表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

仇討ち

 二〇二四年、冬。

 俺は自分のアジトを失ってから、明本のリーダーである宇津(うつ) 駁撃(ばき)の元へ転がり込んでアレコレと働いていた。

 A3と戦っている最中の劣勢なアジトの元に応援として出向くのが主な仕事だが、時々は中身の分からない箱を何も無い部屋に搬入したりしていた。

 しかし劣勢なアジトと言っても、基本的には異能力者の方がA3の奴等より強い。『念の為』として呼ばれる事はあっても本当に危機的状況だったことは、二ヶ月程経つが今の所は無い。

 そんな、良く言えば穏やかな……悪く言えば退屈な日々を過ごしていた俺は、暇になったタイミングで欠伸をしつつ適当な窓辺に寝そべった。

 開け放たれた窓の外から吹き込んでくる風が緩く俺の身体を撫で、俺の眠気は段々上がって行った。

「はあ……ァ」

 ぼんやりと天井を眺めつつ、瞼が重くなるのに身を任せて少し眠ってしまおうかと思っていたが、視界の中に見覚えのある人物がひょっこりと入ってきた。小太刀だ。

「……眠いの?」

「そうだよ。今は仕事も無ェし、ちょッとくらい、寝たッて……良いだろ」

 俺の答えに何を思ったのか、小太刀は俺の隣に寝そべった。

「お前も寝るのかよ」

「私も眠いの」

 本当か? 確かにいつも眠そうな顔してるとは思ったが……。

「そッか……。じゃ、おやすみ」

「ん。おやすみ——」

「寝ている場合じゃ無いですよ、そこのお二人? 『君達にはとあるアジトに行って貰う』と、駁撃さんからのお達しが出ています」

 俺と小太刀が目を閉じた瞬間、ヘラヘラとした笑みを浮かべ芝居がかった動きでとある人物がやって来る。

 俺はコイツ……。黄泉(よみ)(はた) (はな)が嫌いだ。自分以外全てを見下した様な、嫌な薄ら笑いを浮かべているし、他人を不快にする話し方で無駄に喋りやがる。

 俺は不愉快な気分になりながらも身体を起こし、敵意を隠さずに花の方を見た。

「……お達しだァ?」

「ええ、ええ。『駁撃さんからの命令』ですね。とあるアジトからの定期連絡が途絶えたらしいのです。そのアジトに居る人間からすると、何事も無い時に連絡を怠る事は有り得ないので、一度赴いて調査をしてほしいとの事でした」

