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偶然の必然

午前3時。

初冬の澄んだ空気が耳を刺す。

未明の空を確認すると、名も知らぬ星がちらほらと瞬いている。

右手には引き手綱、左手には煙草。

帰ってきた。ここに。



7年前。

 

 午後1時。シルバーのマシンが泥道を往く。跳ね馬のエンブレムが誇らしげだ。

超高回転型のエンジンを、可能な限り吹かさず、トロトロと走る。この道路とも言えない道には、絶対的に優先されるべき存在がいるのだ。


マシンはマフラーからのエキゾーストノートも可能な限り圧える。

4気筒1本出しのステンレスのノーマルマフラー。

2輪車?そう、跳ね馬のエンブレムでお馴染みのKAWASAKI、バリオスだ。

跳ね馬のエンブレム?某高級スポーツカーでは勿論無い。


まだ残暑厳しい9月の真昼の日差しに、アライのマットグレーのフルフェイスのヘルメットが鈍く光る。長袖のチェックのシャツ、ヘタったLevi's501。安かったナイキの黒いスニーカー。

本格派ライダーとは掛け離れたコーディネイト。


ハタチの僕は怖い物を知らない。


「厩務員募集中」ノダトレーニングセンター入口付近には年がら年中この看板が出ている。

本当か?


学校の校門をグレードアップさせたような立派なシャッターは、無防備に開いたまま。

2人の守衛は初見のへっぽこライダーに声を掛ける気配も無く、スルー。ノダトレーニングセンター、どうなってる?


進むと視界にはイエローとブルーのツートンカラーが派手な馬運車が2台、馬を車に乗せるステップだろうか。やや急なスロープ。アスファルトはここで終わりだ。


古臭い掘っ立て小屋が何棟か並び、土の空き地には汚れた藁が敷き詰められている。


ちょっと臭う。


のちに、これらを業界用語で「馬臭い」と言う。


昨日の雨の名残でまだ泥濘んだ道もある。

避けようがない。空き地の藁を踏む訳にはいかないのだ。何故か。

左目30メートルほど先に短パン、上半身裸のおっさんが見える。上半身に柄。3本刃のモリのようなものを器用に操り、藁を空き地に敷き詰めている。

柄は長袖Tシャツではない。

立派な入れ墨だ。


怖い物知らずの僕は、さらにスロットルを緩める。音を出してはいけない。


泥濘んだ道を気配を消しながら進むと、正面にコンクリートの壁。


右手にはさらに泥濘んだ道が続き、左手には事務所だろうか。3階建てのこれまた古臭い建物が確認できる。

僕は迷わず左にゆっくりと進み、騒音の元を断つ。


「ウラワケイバ管理組合」

建物の裏手に安っぽい立札を見つけ、立ち止まることなく戸をノックし、断りもなしに入っていく。6畳程の狭い部屋に、一人のおばさんがデスクで事務仕事だろうか。書き物をしている。

「こんちは。厩務員募集の看板を見て来ました。」

「あら、今は特に募集は、、、経験は?」

「ありません。」

「え?」・・・しばしの沈黙。

「厩務員募集中じゃないんですか」

「う〜ん、あの、、、」

しばしの沈黙。

初見のド素人。そもそもの行動が無謀なのだ。


しかし、ここであっさり事態が動く。


「昨日開業した調教師さんがいるけど、、」

チャンスだ。ナイスおばさん。よくやった。

「働きたいです。」


昨日に厩舎を開業したムラタ調教師は、与えられた馬房5つに対し、馬が3頭。師匠のカワシマ調教師の厩舎から馬房を借りている。開業当日、所属厩務員と喧嘩別れをして、今は独り身らしい。

そこに僕が現れたわけだ。


黒いヘルメットに眼鏡。紺色のジャンパーにベージュの乗馬用ズボン。乗馬ブーツ。身体は細く、頬は痩けている。


「なんだ?アンちゃん。」

東北訛りのひとこと。 


先程記述したなんちゃってライダーの服装に、サラサラの茶色がかった髪はキレイに真ん中で分けられている。幼さ全開の端正な顔立ち。肌の色は白く、全くこの場にそぐわない。





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