決戦
目が覚めた。気持ちとは裏腹に身体は好調だった。
集合場所へ赴くと、弌生達はまだ来ていなかった。集合時間よりも三〇分も早いのだ。当然と言えば当然か。
「おや、そこに居るのは久留井くんかナ? おはよう。朝が早いね」
声のした方を向くと、そこには蛇女が居た。
「アンタもな」
「私は、この盤面においては観客だからネ。開園前に席に着いておくのは当然のマナーだヨ」
そう言うと、蛇女はどこかで見た覚えのある、サイドカー付きのバイクに跨り、エンジンを唸らせる。
「……なァ、一個、訊いて良いか」
「私が答えられるものならネ」
「何であのメモリを渡しに来た?」
その質問をした瞬間、蛇女の笑みが消え、少し考えて再び俺を見た。
「……まぁ、良いカ。答えてモ。……私の、二〇年来の友人の頼みだから、かナ」
「その友人ってのは?」
「穂乃果頼人だヨ。彼は自分が死んで場を掻き回す事で、より確実に、私を味方に付けようとしたのサ」
意外過ぎる人物の名前に、俺は混乱した。だが、『訊かないと』と思った。
「それは……何でだ?」
「知らないヨ。他人の思考なんテ」
そりゃそうだ。
「でもきっと、彼は……『守りたかった』し、『託せると思った』んじゃないかナ。自分にとって大切な人を守りたかったし、異能力者とA3、この二陣営の行く末を、託せるってサ」
真面目腐った顔で言う蛇女は、どこか切なそうで、それでいてどこか誇らしそうな表情をしていた。
「……おっと、そろそろ日付が変わるネ。それじゃあ主人公くん、さようなラ」
蛇女は普段の調子に戻って言うと、律儀にヘルメットをしてバイクを走らせて立ち去った。
日は、まだ明けない。
二〇二五年、七月三一日。午前〇時三〇分。
「今日が最後の戦いだ。……皆、生き残ろう‼」
弌生は場に良く通る、しかし喧しくはない声で号令をかけ、那御耶の中心にある、駁撃のアジトに向けて進軍を開始した。
「……何かあったか?」
俺が後部座席で弌生を見ていると、弌生は気付いて声を掛けて来た。特に何があった訳でも無いので、俺は首を横に振って景色を眺める。
ただ、『コイツなら託せる』って思われるのに、納得が行った。
明本の連中が潜んでいるアジトの隣や間近を通る時も、一切の攻撃や妨害が無かった。
「嵐の前の……ってやつか」
「……」
数〇分ほど車を走らせ、遂に俺達は、駁撃の根城に到着した。
「行くぞ……。突撃ッ‼」
弌生が全体に指示を飛ばすと、A3の隊員は総出でアジトに突入した。それに対し、異能力者も総出で迎え撃った。すぐに辺りは血と火の海になり、壮絶な叫び声が辺りに轟いた。
「小越、二偽、頼む!」
俺と弌生が駁撃の居る部屋に通じる階段を上がる際、階段の入り口で二人見張ってもらう。二人は階段に張り付くと、その場から動かず、誰も入れないようにする。
「……なあ、島津」
「何だよ、こんな時に」
駁撃の居る部屋のドアを開ける直前、弌生は俺に向かって笑みを浮かべた。
「俺、お前とは友達になれそうな気がする」
「……そうかよ」
ドアを開けると、そこには——。
「……吉郎、さん?」
「よう弌生。冴は元気か?」
「……よう、爆弾野郎」
「随分強気だね。何か対策でも立てて来たのかな?」
そこには、駁撃と、よくわからないジジイが居た。
俺は戦闘の構えをとったが、隣の弌生は目を見開き、呆然としている。
「気を付けろ、弌生。……若い男の方は、空間を爆弾に変えて来る。……弌生? おい、弌生‼」
「何で……。何でだよ吉郎さん、アンタそこで、何してんだよ……‼」
駄目だ、弌生は完全に混乱してる……!
俺は駁撃とジジイの方を見た。ジジイは二ヤリと嗤って、弌生に言う。
「まあここじゃ何だ。冴も交えて話そうじゃないか。付いて来い、弌生」
「お前ッ‼ 冴ちゃんに何した!」
激高した弌生の言葉を受け流したジジイは、俺と弌生の間に割って入り、そのまま弌生をどこかへ連れて行こうとする。
「だから、話そうと言っているだろう? ——ああそうだ、駁撃。そこの男はお前に任せるぞ」
「悪い、久留井。そっちは任せる」
「待てよ、何が何やらさっぱりだ——」
弌生とジジイどこかに行くのを止めようとすると、俺の背後で爆発音がした。
「ッ‼」
「君の相手は俺だってば」
「……わァったよ。そんなに戦って欲しいンならやってやる‼」
俺は、駁撃との戦いに集中する事にした。
「おらァ‼」
「おっと……これはどうかな?」
俺は両足の裏から発した衝撃波で宙を舞い、常に移動しつつ攻撃を仕掛けるが、悉くを相殺され、撃ち落とされていた。
「くっそォ……。決め手どころか一発も当たらねェ。どうすれば」
壁に手をつき、両脚からの波動でホバリングしているが、駁撃の弱点が見当たらない。……どうする。
「降りて来なよ。分かってるだろう? 今のままじゃジリ貧だ。賭けるしか、無いんじゃないかな?」
分かりやすく俺を挑発する駁撃だが……確かに、唯一の可能性は、完全に賭けになるな。
俺は駁撃の言う通りに床に降り立ち、走り出す構えを取る。
いわゆる『クラウチングスタート』の姿勢だ。
「へえ……賭けに出るんだ? 良いね、乗った!」
駁撃は俺の目を見て笑うと、両手の指をいつでも鳴らせる状態にして言い放つ。
「ふうぅ……ッ‼」
俺は尻を上げ、そのまま走り出す。しかし、衝撃波を全て背後に回しており、完全に宙に浮いて、猛烈な速度で駁撃目掛けて突っ込む。
「それじゃあ、突破はできないね‼」
駁撃は指を鳴らし、自身を取り囲む様に空気を爆発させる。確かに、今の『だけ』では、突破は出来ないだろう。だが……。
「小太刀の仇だァァ‼」
爆発の直前、俺は自分を中心に、波動をドリルの様にして身体に纏わせた。波動のドリルは爆風に孔を穿ち、そのまま駁撃の頭を粉砕する。
「小太刀……勝ったぞォ‼」
しかし俺の身体は爆風でボロボロになっており、そのまま床に倒れ、気を失ってしまった。