「調査ねェ。……ま、命令なら行くしか無ェか」

 まあ察するに、『A3と戦闘になった可能性がある』って事なんだろう。面倒だが確認する必要があるのは理解できる。

 俺が立ち上がると、小太刀も無言で立ち上がった。付いて来るつもりらしい。

「黄泉畑、そのアジトの場所が分かる地図はあンだろうな」

 黄泉畑はニマニマしながら俺に近付き、用意していた紙の地図と想定される状況が書かれたメモを渡してきた。

「勿論です。A3との遭遇が多少なりとも予想されますし、その辺りは抜かりありません。もし資料に間違いや不足があったらそれこそ命で償いますとも。当然の事です」

「まァ資料があるのは良いんンだが……。あとお前の言う『命』程軽い物は無ェぞ」

「これは手厳しい」

「行くぞ。小太刀」

「分かった……ふぁ」

 地図とメモを受け取った俺は、ウトウトしている小太刀を連れて外へ出た。

地図を見ると、目的地と現在地には結構な距離があった。どうしたものかと考えて辺りを見回すと、そこには一台のサイドカー付きの大型バイクがあった。

 「地図からすると結構遠いな。……だからアレ使えッてか」

 困ったな。俺はバイクの運転なんか出来ないんだが。

 そう思っていると、小太刀が躊躇い無くバイクに跨り、ペダルの様な位置にある何かを蹴ってバイクのエンジンをかける。

「乗って」

「お、おう……」

 バイク、運転できるんだな……。


俺と小太刀は指定されたアジトに向かっていたが、目的のアジトが近付いて来た時、俺達の反対側で、アジトを後にする車を見た。

 俺と小太刀の間に緊張が走り、無言で目配せをしてからバイクのエンジンを切り、アジトから死角になる位置に停める。

「小太刀、俺ァさっきの車を追う。お前はアジトの中を見ろ」

 小太刀の顔を見ずにそう言う。車の後をつける為に走り出そうとした俺は、後ろから引っ張られて仰け反る。

 振り返ると、小太刀が俺の腕を掴み首を左右に振っていた。

「小太刀?」

「遅かった。さっきのは、A3の車両。恐らく彼らは……」

 小太刀が諦めた様子なのに腹が立ち、俺は思わず掴まれている腕を振り払う。

「ッ……なら尚更だ! 仇を討ってやる!」

「駄目ッ‼」

「⁉」

 小太刀が叫ぶ所が珍しかったのもあるが、それ以上に……小太刀が、泣きそうな表情なのに面喰ってしまい、俺は言葉に詰まる。

「さっきの車の台数は一。そして見た所、付近に別の車も無ければ、車が破壊された形跡が無い」

「つまり、何が言いてェんだよ」

 俺が振り払った腕をもう一度掴み、小太刀は続ける。

「アジトの襲撃を行ったのは、『車一台で済むほどの少人数』……つまり、物凄い手練れ。そんな手練れの中に突っ込むのは、得策じゃない」

「お前……」

「私だって頭には来る。けど、冷静になって」

 小太刀は既に、アジトに何が起こったのか、誰が起こしたのかを分析していた。

一方、俺は感情に任せて突っ走りそうになって……。

「悪ィ。……冷静になるわ」

「足りない所は補い合えば良いし、意見が違うならしっかり話せば良い。……だから、気にしないで」

「だな。早めにアジト内で何が起きたかを見て回って帰るとするか」

「うん」

 そこまで話して気付く。

「なァ。そろそろ、手ェ離してくんね?」

「あ、ごめん」

 小太刀の手が離れる。柔らかくて温かく、そして小さい、微かに震えている手だった。隣を見ると、小太刀の頬は少し赤くなっていた。

 こんな時に隣ばっかり見て、アジトの連中に申し訳無ェ。


 結局、アジトの一階は血の海だった。二階には血だまりが二つ。何があったかは明白だ。

しかし……。

「妙だと思わないか、小太刀」

「遺体の傷跡から見るに、襲撃者は二人……多くて三人」

「そこだ。確かに小太刀は『アジトの襲撃は少人数』だと言った。実際、状況を見りゃあその通りなのは分かる」

 だが、三人ってのはどう考えたって少なすぎる。車は五、六人が乗れるサイズのものだった。となれば、人数は五か六人のはず。

「どう思う、小太刀」

「……」

 小太刀は、自分の右手を右こめかみに当て、目を瞑っている。考え込む時の癖だ。

本当に襲撃者が三人以下の人数だった場合、あの車で来る必要はあったのか? そんなのは、『アジトに来てから乗員数が増えるから』以外には——。

 いや、待て。逆なんじゃないか?

 『車で来てアジトを襲撃した』のではなく『アジトを襲撃してから車で帰った』のでは?

 そこまで俺の思考が回ったタイミングで、小太刀が口を開く。

「一つ、仮説はあるけど」

「聞かせてくれ」

 小太刀は頷き、話し始める。

「まず、A3の……仮に三人は、アジトを襲撃する為に、歩きでここまでやって来て、アジトを制圧。その後基地と連絡を取って、車に『三人と追加の何名か』を乗せて帰投した。こんな所かな」

「俺も概ね同意だ。さて、後はその理由だが……。そこまで考えるのは俺達の役目じゃねェな。捕虜を取られている可能性があるんだし、早く戻って指示を仰ごう」

「うん。……でも、その前に」


そこから俺達は、アジトの中に放置されていた遺体の服の一部をナイフで切り取り、遺体は目を閉じさせてから、なるべく一か所に固めた。

遺体の中に、聞いていたアジトのリーダーの姿は無かった。

 小太刀はアジトから出ると、アジトの中にお辞儀をしていた。俺もそれに倣って、同じように頭を下げる。

 お前らの仇、必ず取るからな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