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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第七章 御影編
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第104話 潜在

 暗闇の中、轟々と風の音が耳をかすめる。広がるのは一面の闇。そんな中、なぜか意識ははっきりとしていた。


 私は、確かベッドで寝ていたはず。


 これは夢?ということは。


 私は息を吸い、静かに呟いた。


「……ヤトパパ、さん?」


 吹き荒れた風が徐々に弱まり、代わりにクスクスと楽しげな声が響く。


「ヤトパパ、か。いいね、そのノリ。嫌いじゃないよ」


 声を聞いて私も小さく笑う。


「毎日、頑張っているね」


「知ってたんですか?焔さんとの決闘のこと」


「ああ。あの青年、天宮と言ったかな。彼も稜馬を心配しているんだね」


「はい。ヤトパパさんも焔さんの本名を知ってたんですね」


「ヤトと暮らしている青年だからね。もちろん調べたよ。それで、勝てそうかね」


 私は言葉に詰まった。前よりは成長しているけど、それでも遠く及ばない。すると、その沈黙を見越していたかのように、ヤトパパが静かに告げる。


「私も、君に力を貸そうか?」


「え?」


「肉体はないが、魂は残っているからね。我々は神鳥、進むべき者を誘う導きの存在。魂だけでも君の力になれる」


 私は息を呑んだ。


 導きの存在──。そうだ。ずっと気になっていて、確かめたいことがあったんだ。


「あの、ヤトパパさん!すみません、少し話変わるのですが」


「ん?」


「ヤトパパさんの伝承に『八咫烏は選ばれし魂を聖所へと導く』ってありますよね。磁場エネルギーへの道を示すのが、ヤトなんでしょうか?」


 私は目を細め、核心を突いた。そう、その伝承は……。


── 血と血の魂が出逢う時


昏明の刻 影月紅く染まりし時


飛石 境界石は力を纏い始めん


放たれしその力にて


八咫烏は選ばれし魂を聖所へと導く


二つの石を手にせし時


対なる者は力を放ち


時を超えし紡石への道を拓かん ──


 この伝承に登場する「八咫烏」はきっとヤトのこと。だが、ヤトが導く「聖所」がどこなのか未だにわからない。その場所を突き止めれば、磁場エネルギーを見つけられる。そう思ったのだ。


「じゃあ、ひとつヒントをあげようか」


「ヒント?」


 すると、けたたましい風の音が周囲を駆け巡った。私は思わず目を閉じる。すると、風に交じって激しい雨音が叩きつけるように響いた。


「ヤト!!!」


 突然の叫び声に、私は目を開ける。そこにいたのは──。


 私自身だった。


 SPTの制服を着た私が、花丸と共にずぶ濡れになりながら数羽のカラスの背に乗せられている。視線の先で、もう一人の私は震える手を伸ばしながら、必死にヤトへ呼びかけていた。


 この光景は、紅牙組でミレニアに襲われたあの時。過去の映像だ。


 前方に目を凝らすと、そこには血を流したヤトがいた。ヤトは少年の姿に変化し、漆黒の翼と瞳を持ち、敵を睨みつけている。


 この後、ヤトは攻撃を受けて負傷するはず。


 続きを見るのが怖くなった私は、固く目を閉じる。そんな私に気付いたのか、ヤトパパが静かに呟いた。


「見届けてやってくれ。息子の戦いを」


 次の瞬間、美しい口笛が雨の音を掻き消した。


 私は再び目を開ける。これはヤトの口笛。そうだ。あの時ヤトは八咫烏の秘術「口寄せの術」を使ったはずだ。口笛は術の発動に必要なもの。


 でも、確か口寄せの術はうまく発動いかなかったはず。この後、ヤトがそう悔しそうに言っていたのだ。


 だが、私は目を見張った。ヤトの体は黒い(もや)に覆われ、異様な気配を放っていたからだ。ヤトは宙に浮き、黒い翼を大きく広げ、鋭く敵を睨みつけた。まるで「別の何者」かが憑依し、敵を威嚇しているかの如く。


 固唾を飲んで見守る私の耳に、厳かな詠唱が響く。



──


 八咫の炎よ 嵐を(まと)


 禍神(まがかみ)の息吹よ 天地を切り裂け


 狂風(きょうふう)よ 刃と化して


 無明の闇を 貫き消し去れ


──



 すると、轟音とともに竜巻のような強風が吹き荒れる。暴風は容赦なく敵を切り裂き、吹き飛ばした。腕、肩、足……敵は至るところから血を流し、次々と地に崩れ落ちる。詠唱から発せられた力が、敵を一蹴したのだ。


 だが、黒い靄は次第にヤトから消え去り、ヤトもまた、地面へと倒れ込む。すると、敵の一人が辛うじて立ち上がり、ヤトに刃を向けた。


「ヤト!」


 私は思わず叫ぶが、次の瞬間、数羽のカラスが勢いよく敵に襲い掛かった。予想外の攻撃に敵はひるみ、恐れをなして逃げ出す。だが、ヤトもまた力尽き、カラスの姿に戻ると水たまりに顔をうずめて動かなくなった。私は両手で口を抑え、小さく震えた。


 今のは、ヤトじゃない。声は同じだけど気配が別人だ。もしかして、この時ヤトに宿っていたのは……。


「ヤトパパさん?」


 すると、まるで微笑んでいるかのような、微かな息遣いが聞こえた。


「ヤトは失敗したって言ってたけど、本当は……成功してた?難しい口寄せの術を」


「実はね、息子は気付いていないが、今までに何度もこの術を成功させているんだ」


 何度も……!?


「我ながら、自慢の息子だよ。口寄せの術は命懸け。真の八咫烏でも成功した者は数えるほどしかいない。だが、不思議なことに、ヤトはなぜかこの術だけは昔からできた。術との相性が良いのか、才があるのか、この術が得意だった母に似たのか。それが、伝承の謎を解き明かす、大きなヒントだよ」


 ヤトが知らぬ間に秘術を成功させていたなんて。それも、命を削るような術を。


「凄い……ヤト。天才じゃん」


 思わず本音が漏れる私。再びヤトパパの嬉しそうな息遣いが聞こえた。ヤトのことが心底、誇らしいのだろう。


 すると、私の左手首に嵌めていたヤトのブレスレットが赤い光を放つ。驚いてブレスレットを掴むと、目の前の光景が一瞬で掻き消え、周囲は暗闇に包まれた。


「あの、今の映像は?」


「君のブレスレットの力を借りて見せていたんだ。過去の映像をね」


「過去の映像?」


 私はふと考える。ヤトパパとこのブレスレットの力を合わせれば、過去の映像を見ることができる。


 私は少し考え込んだ後、ハッと顔を上げた。


 それなら、もしかして──。


「ヤトパパさん!お願いがあります!もうひとつの過去を見せてくれませんか!?」


「もうひとつの過去?」


「十年前……人狼族の村が襲われた時のこと。焔さんの過去です!」

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