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 駁撃から許可は貰えなかったが、小越と二偽、そして小太刀の賛同を得て、俺達は独断で黄泉畑の救出を行う事に決めた。

 小太刀、二偽、小越の三人は基地の警備を数人無力化し、内部に侵入。その後別々の場所で同時に騒ぎを起こす。

混乱に乗じて基地に侵入した俺自身も騒ぎを起こして兵力をなるべく分散させる。俺以外の三人は徐々に基地の外側に移動する事で、俺側の警備を手薄にして、俺が黄泉畑を開放する……。という手筈だった。

「てめェは……。生きてやがったのか」

 目の前のA3隊員に向かって、俺は殺気を飛ばしながら言う。男は細く、そして長い息を吐くと、両腕を上に挙げた。

「なッ⁉」

「へえぇ?」

俺と黄泉畑から、それぞれで違う反応が出る。というか黄泉畑は、何でコイツと一緒に居るんだ?

 その疑問を俺が口にするより前に、A3の隊員は真剣な表情で言った。

「俺は、異能力に目覚めた。……明本に加入したい」

「——はァ⁉」

 何言ってんだコイツ⁉ 今まで散々俺達を殺してきた奴が、俺達の仲間になりたいだと⁉ ふざけんな!

「久留井さん、言いたいことは一先ずしまっておいた方が良いかと思いますよ」

「あァ⁉ ……いや、そうだな」

 感情が昂って言葉が出なかった俺に、黄泉畑は冷静な態度で言う。

 少し落ち着いて見てみれば、A3の隊員に囲まれていた。

 俺はA3隊員の男に背を向けて構える。この男もA3に狙われているのは事実らしいし、仮にA3を裏切っていないのだとしたら、黄泉畑という得体の知れない奴を連れているのはおかしい。

「……話しは後だ。俺が先導する。てめェは俺の後に続け。一直線に突破すンぞ」

 とはいえ、怪しい動きがあったら即座に——。

「え? 僕は担当無しですか? 一応戦えますよ?」

 黄泉畑の質問に、『その男を見張ってろ』と正直に言う事は流石にできず、目で『男を見張れ』と伝えつつ、言葉では別の内容を伝える。

「……ヤバくなった時のサポート頼む」

「了解です」

 俺達三人は、包囲網の中で一番手薄な所に突っ込んだ。


「ふゥ。脱出成功、だな」

「無事で何より。……だけど」

「何で! コイツが! 居るのよ!」

「……取り敢えず、黄泉畑さんがご無事で何よりです」

「皆さんに助けに来てもらえるなんて思いませんでした。ありがとうございます。何とか無事に皆さんと再会できた事、心から嬉しく思います。ああ、そうそう——」

「元A3隊員の、笹山弌生だ。……その節はすまなかった」

 俺達は何とか基地から脱出し、明本のアジトへ向かっていた。基地の外にあったA3の車を元隊員の男……笹山が運転し、俺が助手席に座り、他の奴等は後ろの座席や荷物置きに乗っている。

 当然、二偽と小越は敵意を剝き出しにしているし、小太刀はやや混乱している。

 小太刀は俺に素直な疑問を投げる。その答えは、黄泉畑と当の本人以外、皆知りたがっている。

「久留井。何故彼がここに……?」

「俺だって知らんよ。どうなんだ?」

「僕も知りませんけど、取り敢えずは休めれば何でも良いです」

 小太刀、俺、黄泉畑と疑問が右から左に受け流される中、イライラした様子の二偽が、強い口調で男に尋ねた。

「……何か言ったらどうなのよ」

 笹山は暫く苦々しい表情で黙っていたが、やがて口を開いた。

「昨日、恩人が死んだ。その恩人は、新型の兵器がきな臭いと感じて調査をしていた。そして、新型兵器を使い続けた俺は、異能力に目覚めた。もうA3には居られない。それに、A3が裏で明本と繋がっているかもしれない。だから——」

