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対 -TSUI-  作者: あさとゆう
第七章 御影編
100/156

第100話 駆引

 夜八時。私は賑やかなファストフード店の片隅にいた。無心でバーガーを頬張り、コーラを流し込んだ後でケホッとむせる。


 ……焔さん。


 私はゆっくりと頷きながら頭をブンブンと振り、思考を切り替える。というのも、今早急に考えなければならないことがあるからだ。


 それは、今日の宿。


 さっきネットカフェに寄ったのだが、身分証明書がなくて利用できなかった。もし入れたとしても、未成年の私は深夜まではいられない。


 せっかく啖呵を切って家出したのに、いきなり大ピンチ。


 いや、いざとなったら公園で野宿でも……。


 そう思ってコーラに手を伸ばしたその時──。


「あっれれ~?凪さんじゃない」


 唐突に背後から聞こえてきた、軽快な声。


 まさか──。


 振り返ると、そこにいたのは思った通り、天宮だった。


「偶然だね。ビックリしちゃった」


 青の柄シャツに黒いスラックスというこなれたスタイルでハンバーガーをのんびり頬張る彼に、私はジーっと疑いの眼差しを向けた。


「……絶対、偶然じゃないですよね?」


 天宮は手を止め、笑みを浮かべる。


「バレちゃったね。実は、君に渡した鍵に、こんなものを仕掛けてたりして」


 天宮が掲げた右手の指先には、小型の発信機が掴まれていた。


「執務室に入ったこと、焔にバレたら、衝突して凪さんが家を飛び出すこともあるんじゃないかと思ってね。念のため仕掛けておいたんだ」


 がくりと肩を落とす私。まさにその通りになってるし。


 だが、うなだれる間もなく、天宮は鞄を手にして立ち上がる。


「じゃあ、行こうか」


「行くってどこへ?」


「僕の屋敷。泊まるところないんでしょう?さ、立って」


「え?えええ!?」


 天宮は私の腕を軽く引き、颯爽と店を出て車へ向かう。運転席には彼の部下兼執事の、服部の姿。私は軽く会釈をし、シートベルトを締める。車がゆっくりと動き出すと、天宮が静かに口を開いた。


「それで、どうだった?」


 私は天宮に向き直り、執務室での出来事を伝えた。


 磁場エネルギーの在処を伝える血判状に、焔の名があったこと。


 でも、焔の祖父はそれを伝える前に亡くなったこと。


 天宮は暫く考え込み、静かに口を開いた。


「血判状のことを黙ってたのは、凪さんに余計な負担をかけたくなかったからだと思うよ」


「わかってます」


「じゃあどうして、家を飛び出したりしたの?」


 それは……。


「もしかして……」


 私はハッと息を呑んだ。彼の視線が、一気に鋭さを増したのだ。


「……何か別の物、見たんじゃない?」


 ぎくり。図星だ。


 執務室で見た封筒。そこに記された二つの文字。それこそ、彼が抱えている秘密だ。だけど、ここでそれを言うわけにはいかない。


「いえ、別に……」


 私は愛想笑いを浮かべて誤魔化す。すると、天宮はにっこりと微笑み、改めて私の目をじっと見据えた。


「凪さん。目、腫れてる。泣いたの?」


 次の瞬間、天宮は私の頬にゆっくりと手を伸ばす。不意な彼の行動に、ドキッとする私。


 いや、落ち着け。ドキッとしている場合じゃない。


 この人は尋問のプロ。心配する風を装って(少しはしてると思うけど)表情の動きや僅かな反応から、私が執務室で何を見たのか見極めようとしているのだ。


 戸惑う私をよそに、天宮は一気に核心に迫る。


「凪さん。君が執務室で見たのってひょっとして……」


 私は、気付くと天宮の目をガバっと両手で覆っていた。


 予想外だったのか、天宮はわっと声を上げる。


「な、凪さん!?」


 あ、危なかった。


 まさに「油断も隙もない」とはこのこと……!


「ごめんなさい!言えません!焔さんが打ち明けてくれるまで!」


 すると、天宮がそっと私の手に触れ、下ろす。険しい表情から一転、いつもの穏やかな表情だ。


「焔が、打ち明けてくれるまで?」


「私、焔さんに勝負を挑んだんです。二週間後、私が勝ったら焔さんは秘密を話してくれます。さっき、そう約束してくれました」


 その瞬間、天宮の目が驚きに見開かれる。


「なんでそんな無茶を」


 私は言葉に詰まる。


 数秒の沈黙の後、天宮が静かに尋ねた。


「焔が勝ったら?」


「金輪際、この話はするなって」


「凪さんは、焔に勝てると思ってるの?本気で」


 天宮の声は僅かに厳しさを含んでいた。当然だ。焔はSPT最強の戦士。普通に考えたら、勝てるわけがない。でも……。


「普通に聞いても話してくれません。焔さん、いつもはぐらかすし、さっきだって……。でも、知った以上、黙ってるなんてできません。焔さんの目的、天宮さんもなんとなく気付いてるんじゃないですか?だから、マスターキーも貸してくれたんですよね?」


 私の言葉に、天宮はハッと息を呑んだ。


 そう、この人はきっと、ずっと前から彼の秘密を察していた。だからこそ、私に協力してくれたのだ。


「あそこで何を見たのか、本当のことは言えません。でも私、勝ちます!……あの人を、止めたいんです!!」


 車内に響く大きな声。これが、今の私が伝えられる精一杯。


 でも、この人なら察してくれるはず。天宮はしばらく黙った後、口元をふっと緩ませた。


「……尚更、協力しないわけにいかなくなったね」


 天宮は軽く息を吐き、背もたれにゆっくりと寄りかかる。


「じゃあ、明日から頑張ろうか、凪さん」


「頑張る?何を?」


 天宮は笑みを浮かべ、ゆっくりと告げた。


「焔との決戦に向けて、特訓しないとね」

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