言う!」


 ……前にもこんなことがあったような。


 そう思ったのも束の間、焔は一瞬目を細めると、コホンと咳払いをした。


「『口寄せの術』は魂を憑依させる術。だが、成功させるためには極めて重要な工程がある」


「重要な工程?」


「魂の『特定』だ」


 この一言で、場の空気が張り詰める。


 一瞬沈黙が降りた後、焔は静かに、そして力強く続けた。


「口寄せの術は、呼び寄せる魂が『いつ、どこに、何者として存在していたか』を、魂ごと肉体から離れて探り、正確に特定しなければならない。命懸けでな」


 私は、焔の声に耳を奪われていた。


 「口寄せの術」──こんなにも危うい術だったなんて。


 横目で幹部たちを見ると、天宮以外は皆、驚きと困惑を隠しきれていなかった。どうやら、術の本質は、想像以上に秘められたものだったようだ。


「口寄せの術は、この特定が難関なのだ。『魂』は人間を含め、生命の数だけある。星の数ほどある魂の中から、たったひとつを見つけ出さなければならないからな。特定ができなかった八咫烏は、戻るべき自分の肉体がどこにあるのかわからなくなり、闇の中を彷徨う。そして、そのまま二度と目覚めることはない。だが、ヤトはどういうわけかこの口寄せの術を何度も成功させている。つまり、非常に難易度の高い『特定』を瞬時にやってのけるのだ」


 焔の発言があまりにも唐突に感じたのだろう。江藤がバンッと両手を机につき、前のめりになる。


「ちょっと待って!ヤトは半人前で修行中だよね?そんな超絶難しくて危ない術、本当に……」


「ほ、本当です!」


 私は思わず江藤の言葉を遮った。私は確かに見た。ヤトが口寄せの術を成功させたところを。


「私、見ました!魂のおじさん……ヤトパパさんが、ヤトに宿っているとこ!」


「ヤトパパ?獅童殿のことかな?」


 長官の言葉に、私は強く頷き、早口でこう続けた。


「ヤトパパさん、今、私の心に宿ってくれているんです。ヤトのことも色々教えてくれて。口寄せの術をヤトは失敗したことがないってハッキリ言ってました!」


 その場がしん……と静まり返る。丹後や江藤は「信じられない」という表情で、目を泳がせている。長官は私の懐で眠るヤトを一瞬見た後、静かに呟いた。


「焔。それで一体、その術が時紡(じぼう)石とどう関係していると?」


「『口寄せの術』の工程である『魂の特定』。これは、『特定の場所や時間に繋がる』という点で、時紡石の発動原理と酷似しています。つまり、口寄せの術を扱えるヤトなら『時間を紡ぐ道』を導くことができるはずなのだ」


「だが、問題はその『聖所』だ。肝心の場所がわからない以上、ヤトは『特定』できないのでは?」


 長官の疑問が発せられた瞬間、皆の視線が一斉に私に注がれる。


 そう、結局のところ、私が思い出さない限り「聖所」には辿り着けない。そして、その場所は今も思い出せないまま。みんなの足を引っ張っているような気がして、思わず顔を伏せると、隣で焔が穏やかに微笑んだ。


「そんな顔をするな、凪。おおよその見当はついている」


 彼の表情を見て驚いた。その瞳は真っすぐで、確信に満ちていたのだ。


「あの伝承が伝えたいことは、『決まった日時に特定の場所へ向かえ』という指示に他ならない。日時や場所が敢えて指定されている以上、その『場所』は現代にはすでにないか、向かったとしても磁場エネルギーへ簡単に到達することはできないのだろう。そして、凪の夢によると、幸村藍子は孫の凪にその場所を『特別』と伝えていた。つまり『聖所』は幸村家にとって思い入れのある『過去』だ」


 私は固唾(かたず)を飲んで焔を見つめた。胸の奥から、何かがすうっと浮かび上がってくる。


「現代にはなくて過去にあった場所。家族と過ごした、大切な場所。凪、ここまで聞いて、真っ先に思い付いた場所はどこだ?」


 焔の問いに、私は深く息を吸った。胸の中から湧き上がる、温かい感情。ゆっくりと目を閉じて、遠い記憶を遡る。


 木目のテーブルと湯気を立てるポット。


 壁にかかる、大きな古時計。


 机に置かれた、編みかけの毛糸と文庫本……。


 点と点が繋がり、はっきりと浮かび上がったひとつの場所。私は目を開け、顔を上げた。


 もしかして「聖所」の場所は……。


「今はもうない、北海道のおばあちゃんの家です!」

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