 俺は、そこまでで我慢が限界に達した。

「止めろ」

「……分かった」

 男は俺の言う通りに車を停車させた。

「降りろ」

「……」

 笹山は俺の言う通りに車から降りる。俺も続いて降りようとすると、小太刀が俺の腕を掴む。

「何を、する気?」

 小太刀の目は強く俺を見据えている。嘘は吐けない。……元から吐くつもりも無いが。

「ケジメを付ける。……アイツに何があったか、何でこっちに来ようとしているのかなんて知らねェが、俺らの居場所を貶されて黙ってる訳にはいかねェ」

 小太刀が、より強く俺の腕を掴み、引っ張る。

「そんな事をして、何になるの?」

「分かんねェなら良い。これは意地やプライドの問題だからな」

 俺は小太刀の腕を振り払うと、車から降りて首を一度回し、笹山を睨む。男は俺の行動の理由を察した様で、拳銃に手をかける。

「……死ぬ訳には、いかないんだ」

「なら半殺しで済ませてやっても良いぜ。俺らはてめェらA3の連中とは違って慈悲深ェからよ。……ッ‼」

 互いに戦闘態勢に入ると、俺は足の裏から波を放出。それを推進力にして笹山に急接近して両手から全力で波動を放つ。

 笹山は咄嗟に真横へ跳躍して攻撃を回避し、地面で一回転すると即座に姿勢を戻して拳銃を俺に向かって発砲する。

「小賢しい……ッ‼」

 以前に似たような攻撃を受けた事があったので対策はある。俺は右手の指先から波動を放出しながら空気を横凪に引き裂く。するとその部分で渦が発生し、銃弾をあらぬ方向に逸らした。

「何⁉ なら……これで、『撃ち抜け』!」

 笹山は驚愕したが、すぐに切り替えて拳銃をリロード。二丁の拳銃をほぼ同時に発砲した。狙いは恐らく、一発の弾丸をもう一発の弾丸で押し込む攻撃方法だ。

 なら、正面からその銃弾を吹っ飛ばしてやる。

「小賢しいッ! これで撃ち落としてやる‼」

 俺は左手で照準を定め、右手から一際強く衝撃波を放つ。銃弾と正面から衝突するコースだ。俺の放った衝撃波と銃弾がぶつかり、空中で閃光が迸る。

 そして……銃弾は俺の衝撃波を貫き、俺に迫った。俺は思わず身を躱し被弾は避けたが、明らかな隙を晒してしまう。

「くぅ……⁉」

「もらった——‼」

 その隙を見逃すはずも無く、俺は笹山の拳銃グリップ部分の殴打で気絶させられた。


 穏やかな、心地よい感触があった。『大切にされている』と伝わる様な、温かな柔らかさが。俺はその幸せな感触に包まれたまま、意識を取り戻す。

「……久留井、起きた?」

「——ああ。起きたよ」

 後頭部から伝わって来る、この柔らかな感触。そして小太刀の顔越しに見える空。恐らくこれは、膝枕というやつだろう。

 寝ぼけた頭での推測を『今気にするべきはそこじゃない』と切り捨て、身体を起こして辺りを見回す。

俺はどうやら、荷台で小太刀に介抱されていたようだ。

「俺は……負けたのか」

 運転席には、変わらず笹山が座っていて、無言で車を走らせていた。

「……俺からはもう何も言わん。他に、笹山が明本に入るのに異論がある奴は言え。力ずくで止める事も、俺は止めねェ」

 車内には重々しい空気が流れたが、珍しい事に小越が敵意を剝き出しに、笹山へ言った。

「あなたが明本に入る事に関してとやかく言うつもりはありません。ですが、僕と二偽さんには近寄らないでください」

「分かった。……可能な限り約束は守る。本当にすまなかった」

 二偽が静かだな……。そう思って小越の隣を見ると、既に一度戦いを挑んだのか、二偽の両足首には痛々しい銃創があった。塞がりかけているが。

既に異論のある奴とは話しをつけたって事か……。

そこから数十分車を走らせ、俺達はアジトに到着した。


「ここが、明本のリーダーが居る所か……」

車から降りて呟く笹山の目には、色々な感情が渦巻いている。当然だろう。A3隊員なら誰だってそうだ。

「一応言っておくが、変な気は起こすなよ」

「分かってるさ」

 小越と二偽には黄泉畑の介抱を任せ、俺と小太刀は弌生を駁撃の所へ連れて行く事にした。A3の隊員服を着ている弌生は明本のメンバーから襲い掛かられる可能性があるので、俺の服をてきとうに見繕って渡す。

「おら、これ着ろ。今の格好じゃ、事情を知らねェ奴に殺されかねねェ」

「……分かった」

 俺の服を受け取った弌生は素直に着替える。俺と服のサイズがほぼ同じなのは驚いたが、違和感の無い風貌になった。

「じゃ、行くか」

「——ああ」

 駁撃の部屋に向かう途中、弌生は何度も深呼吸をしていた。

 ……俺は、駁撃に事情をありのまま話すべきか、迷っていた。弌生の言葉を信じるのなんて馬鹿らしいが、コイツは確かに異能力を使っていた。恩人が死んだというのは分からんが、嘘を言っている様には見えなかった。

 さて、どうするか。


「おかえり、二人とも無事で何より。……そちらの方は?」

 部屋のドアを開けると、にこやかな表情で俺と小太刀、そして弌生を見る。

 俺は小さく呼吸して、口を開く。

「明本に加入していなかった異能力者です。A3に捕らわれていたので、黄泉畑と一緒に救助しました」

「⁉」

「久留井……?」

 俺の嘘に、弌生と小太刀が戸惑っているのが背後から伝わる。

「そうなんだ! 大変だったね。ここは他よりも安全だから安心して過ごしてね」

 だが、思いのほかアッサリと、俺の嘘は見逃された。

「え、ええ。ありがとう、ございます……」

 俺達三人は駁撃に頭を下げ、部屋から出る。

 部屋から出た途端、俺は笹山に胸ぐらを掴まれる。

「おい島津! 何のつもりだ、今のは!」

「落ち着け、お前の目的は明本に入る事じゃなくて、その先にあるだろう?」

「はぁ? 何が言いたいんだよ——お前まさか」

 察しの悪い笹山だが、数秒して俺の考えに気付き、驚きの声を上げて手を離す。

「その『まさか』だ。……俺もお前の目的に協力してやる」

 掴まれていた胸ぐらに寄った皺を伸ばしつつ、俺は言う。

「久留井⁉」

 小太刀は俺の言葉に目を見開く。今までそんな素振りは見せてこなかったから、驚くのも当然だろう。

「もし明本とA3がズブズブの関係なら、それを暴きゃ、異能力者の立場も、今よりはマシになるはずだ。何たって異能力者は『迫害された被害者』だからな。それに……四年前のあの日、俺達が殺した那御耶の人達の墓に、頭を下げに行きたい」

 俺が『那御耶』と言った瞬間、笹山の顔が強張る。

「私はそんなの望んでない。久留井さえ居ればそれで——」

 そこまで言った小太刀の言葉を遮って、俺は半ば告白の様な台詞を放つ。

「俺は望んでる。お前と色んな場所に行きたいし、色んなものを見て、色んな事をしたい」

「久留井……」

 小太刀の目には涙が滲み、溢れそうになっている。俺も今まで抱えていた想いを口にできて、かなり気が楽になった。小太刀の目から零れかけた涙を指で拭い、頭を撫でた。


「……イチャイチャしてる所悪いが、これから具体的にどう動くつもりだ? 俺はA3と明本が繋がっている証拠を押さえる為に動き回ろうと思っていたが……」

 俺と小太刀の間の空気を引き裂き、無遠慮に笹山は話す。

「そ、そうだな……。俺は人手を集めるかな。どうあっても、明本を信じる奴等とは戦わざるを得ないだろうから」

「私は、久留井の手伝いをするわ」

 各々、どう動くかはほぼ決まっていたようで、その話しはすぐに終わる。

「分かった。それじゃあ、三日おきに久留井の部屋で集まろう」

「「分かった」」

 話しも終わり、俺は少し休もうと自分の部屋に歩こうとし、そこで呼び止められる。

「島津」

「ンだよ?」

「……ありがとう」

 それは笹山なりの、精一杯の感謝だったのだろう。A3隊員にも事情はあるだろうが、何にしても、異能力者なんて憎い存在のはずなのに感謝の言葉を言う。……俺には、恐らくできないだろう。

「あァ。……一個訊きてェんだが」

「何だ?」

「四年前のあの日、『一一・一三』の時、お前は那御耶に居たのか?」

「……住んでた。家族と、友達が死んだよ」

「そうか。……悪かった」

 今更過ぎるし、謝ったから何が起きるでも無い。だが俺は謝りたくて謝った。自己満足だ。そんな自己満足の謝罪を受けた笹山は力なく笑った。

「……俺だって異能力者をたくさん殺した。謝罪を受ける資格は無いさ」

 それだけ言って、笹山は割り当てられた自身の部屋に向かって行った。

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